少女、闇を払う

(聞こえますか?)

「っ!?」

「この声は・・・・」

「まさか・・・ねぇ?」


 リリィは頭の中に直接、ある女性からの声が聞こえてきた。アーシーとアリアにも聞こえているのか少し驚いている。


「え?」

(聞こえているようですね)


 リリィの思考が読めるのか、その声の主は安心したように言う。


(貴方は・・・ティアではないようですね)

「あなたは」

「リリィ!来るぞ!!」


 声に気を取られている間に、ティアの魔法陣から魔法が放たれるところだった。


「その指輪ごと消し飛ばしてやるわ!!」


 そして、魔法陣からリリィの方に向かって巨大な闇の砲撃が放たれた。


(指輪を)


 リリィは謎の女性の声が言わんとすることを何となく理解して、指輪をティアの方に向けた。


(呪文を)

「トランス・リベレイト!」


 その言葉で指輪から魔法陣が現れ、巨大な砲撃を受け止めた。

 それだけでなく、闇の魔力を指輪に嵌められた透明の宝石に吸い取られていく。


「何故その呪文を・・・」


 ティアはまさかの事態に狼狽をしている。


(行きなさい)

「リベレイト!」


 リリィがもう一度呪文を唱えると、指輪から光の奔流が放たれティアを飲み込んだ。


「ティア!」

(・・・・・ティアが乗っ取られているのね)


 リリィが叫ぶことで、その事に今気が付いたのか、謎の女性はそう呟いた。


 光の奔流に呑み込まれたティアはその場で崩れ落ちた。


 リリィは慌てて近くに行き、様態を見る。

 今の魔法で服は破けているが、外傷らしきものは見られなかった。


(これなら大丈夫よ)


 またもや頭の中に謎の女性の声が響く。


「あなたはいったい」

「どうしたんだ?リリィ」

「いえ、ちょっと声が聞こえて」

「精霊のか?」

「いえそれが・・・」


 独り言を言っているリリィに疑問を持つアビー。リリィもいきなり聞こえてきた声に少し戸惑っているところだ。

 しかし、リリィにとって何故か少し悲しいような嬉しいような・・・・そして、懐かしいような気がする声なのだ。

 リリィはそう考えていると。


(私は光輝の巫女の残滓とでもいうのかしら。既に遙か昔に死んだ者です)

「・・・・・・え?おかあ・・・さん?」

(・・・・・貴方はリリィなのですか?)


 リリィと謎の女性の声、いや、リリィの母親である光輝の巫女の残滓は驚きを隠せないでいた。


(無事に・・・無事にこの時代に出て来れていたのですね)

「うん・・・・うん・・・・・」


 リリィに母親の記憶はない。でも、覚えていないはずの母親の声になぜか涙が溢れてくる。


「おい、大丈夫か?」

「ぐす・・・うん」


 心配してくれるアビーに短く答える。


(ティアではなくリリィに渡ったのも何かの縁。それに負の怨念に囚われているのはティアなのですね。それなら宝石わたしの力を使いなさい)

「お母さんの力?」

(正確には宝石の力ですね。この感じだとアーシー達もいるのでしょう?)

「お久しぶりです。主」

「お久しぶりです。リュミエル様」


 アーシー達も驚きを隠せないでいたが、少し落ち着いたのか挨拶をする。


(ふふ、相変わらずアーシーは堅いわね)

「申し訳ありません」

(いいのよ。それより私を手伝ってくれたようにリリィの助けになりなさい)

「・・・・・・わかりました」


 その言葉を聞いたアーシー達は何かの覚悟をするような感じがした。


「いいか、リリィ。今から我々精霊の力を合わせて闇の魔力を抑え込む」

「そしたらリリィは全力でこの子を・・・ティアを光の魔力で攻撃をするの」

「でもそうしたらティアは」

「大丈夫だよ。リリィちゃん」


 後ろからアリアがやってくる。


「んー・・・光の魔力持っているこの子なら、光の魔力で死にはしないよー・・・・ねむい」


 ウィンディアも話に加わって教えてくれる。


「それより早くした方がいいぞ。今なら無抵抗だ。目が覚めてまた襲ってくるかもしれん」

「リリィちゃん、私達に少し魔力分けてもらえる?」

「は、はい!わかりました」


 アリアやウィンディアは特に暗黒の太陽までの道程でかなりの魔力を消費している。リリィは指輪に嵌まった宝石に魔力を分け与えていく。


(驚いたわ。リリィ、いつの間にこれほどの魔力を・・・。しかもこれは)


 光輝の巫女であるリュミエルも自分の娘の魔力の量に驚いているようだ。


「では行くぞ。リリィ達は少し離れていろ」


 アーシーの声で指輪から4体の精霊の光が出てきて、ティアの周りに漂い始めた。


 4色の光はティアを包み込むようにして、身体を浮かせ始めた。


「あ、あああああぁぁぁぁ!!!」

「テ、ティア!?」

(大丈夫です。恐らくティアの中にある負の怨念たる闇の魔力が反応しているのでしょう。リリィは早く魔法を唱え始めなさい)

「そ、そんなこと言われても」


 リリィは光の魔法はあまり知らない。というか、思い付きで使う魔法ばっかりだ。この闇の魔力を打ち払える魔法なんてまだ使ったことはない。ディバインロアは範囲が広いので、この闇の魔力を打ち払うのは難しい。


「えっと・・・もっと範囲を絞るイメージで・・・」

(リリィ?)


 リュミエルも自分の娘が即席で光の魔法を創っているということを知らないので、どうして魔法の詠唱を始めないのか疑問に思っていた。


「ふぅ・・・」


 リリィは一呼吸をして、集中を始める。

 その間にティアの闇の魔力は最初の頃より減衰してきている。


「聖なる光よ・闇を払う光となれ」

(ん?)


 リュミエルは自分が知っている光の魔法と違うことに気が付く。


「聖なる光は一条を貫け・貫くものは全てを浄化せよ・セイグリッドレイ!!」


 リリィが放った魔法は人一人は飲み込むほどの太い光の線となって、前に翳した手から放たれた。


 一瞬でティアを飲み込み闇の魔力を霧散させていく。


 光が収まった後は、傷を負わずにいた裸になったティアが寝そべっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・アビーさんはここにいてください」

「あ、ああ」


 流石にティアの裸を見せるわけにもいかないのでアビーにここにいるように言って、リリィはティアに近付いた。


「ティア・・・」

(大丈夫そうよ。ティアの中に闇の魔力はもう無いわ)

「そう・・・。よかった」


 リリィはほっと一息ついた。ティアも息はしているので一安心だ。


(っ!?リリィ!逃げなさい!!)

「え?」


 リュミエルの言葉の意味を理解する前に頭上に闇の魔力が再び集まり始めていた。


『器が無くてもこれだけの魔力があれば何でも出来るぞ』


「ま、まさか・・・」

『ここは我が居城。落ちよ』

「なっ!」

「リリィ!?」

『お前もだ』


 突然地面が無くなり、空高くにある暗黒の太陽からリリィとアビー、それからティアや精霊達と一緒に夜の空へと放り出されてしまうのだった。



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 リリィ達が暗黒の太陽で戦っている頃、地上ではロイスとセレナが街の中心部にある広場で複数の守護者ガーディアンと対峙していた。


「くっ」


 流石に守護者ガーディアンの数が多く、二人は苦戦せざるおえない状況だった。


「っ隊長!きゃっ!!」


 セレナはロイスが押されていることに気を取られて、守護者ガーディアンの一撃で吹き飛ばされてしまう。


 何体かはロイスとセレナの二人で倒せてはいるのだが、広場の中心にある巨大な穴から次々と守護者ガーディアンが沸いてくるのだ。


 上級魔法であれば一掃は出来るかもしれないが、ここは街の中心部。被害のことを考えると、上級魔法は使えない。


 よって、一体ずつ倒すことになったのだが、この惨状だ。他のハンターは街の外周で戦っているので、助けは来ない。


 ロイスは守護者ガーディアンの攻撃を上手く掻い潜り、セレナの側に行く。


「大丈夫か?」

「な、なんとか」


 セレナは震える足でなんとか立ち上がる。


「こっちもなんとかしないと不味いな」

「ですね」


 二人が集まったことで、守護者ガーディアン達が二人を囲んでいたのだ。そして、その囲いの輪は徐々に狭くなってくる。


 そして、もう目の前に守護者ガーディアンが迫った時、守護者ガーディアンの中か漆黒の剣のようなものが生えてきた。

 そして守護者ガーディアンはそのまま崩れ落ちる。


「早く立て」

「お、お前は」


 そこにいたのは黒いローブを着たナハトの姿だった。

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