少女、買い物へ行く

 リリィの風邪が治ってから数日が経った。季節は夏に入り、じりじりと熱く感じる日が増えてきた。


「こんにちは」


 そこへ骨董品屋アメリースにお客が入ってきた。


「いらっしゃいませ、ってあれ?」

「やっほ!エリーちゃん」


 お客としてやって来たと思った人はセレナだった。


「セレナさん、どうしたんですか?」

「ちょっと時間が出来たら来てみたのよ」


 セレナは水色のワンピースを着ていた。青い髪のセレナにはとても良く似合っていた。それに最近続く暑い日の中で見ていて涼しそうな恰好だ。


「エリーちゃんって店番している時もその格好なのね」

「はい!これ可愛いですから」


 エリーはその場で一回転する。


「確かに可愛いわ。エリーちゃん」


 すると、セレナは辺りをきょろきょろと見渡し始めた。


「えっと・・・ここの店主さんは?」

「アビーさんですか?それだったら外で釣りしていると思いますけど」

「へ?釣り?」

「はい」


 セレナは目をぱちくりとして驚いた。


「ここって今営業中よね?」

「はい、だから私がこうして店番しているんです」


 リリィにとっては当たり前の日常なのだが、セレナにとってはこんな子供に働かせているのに、店主は釣りして遊んでいるということが許せなかった。


「えっと、リリィちゃん。店主ってあそこの人?」

「はい、そうですよ」


 セレナが開けた扉からは川の淵に腰掛けて釣りをしているアビーが見えていた。近くに焚火を作っているので魚は釣れているのだろう。いや、よく見るとすでに魚を焼いている。そして魚が焼けたのか串に刺さった魚を持って店に戻ってきた。


「お?客か?」

「えっと、一応はお客様ですね」

「一応?」

「あの初めまして。私はハンター協会第1部隊副隊長のセレナと申します。以前こちらのリリィ様にお助け頂いたのでそのお礼に参りました」

「ああ、あんたがリリィの言ってたセレナか。模擬戦の時に見た顔だな」


 リリィはアビーがセレナに怒るかと思っていたが、そうではなかったので意外そうな顔をした。


「ん?エリー、どうした?」

「いえ、てっきりセレナさんに対して怒っているのかと」

「ああ、リリィを危険な目に遭わせたのは許せんと思うが、こいつはわざわざ休日を使って謝りに来た。なら俺は怒る必要はない」

「ならよかったです」


 リリィは内心ほっとした。


「私は確かにあの時のことを謝りに来ました。ですが、新たな事実に対しては貴方に不満を持ちました」


 セレナは謝っている時とは違うオーラを纏い始めた。


「セ、セレナさん?」


 リリィは恐る恐る声を掛けるが聞こえていないようだ。


「不満?」


 アビーは何のことだと首を傾げる。


「なんでこんなに可愛いリリィちゃんを一人で店番なんてさせているのですか!!」

「「・・・・・・はい?」」


 リリィとアビーは意味が分からなかった。


「なんでって言われてもここに私が住まわせてもらっているからですけど」

「それはわかっています。私が言いたいのはリリィちゃんが一人働いているのに店主である貴方が釣りなんかして遊んでいるのですか!」

「は?別にいいだろ。暇だし」


 アビーはいつものことなので適当に流す。


「しかしこれでは一人で働いているリリィちゃんがかわいそうです!」

「そうなのか?」


 アビーは当の本人に聞く。


「いえ、店番も楽しいですから特には」

「だ、そうだが」


 リリィは何年もやっていることなので特に気にしていない。これがここの日常なのだから。


「でも傍から見たらどうなんです!」

「傍から・・・ねぇ」

「お客様はもうこれが当たり前だと思っているので問題はないかと」

「だ、そうだが」


 リリィはお客と話をすると、アビーはああいう奴だと認識されているのがわかるのだ。


「・・・貴方はそれでいいのですか?」


 セレナは何だか馬鹿らしくなってきた。


「はぁ、もういいです。それより店主であるアビー殿にお願いがあるのですが」

「なんだ?リリィはやらんぞ」

「出来れば欲しいですが、今日は別件です。リリィちゃんにこの前のお礼として何かを買ってあげようかと」


 セレナはあの時のお礼を言葉だけで終わらせたくなかったのだ。だから少ない休日を使い、こうやってここに訪れたのである。


「なので、リリィちゃんを半日程お借りしたいのですが」

「ん?別にいいぞ。あ、リリィ、これ食ってけ」

「わぁ、ありがとうございます!」


 アビーは手に持っていた焼き魚を渡した。


「では、リリィちゃんがそれを食べ終わったらお借りしますね」

「あいよ」

「おいしいです」


 この日はセレナに連れられて買い物に行くことになった。



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 リリィとセレナは遺跡の街ルインの一番賑やかな場所である中央通りに訪れていた。ここは、飲食店や武具、洋服等の店がほとんど集まっているのだ。昼過ぎということもあって人の往来が凄かった。


 リリィとセレナははぐれないように手を繋いで歩いていた。


「リリィちゃんはお洋服とか欲しくないですか?」

「ん~・・・今はこれで満足していますけど」


 リリィは今の服には愛着がある。だから別にすごく欲しいとは思わなかった。


「でもほら、たまには違う服とか着たくならない?」

「それはあります。可愛い服ならなおさらです」

「じゃ、あそこいきましょうか」


 そう言ってリリィが連れられてこられたのは、ハンターのご用達の服をコーディネートをやっている洋服店だった。


「ここって」

「ここはね、ハンター用の丈夫な生地が置いてあるの。で、色々アレンジをしてくれる店で女性のハンターに人気が高いのよ」


 セレナは上機嫌でこの店の説明をしながら店内に入った。


「おや?セレナ様じゃないか。どうしたんだい?」


 店に入ると店長であるおばさんが出てくる。


「お久しぶりです。実はこの子の服を見繕ってあげようかと」


 セレナはそう言って後ろにいたリリィを前に出した。


「おばさん、お久しぶりです!」

「お、リリィちゃんじゃないか!久しぶりだねぇ」

「え?お知合いですか?」


 セレナはリリィがここの人と知り合いだとは思ってなかったのだ。


「ああ、リリィちゃんが今着ている服もここで作った服だからね」

「そうなんですか!?」

「はい、そうですよ。ここで同じ服を何着か作ってもらっているんです」


 リリィは今着ている服と同じ服を数着持っている。お気に入りなのでいつも着ていたいとアビーに頼んだら何着か買ってくれたのだ。


「ん、リリィちゃん。また大きくなったかい?」

「はい、少しだけど身長も伸びましたし・・・そのここも少しだけ大きくなったみたいです」


 リリィは少し恥ずかしそうに胸を触る。


「そうかい。ならまた後で採寸をやらせておくれ。少し大きいサイズを作っておくから」

「ありがとうございます!」

「・・・・・・」


 仲の良さそうな二人を見てセレナは固まっていた。


「そ、それよりリリィちゃんをいつもと違う服を私が買ってあげようと思うのですが、プロである貴方か見て良い服はありそうですか?」

「ん~、そうだねぇ。リリィちゃんは可愛いから何でも似合うとは思うけどねぇ」

「やっぱそうですよね!」

「お?セレナ様もそう思いますか?」

「それはもちろん!」

「じゃあ色々試してみましょうか!」

「それは素敵ですね!」


 セレナと店長のおばさんは妙に気があったようで話が盛り上がっていた。


「えっと、私はどうすれば」


 リリィは少し嫌な予感を覚えつつ聞いてみる。


「セレナ様、試着室にリリィちゃんを連れていってもらってもいいですか?」

「もちろんです!」

「え?え?え?」


 リリィは連行されるようにセレナに試着室に連れ込まれた。



 --------------------------



「えっとこれは?」

「メイド服です。知りませんか?」

「いえ、知ってはいますけど・・・」


 リリィは今ロングスカートのメイド服を着ていた。


「なんでこんな服があるのですか?」


 リリィはそこに疑問を持った。メイドとはお世話係の人だ。ハンターの服を取り扱う店にこの服があることに違和感を感じた。


「それはお偉いさんの警護をする戦うメイドもいるからねぇ」

「あ、そうなんですね」


 リリィは納得した。


「じゃあ、次はこれで!」

「は、はい!」


 セレナの妙な気迫に押されて着替え始めるリリィ。


「あら?リリィちゃんって大胆ね」

「下着姿も可愛いわ、リリィちゃん」

「へ?あっ!?」


 リリィは慌ててカーテンを閉めた。リリィは慌てて着替えようとしたのでカーテンを閉めずにメイド服を脱いでしまったのだ。外からは見えない位置なのだが、公の場で下着姿になったのはさすがに恥ずかしかった。


「えっと・・・これは」


 リリィは着慣れない服に四苦八苦していた。


「リリィちゃん、もう平気?」

「ちょっと待ってください」


 今着替えているのは貴族の人が着るようなドレスだ。いつもと勝手が違う服に苦労していた。


「き、着れました!」


 リリィの声でカーテンが開く。


「「おおおおお!!」」


 二人は凄くいい表情で見てきた。


「リリィちゃん素敵!!」

「本当にお姫様みたいだねぇ」

「そうだ!水着とかもあります?」

「あるよ。もう夏だからね」

「へ?水着!?」


 リリィは産まれてから一度も水着なんてものは着ていない。店や探索で忙しくてそんな余裕がなかったのだ。


「リリィちゃんに合いそうなサイズを持ってきたよ」


 暫くすると数着の水着をおばさんが持ってきた。


「さ、リリィちゃん着替えて」

「え?え?」


 リリィは訳も分からずに水着を渡されて着替えることになった。



「どう・・・ですか?」


 リリィはこんなに肌を露出する服を着るのは初めてで頬を赤く染めていた。といっても今着ているのはワンピースタイプの水着で水着の中では肌の露出は少ない方だ。


「可愛いわ!」

「うん、似合ってるねぇ」

「次はこれね!」

「え!?ほとんど下着じゃないですか!?」


 渡されたのはビキニタイプだった。


「いいからいいから」

「最近の水着はほとんどがビキニタイプだよ」

「ふぇ~~~!!」


 リリィは仕方なくビキニタイプの水着を着ることになった。



「ど、どうですか?」


 リリィの顔は先ほどより真っ赤だ。隠している部分は下着と変わらない。おへそも丸見えだ。


「うん!可愛い!リリィちゃんスレンダーなのに結構胸あるのね」

「確かに前の時より大きくなっているね」

「あの、胸ばかり見ないでくれますか?」


 リリィは早く終わらせたい気分だった。


「て、店長!」

「なんだい?」

「最後にこれいってみません?」

「・・・いいかもしれないね」

「な、なんですか?」


 リリィは二人の気迫に押されてかけていた。


「リリィちゃん、これ今までみたいにからでいいから着てくれない?」

「これが最後だから頼むよ。リリィちゃん」


 二人が渡してきたのは重要な場所以外はほとんど紐の水着だった。


「むむむむむ無理ですよ!!」

「「これが最後だから!!」」

「うぅ・・・」


 二人に懇願されて着替えることになってしまったリリィであった。



「うぅ、見えてないかな?」


 リリィは今まで通り、肌のに直接、水着を着ていた。


「ちょっと動いただけで出ちゃうよ」


 一応は着れたのだが、胸はいつ水着からこぼれてもおかしくない状況だ。下の食い込みも凄くてすごくて動きづらかった。


「リリィちゃん、着れた?」

「は、はい!」


(そういえばさっきセレナさんが言っていたからってなんのことだったのかなぁ?)


 リリィは意を決してカーテンを開けた。


「「ぶふぅ!!」」

「へ?」


 カーテンを開けた途端、セレナとおばさんは今まで少し興奮していたこともあり、鼻血を出して倒れそうになる。


「リ、リリィちゃん。下着は?」

「へ?下着?」

「私言ったじゃない。からでいいって」


 セレナは鼻血を拭きながらリリィの身体をカーテンで隠しながら言った。


からって何なのですか?」


 リリィはその言葉の意味が分かってなかった。


「あのね、リリィちゃん。水着の試着は下着のからするものなのよ」

「へ・・・下着のから・・・・・・・」


 それを聞いたリリィの顔は今まで以上に赤く染まった。


「それを早く教えて下さい!!」

「暴れないで!リリィちゃん!見えてる!見えてるから!!」

「うわーーーん!!」


 リリィは恥ずかしさで死にそうになるのだった。



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 服屋を後にして今は帰り道


「うぅ、恥ずかしかったです」


 リリィの顔はまだ赤かった。


「ごめんね、リリィちゃん」

「いえ、私が無知だったのが悪いのですから」


 リリィは水着は全て肌の上から直接着ていた。水着を着たことがないリリィは水着の試着の際には下着の上から試着することを知らなかったのだ。


「でもいいんですか?こんなに買ってもらっちゃって」


 リリィの手には服がいっぱい入った袋が握られていた。


「いいのですよ。せめてのお詫びです」


 そしてセレナの手にもリリィの服が入った袋が握られていた。


「そうですか。ありがとうございます。セレナさん」

「どういたしまして。私も良いものも見れましたし」

「ん?何か言いました?」

「何でもないですよ」


 二人は夕焼けの中、骨董品屋アメリースに帰って行くのだった。



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 翌日


「おお!リリィちゃん、珍しいね。似合っているよ」

「リリィちゃんのメイド服姿が見られるなんて感激だ!」

「あ、ありがとうございます!」


 リリィは試しに昨日買ってもらったメイド服を着て接客をしてみたのだ。お客からの反応は上々でリリィも嬉しくなる。


「いやぁ、本当に良い物が見れた。ありがとう、リリィちゃん」

「いえ、こちらこそお買い上げありがとうございます」


「おはよーっす」


 リリィが一人で店番をしていたら2階からアビーが起きて来た。


「あ、おはようございます!アビーさん!」

「お?なんだ?リリィ、メイド服なんか着て」

「昨日セレナさんに買ってもらったんです!どうですか?」


 リリィはその場で一回転する。


『おお!!』


 すると、店内にいるお客から歓声が上がった。


「あ~・・・似合ってていいと思うぞ。うん、可愛い」

「あ、ありがとうございます!」


 リリィはアビーが少し言葉に詰まったのが気になった。


 この日は一日メイド服で店番をするリリィであった。



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「アビーさん、夕飯出来ましたよ」

「おう・・・っていつもの服に着替えたのか?」


 リリィは店を閉めるといつもの魔法使いの服に着替えた。


「はい、なんかアビーさんの顔が微妙そう顔だったので」


 朝、リリィを見て感想を言った時、言葉に詰まっていたので、自分には似合っていないと思ったのだ。


「いや、メイド服は凄く似合ってて可愛かったぞ」

「え?あ、ありがとうございます。でもそれだと何であんな顔を?」


 リリィは疑問に思った。


「あ、ああ、それはな」


 無言でアビーはリリィに近付いた。そして


「こうやってスカートを捲りづらいからだ!お、ピンクか」

「な、何をするんですか!!」


 バチン!!


 リリィのビンタがアビーの顔に炸裂した。


「いきなりスカート捲らないでください!」

「いや、あのメイド服はスカートが長過ぎて捲りづらいんだ」

「そんなこと聞いてません!」

「いや、今度試しにやってみるか」

「やらなくていいです!!アビーさん、ご飯抜きにしますよ!」

「すまん!謝るからそれだけは勘弁してくれ!」


 アビーは相変わらずだったが、メイド服姿を褒められたのはリリィにとっては凄く嬉しいことだった

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