少女、不審者を見る

 リリィはいつも通り探索へ出かけていた。店番はアビーに任せてある。多少の不安はあるが、アビーは探索にもあまり行かないので、リリィが探索に行くしかないのだ。


「これは使えそう」


 リリィは相変わらず小石を拾っては使えるか判断して、使えそうなものはゲートリングで倉庫へ送っていた。


 ドスン!ドスン!


「っ!」


 どこからか大きな物が歩くような音が響いてきた。リリィは身を低くして音がした方を目指してみる。


 そこにいたのは普段遺跡の中にいるはずの岩石兵ゴーレムナイトだった。岩石兵ゴーレムナイトは2mぐらいの岩で出来た魔法生物だ。動きは遅いが岩で出来た身体は堅く、岩の重みで叩いて来る攻撃はとても重い。前衛では厳しい魔物だが、魔法使いにとってはまだ戦いやすい魔物である。


「この距離ならいけるかな」


 リリィは岩石兵ゴーレムナイトに照準を合わせる。


「炎よ・仇名す者を・貫く・槍となれ・ファイアランス!」


 リリィが使ったのは火属性の中位魔法だ。以前の模擬戦でロイスが使った魔法だ。しかし、その大きさはロイスのファイアランスより二回りぐらい大きい。


 ズガン!!


 リリィの放ったファイアランスは岩石兵ゴーレムナイトの胴体を突き破り刺さった。そしてファイアランスは膨張していき


 ドガン!!


 大きな音を立てて爆発した。その爆発で岩石兵ゴーレムナイトはただの岩となり動かなくなった。


「よし!」


 リリィは岩石兵ゴーレムナイトを倒した場所に行き、素材の品定めを始める。


「えっと・・・この石は使えるかな?・・・あ!これ希少鉱石だ!」


 今回の岩石兵ゴーレムナイトの中に希少な鉱石があったのだ。


「えへへ。今日は運がいいみたい」


 リリィは一人でニヤニヤと笑い始める。


「さて!次に行こうかな」


 リリィはまた歩き始めた。



 暫く歩いていると、黒いコートを羽織った二人組のハンターらしき男達に出会った。


「こんにちは」

「ん?なんだ?このガキ」


 二人の内一人がリリィを見て不機嫌そうな顔で睨んできた。


「ん、君はあの店の」

「あ!覚えててくれました!」


 もう一人は以前一回だけ骨董品屋アメリースで買い物してくれたお客だった。リリィも変わった鍵を買ったお客として印象に残っていたのだ。


「なんだ?貴様の知り合いか?」

「いえ、この嬢ちゃんは例のあれを買った店の奴でして」

「初めまして、骨董品屋アメリースで働いているリリィです」


 リリィは自己紹介をした。


「ふん。その骨董品屋のガキがこんなところで何をしている」


 相変わらず威圧的に話しかけてくる男にリリィは少しだけ後退った。


「すまんな、嬢ちゃん。これでもこの人は凄い人なんだ」


 もう一人はそこまで威圧的ではないにしろ、変に持ち上げているような気がした。


「い、いえ。私の方こそいきなり失礼しました」


 リリィはあまりここにいたくないと思い、その場を後にしようとする。


「待ちな!」


 しかし、威圧的な声で止められてしまう。


「あんたに聞きたいことがある」

「な、なんでしょうか?」


 リリィはびくびくしながら聞き返す。


「この辺りに誰も潜ったことがない遺跡とかないか?封印や鍵が掛けられていてもいい」

「閉ざされた遺跡ですか?」


 リリィは考え込んだ。


 閉ざされた遺跡とはそのままの意味だ。明らかに入口のような場所なのに中に入れなかったり、封印等をされていて、入れなかったり、気が付かない遺跡のことを主に指す。


「閉ざされてはいませんが、向こうにこの前発見されたばかりの遺跡はありますよ」

「・・・発見されたばかりか」


 男は考え込んだ。


「兄貴、行ってみましょう。発見されたばっかりなら可能性はありますぜ」

「・・・そうだな。ガキにしては使える奴だ」

「嬢ちゃん、ありがとな」


 二人の男はそう言って、以前セレナと守護者ガーディアンと戦った遺跡の方へと歩いて行った。


「・・・・・・・怖かった~」


 リリィは男達が見えなくなると、その場に座り込んだ。


「それにしても変な人達だったなぁ」


 変に気が立っているというか、隠しているようにも見えた。


「・・・・・・隠す?」


 リリィは暫くの間、そこで考え込むのだった。



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「ただいま」

「おう、お帰り」


 骨董品屋アメリースに帰るとアビーが珍しくお客の対応をしていた。


「お!リリィちゃん、おかえり」

「やっぱここに来たらリリィちゃんの顔を見ないと損する気分になるよな」

「ほう・・・俺はいても得はないというわけか」


 お客の反応でアビーは少し威圧感がある声で言った。


「い、いや!ここには必要な物を買いに来ただけだ!」

「そうそう!別にリリィちゃんがいなくてもここには来るぞ!」

「・・・そうなんですか?」


 今度はリリィが少し潤んだ目でお客に訴える。


「「うっ」」


 お客の二人のハンターは黙り込んでしまう。


「くっくっく、あはははは!」

「くすくす、ふふふ」


 アビーとリリィは同時に笑い出した。


「あ!お前ら!はめたな!!」

「とんでもない店だな!」


 ハンターの二人はやられたと思い声を荒げる。


「わりぃわりぃ。ちょうどいいタイミングでリリィが帰ってくるもんだから」

「あ!ひどいです!私のせいにしないでください!」


 そして、リリィとアビーの言い合いが始まる。


「「・・・・・・」」


 ハンターの二人はリリィとアビーのやり取りを見てポカーンとしてしまう。


「やっぱりこの店は面白いところだな」

「なんかはめられるのも悪い気がしなくなってくるよ」


 いつの間にかハンター達の怒りは何処かに行ってしまっていた。


「本当に悪かったな。これサービスしておいてやるよ」


 アビーはそう言って水の魔石を一つずつ渡した。


「お!いいのか?」

「ああ、詫びってやつだ」

「そういうことなら受け取っておくよ」


 ハンター二人はそれを懐にしまった。


「またいらしてくださいね」

「ああ、もちろんさ」

「ここみたいな店は他にねぇからな」


 ハンターの二人はそう言って店を出て行った。



「もう、いきなりお客様を脅した時は何かと思いましたよ!」

「お前だって泣き落とし使ったじゃねぇか!」

「「・・・・・・」」


 二人は睨み合った。


「っふ、これが俺達らしいのかね」

「かもしれませんね」


 結局、いつまでも二人はこのままなのであった。


「じゃあ、私は下に整理にいってきますね」

「おう。あ、そうだ。ここの魔石の補充頼む」

「どれくらいですか?」

「えっとな・・・赤と緑を10個ほど頼む」

「わかりました」


 リリィは地下の倉庫へ向かった。



 --------------------------



「うーんと・・・これはこっちで、これはこっち」


 リリィは今日の戦利品を整理していた。


「あと魔石を出さなきゃ」


 リリィは魔石のしまってある棚に向かう。


「えっと赤と緑をってわわっ!きゃ!!」


 バシャーーン!!


「うぅ・・・冷たい」


 リリィは風の魔石を取ろうとした時に、隣にあった水の魔石を転がしてしまい落としてしまったのだ。リリィが驚いて出た時の魔力に反応して水の魔石が水に変わったのだ。結果、リリィは頭から足の先までびしょ濡れになってしまった。


「リリィ、大丈夫か?すげぇ音がしたが」


 音が聞こえたのかアビーが地下に下りて来た。


「は、はい。大丈夫です」


 リリィは立ち上がりアビーに返事をした。


「大丈夫ってお前びしょ濡れじゃねぇか」

「あははは・・・ちょっと魔石を落としてしまってその・・・つい」


 リリィは少し恥ずかしそうに言った。


「まぁ、火の魔石じゃなかっただけましか」


 アビーの言う通り、火の魔石じゃなくてよかった。火の魔石だったら火傷をしていたかもしれないし、最悪の場合、火事になっていたかもしれないのだ。


「じゃあちょっと着替えてきますね」

「おう、片付けは俺が」


 パサ


 アビーが何かを言っている途中にリリィの足元に何かが落ちた。


「・・・・・・」


 アビーは落ちた物に視線を動かそうとして、途中で後ろを向いた。


「ん?どうしたの?アビーさん」


 リリィは何が起こったか分からずにアビーに聞いた。


「いや・・・その、わりぃ、少し見ちまった」

「ん?何を?」


 アビーがいきなり謝ってきたので、リリィは不思議に思い聞き返す。


「その・・・下・・・見てみろ」

「下・・・」


 アビーの言う通り、リリィは下を見てみる。リリィの足元には布が二種類落ちていた。一つはヒラヒラしたスカートの様な物。もう一つはリリィが穿いていたパンツの様な物だ。


 リリィはギギギと音を立てる様に前を向きアビーの方を見る。


「・・・・見ました?」


 リリィは顔を茹蛸のように赤くしながら聞いた。


「・・・すまん」


 アビーの答えは見たという肯定の返事だった。


 水の魔石だけではなく風の魔石も反応して小さな風の刃が発生し、リリィのスカートとパンツを少し切ってしまったのだ。そして、ぎりぎり耐えていたのだが、水を含んだスカートとパンツの重さで切れて落ちてしまったのだ。


「き、着替えてきます!!」


 リリィは下半身を隠しながら、急いで自分の部屋へと走って行った。


「・・・まだ生えてないんだな」


 アビーは見てはいけないものを見てしまった。それに一瞬しか見てないのにやけに鮮明に覚えているのだった。



 この日、リリィはアビーの顔を見る度に顔を赤くしていた。



 --------------------------



「おい!そっちに行ったぞ!」


 ここはルインの街から離れた場所にある遺跡の内部だ。そこにハンターの男の声が響いた。



「こっちだ」

「は、はい!兄貴!」


 黒いコートを羽織った二人組の男達は遺跡内の岩陰に身を潜めた。



「くそ!見失った!」

「まだ近くにいるはずだ!探せ!」


 ハンターの声が二人の男の近くで響き渡る。


「入口は固めておけ、逃げるならそこを通るはずだからな」


 一人の黄色いスカーフを腕に巻いたハンターが指示を出す。黄色いスカーフは第3部隊の遺跡探索や管理を中心に動くハンター協会の部隊だ。



「兄貴、どうします?これじゃあ逃げれませんよ」

「・・・少し待て。ずっと警戒するには相手の人数は少ない。その内、隙ができるはずだ」


 兄貴と呼ばれた男は漆黒の花の装飾が施された剣を手に構えた。


「俺が走り出したら付いてこい」

「わ、わかりやした」


 そのまま二人は身を潜めた。


 それから暫く経った時、見張りにいた3人の内、二人が少し離れた所で話を始めた。


 その隙を見逃さずに黒いコートの男は走り出した。後ろから置いてかれないようにもう一人の男もすぐに後を追う。


「貴様!っぐ」


 警備をしていた一人は奇襲で声を出そうとしたがすぐに首を切られて倒れてしまう。


「い、いたぞ!!」

「逃がすな!!」


 話していた二人のハンターもその状況に気が付き、仲間に知らせる。しかしその時にはすでに夜の闇の中に黒いコートの男達は姿を消しているのだった。



 --------------------------



「邪魔をするよ」


 翌日の昼ぐらいに骨董品屋アメリースにハンター協会第1部隊隊長のロイスがやって来た。


「あ、ロイスさん。こんにちは」


 リリィはロイスに気が付き挨拶をする。


「こんにちは、リリィ」

「よっ!どうした?今仕事中だろ?」

「ああ、そうだよ。その仕事でここに来たんだ」


 ロイスは真剣な表情で言ってきた。


「・・・なにかあったのか?」


 ロイスの真剣な表情にアビーは嫌な予感を覚えた。


「ああ、昨日の夜。ある遺跡の探索中の第3部隊の隊員が謎の二人組の男に襲撃された」

「なに?」

「二人組の・・・男?」


 アビーとリリィは驚いた。


「ああ、第3部隊は新しく発見された遺跡の調査中だったらしい。その襲撃者共は調査資料を奪い、逃走する際に一人のハンターを殺害して逃げた」

「おいおい、そいつは物騒な事件だな」

「新しい・・・遺跡」


 アビーは他人事のように聞いているが、リリィは顔を青白くして震えだした。明らかに昨日リリィが会った黒いコートを羽織った二人組の男のように感じたからだ。もしそれが本当ならリリィがその場所を教えてしまったことになってしまう。


「おい、リリィ。どうした?顔色悪いぞ」

「む、嫌な話を聞かせてしまったかな」


 アビーとロイスは人が殺された話をしてリリィが顔を青白くしたと思ったようだ。


「い、いえ・・・その」


 リリィはそのことを話そうか迷っていた。もしこれが本当なら自分のせいで人が殺されたのだから。


「・・・リリィ。話してみろ」

「何を言ってるんだ?アビー」


 いきなりそんなことを言いだしたアビーにロイスは疑問に思った。


「リリィ、知っているんだろ?その襲撃者のこと」

「っ!!」

「なんだって!?」


 リリィの表情から余裕がなくなった。ロイスも驚いてリリィの顔を見る。


「リリィ、前に言ったな。俺は何があってもお前の味方だ。何があっても守ってやるって」


 アビーはリリィの目をじっと見た。リリィもアビーの強い瞳を見つめ直した。


「・・・・・・教えたんです」


 アビーの言葉を信じてリリィは話し始めた。


「ごめんなさい!私が教えてしまったかもしれないんです!!」


 リリィは泣き出してしまった。


「すまん、店を閉める」


 アビーは客が入って来ないように店を閉めた。


「リリィ、何を誰に教えてしまったんだい?」


 ロイスはリリィが怖がらないように優しく問いかけた。


「昨日・・・探索している時・・・二人組の黒いコートを羽織った男の人に会いました」


 リリィはゆっくりと話し出す。


「それで・・・少し男の人が怖い感じで・・・探し物があるって・・・」

「探し物?」

「・・・それはまだ見つかっていない遺跡・・・そう言ったからこの前セレナさんといた見つけたばかりの遺跡を・・・」


 リリィのその話を聞いてほぼその男達が犯人と見ていいとロイスは考えた。


「リリィ、その男達の特徴とか分からないかい?」

「・・・二人共黒いコートを着てて顔はわからないです。でも、コートの下に黒い花が付いた剣を持っていました」

「黒い・・・」

「花の・・・剣」


 リリィのその言葉を聞いたらロイスだけではなくアビーまで目を見開いた。


「あの・・・なにか・・」

「ああ、すまない。ちょっと驚いてしまってね」

「・・・ロイス。何かわかったら教えろ」

「・・・それでどうするつもりだ?」

「・・・・・・」


 アビーの目はリリィが見たことのない目をしていた。見るだけで人を殺しそうな目だ。


「例えわかったとしても、その状態の君に教えるわけにはいかないな」

「・・・んだと?」

「自分の顔を鏡で見てみるんだな。リリィ、情報の提供ありがとう。少し前に進めたよ」


 そう言ってロイスは店を出ようとする。


「おい!!逃げるのか!!」

「逃げるんじゃない。僕は前に進むだけだ。君こそ後ろばかり見ていないで前を見たらどうだ?」

「っ!!」

「じゃ、これでお暇するよ」


 今度こそロイスは出て行った。



「あの・・・アビー・・・さん?」


 リリィはまだ目に涙を溜めていたが、アビーの様子がおかしく感じて話し掛けた。


「・・・すまん。今日は一人にしてくれ」

「は・・・はい」

「それと・・・今回のことは・・お前の所為じゃないから気にすんなよ」


 アビーはそう言って自室へと戻っていった。


「・・・・・どうしちゃったの?アビーさん」


 リリィはこんな気持ちは初めてだった。リリィの話を聞いた後のアビーはアビーじゃない誰かに見えてしまったのだ。


 この日、夕飯をアビーの分も作ったリリィだったが、アビーは自室から出てくることはなかった。

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