少女、協会へ行く
「おっす!」
「こ、こんにちは」
リリィとアビーは翌日、ハンター協会の第1部隊の部屋へ訪れていた。
「おや、珍しいじゃないか。アビーがここに来るなんて」
「うっせ!お前に頼みてーことがあんだよ」
アビーの言葉を聞いたロイスはアビーの目をじっと見てきた。
「・・・変わったな」
ロイスはアビーの中で何かが変わったのに気が付いたようだ。
「ということはリリィのお陰かな?」
「は、はい!」
リリィは関係はしているので元気よく返事をする。
「リリィ、恥ずいから余計なことは言わないでいい!」
アビーは逆に縮こまってしまった。周りからは第1部隊の隊員が数人いてクスクスと笑っている。
「まぁ、今のお前なら教えてもいいだろう。だが、本当に変われたのか一度勝負をやってみないか?」
「・・・いいぜ。今度こそ勝ってやる」
二人は突然、模擬戦をやることになってしまった。
「あ、あの!いいんですか!?」
「リリィちゃん、ほっときなさい」
「あ、セレナさん!」
後ろからセレナがリリィに話しかけてきた。
「男はね、基本的に馬鹿なの。話だけでは分からない鈍感な生き物なのよ」
「へー、そうだったんですね」
「「そこ!嘘を教えるな!!」」
アビーとロイスが声を揃えて反論をしてきた。
「まぁ、昔のエースだったアビー殿にも私は興味がありますから、見学はさせて頂きますよ」
「あ!それなら私も行きたい!」
「えっと?」
赤毛のポニーテールの女性が割り込んできた。
「この子はアリアって言うのよ」
「私はアリア、セレ姉から少し聞いたけど、君が魔法戦で隊長を負かした子でしょ?ついにこの隊に入ることになったんだね」
「え?入らないですよ」
「そ、そうなの!?」
何か勝手にアリアの頭の中ではリリィが隊に入ることになっていたようだ。
「はい、私はアビーさんの付き添いです」
「アビーってこの冴えない男?」
アリアはアビーを指差した。
「なぁ、ロイス。こいつ一発ぶん殴っていいか?」
「すまない。アリアはこういう奴なんだ。許してくれると助かる」
ロイスは頭に手をやって困り果てていた。
「なんか隊長からの評価が下がっているような気がする」
「アリア、気がするじゃなくて下がっているわ」
セレナは頭が少し残念なアリアに同情をした。
「えっと、アリアさんですね。よろしくお願いします」
リリィは改めてアリアに挨拶をする。
「うん、よろしく。リリィちゃんだよね?お持ち帰りしてもいい?」
「ふぇ!?」
突然お持ち帰り宣言をされてしまった。
「ダメよ。アリア」
「あはは~、そうだよね」
アリアも冗談だったので特に気にしていない。
「だって、リリィちゃんは私がお持ち帰りするんですから!」
「そうなの!?」「そうなんですか!?」
思わぬ言葉にアリアとリリィは驚愕してしまう。
「おい!俺のリリィは誰にもやらねぇぞ!」
『・・・・・・・』
アビーの突然に告白にその場は氷付いた。
「ア、アビーさん、そんな大声で宣言されると恥ずかしいです」
「・・・あ」
リリィは頬を赤く染めて恥ずかしがっていた。アビーもやってしまったという顔で固まった。
「ま、まあアビー、闘技場に行こう。ここで剣を振るわけにもいかないからね」
ロイスは無理やり一同を闘技場に連れて行くのだった。
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「本当にいいのかい?」
「いいって言ってんだろ。何回も言わすな」
アビーは柔軟をしながら答える。
「だが、サージュルコリエを付けているからといって、攻撃魔法が使えないお前相手に、私だけ魔法も有りというのは」
サージュルコリエはリリィとロイスの時の模擬戦で使ったネックレス型のオーパーツだ。装着者に危険が迫ると勝手に魔力を吸い取り、魔法障壁を張るものだ。模擬戦はこの魔法障壁が割れるまで続く。
「だってお前は剣と魔法を使った戦闘スタイルだろ?」
「まぁ、そうだが・・・なら一つだけ追加ルールだ」
ロイスはアビーを見ながらルールの追加を言ってきた。
「私もアビーも全ての強化魔法を使ってから戦闘開始はどうだ?私は自分でするが、魔法を使えない君はリリィに強化魔法をして貰って構わない」
「・・・いいのか?それだと勝っちまうぞ」
「お前はリリィと動く予定なのだろ?だったらリリィの強化魔法を使ったお前と戦ってみたいだけだ」
「・・・わかった。おい!リリィ!」
アビーは闘技場の真ん中辺りから大きな声でリリィの名前を呼んだ。
「は、はい~」
遠くからリリィの声が聞こえてくる。
「俺に強化を!」
アビーは簡単に命令した。リリィならそれだけでわかってくれる。
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「え?強化魔法?」
リリィは返事をしたものの、いきなり言われて戸惑っていた。よく見るとロイスの方は自分で強化魔法を試合前から掛けていた。
「あ、そういうことですか」
リリィはお互いに強化魔法を掛けてから勝負するんだと判断した。
「それなら・・・。猛き炎!清き水!母なる大地!天翔ける風!彼の者に祝福を!!エンチャントメント・カルテット!!」
『は?』
リリィが魔法を唱えると四色の光の帯がアビーに向かって行き、アビーを包んだ。
「な、な、な、何!今の!!」
「今のは前に私が受けた・・・」
「あんな強化魔法なんてあったか?」
「いや、初めて聞いた詠唱だ」
リリィの魔法を見た近くにいた第1部隊の面子は全員驚いていた。
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「っし!こっちは用意出来たぜ」
「相変わらずリリィの魔法には驚かされるよ」
ロイスはあんなに遠くから一度に全てを強化する魔法を掛けたリリィに感服した。
「じゃあ、始めようか」
「今回はそっちからでいいぜ」
アビーは剣を構えながら、ロイスに先手を譲った。
「いいのかい?」
「ああ、魔法でもいいぜ」
「・・・わかった。そうさせてもらおう!」
ロイスは剣を構え詠唱に入る。
「炎よ・仇名す者を・焼き尽くす・渦となれ・ファイアストーム!」
ロイスはアビーに向かって火属性の中位魔法を使った。炎の竜巻がアビーに向かって突き進んでいく。
「はっ!そんなもんで俺を止められるかっての!!」
何を考えているのかアビーは炎の竜巻に突っ込んでいった。
「いくぜ!!」
アビーは炎の竜巻に触れる前に身体を縮め、反動を付けて炎の竜巻に突っ込み、ロイスに斬りにかかる。
ガキン!!
「くっ!」
アビーは炎の竜巻を突き抜け、ロイスに斬りかかっていた。
「よく防いだな!」
「アビーこそ、まさか突っ切って来るなんてね」
二人は鍔迫り合いをしながら話した。
「今ならお前に剣でも負けないぜ?」
「それはどうかな」
二人はお互いを弾き飛ばし距離を取る。そして、目にも止まらぬ速さで二人はぶつかり合った。
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「あ、あの隊長と互角に斬りあってる?」
「ば、ばかな!隊長と同レベルなんて!」
アビーを知らない隊員達はアビーの思わぬ強さに驚いていた。
「これが昔のエースの力」
「ねぇ、セレ姉。その昔のエースってどういうこと?」
アリアはセレナにその言葉の意味を聞いた。
「聞いたことない?若干16歳で第1部隊の所属になったハンターの話」
「あ、それ前の先輩が言っていたかも」
「それが隊長と戦っているアビー殿よ。彼は剣の腕だけで第1部隊に入ったのだから、隊長と互角でもおかしくはない」
セレナは目の前で繰り広がれる剣の応酬に見とれながら説明する。
「え、でも今は」
「ええ、彼は協会をやめているわ。昔事件があった時にやめたとしか、私も聞いていないからそれ以上はわからないけど」
「そっかー」
二人は試合の行方を見守り始めた。
「・・・・・・・」
リリィも近くでその話を聞いていたが、その話には関与せず、ただアビーの戦いを見つめていた。
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「ははは!」
「くくく!やっぱおめぇとの戦いは楽しいな!」
二人はぶつかり合いながら、笑って楽しそうにしていた。
「だね。僕もこの前までの君と斬り合うよりは!全然楽しい!」
「そいつはよかったな!!」
話をしながらでもお互いに剣を休ませることなく振り続ける。辺りには金属同士がぶつかり合う音が響き続けていた。そして、また少し離れて二人は動きを止める。
「アビー、リリィがいてくれてよかったな」
「なんだよ急に」
ロイスはいきなりそんなことを言い出した。
「僕はアビーのことをずっと見てた。というか目を離せなかったんだ。メアリーが死んでから」
「・・・・・・」
アビーはロイスの言葉に耳を傾ける。
「ただ生きているだけ。あの時の君は本当にそれが全てだった。だから僕はいつか君が自殺しないか不安だった。だけどそれも終わる時がきた」
「・・・あいつだろ?」
「そうだね。君はリリィに出会ってから変わったよ。見てて不安はあったけど、良い方向に歩き始めた」
ロイスは懐かしそうに話す。
「だから僕も進み始めた。僕もあいつらのことは許せない。それで今の地位まで上った」
ロイスはアビーの目を見て言った。
「アビー、君は今になって僕に並ぼうとしている。僕がコツコツと積み上げていた物に追い付いて来ている。だから」
「だから、ここで力を示してみろ。てか?」
「いや、僕が勝ったら君にハンター協会に戻ってもらう。僕とここまで打ち合えるのは君ぐらいだからね」
ロイスは最初からアビーをハンター協会に戻そうとしていたのだ。アビーがいればそれだけで戦力はかなり上がる。
「ただの模擬戦じゃねぇのか?」
「模擬戦だよ。だが、何か賭けるものがあった方が盛り上がらないか?」
「それなら俺が勝ったら情報を貰うぜ」
「ああ、了解だ」
二人は動き始めた。
アビーは天性のカンとリリィの強化魔法の攻撃と速度で戦う。ロイスはリリィより劣るが自分自身の強化魔法と、剣の技量で戦う。二人の戦いはかなり拮抗した戦いになっていた。
「炎よ」
「させるか!」
ロイスはアビーと少し離れた時に詠唱を始めた。アビーはそれを阻止しようと斬りかかった。
キン!!
ロイスはアビーの攻撃を剣で受け止める。
「敵を・撃ち抜け」
「くそっ!」
キキキキン!!
アビーは攻撃を対処しながら詠唱をするロイスを止めようと連撃を畳み込んだが、全てをいなされてしまう。そして、アビーが剣を振った後を狙うようにロイスは剣を持っていない左手をアビーに向ける。
「ファイアボール!」
ロイスの魔法は下位魔法だが、完成してしまう。アビーは咄嗟に下がったが、少し掠めてしまった。
「よく動きながら魔法使えるな」
魔法は集中して魔力を操りつつ、詠唱をしなければならない。
「魔力を制御しながら動けるように練習したからね。後はこれに詠唱付ければ魔法が発動する」
ロイスは簡単そうに言うが、決して簡単ではない。魔力制御と詠唱、剣を持って相手の攻撃に対処する。これを同時にこなすのは相当な努力が必要と思われる。
「なら更に速く攻撃するまでだ!」
アビーは更に速度を上げた。
「くっ!」
動きながら魔法を使うのにはやはり集中力が必要だ。予想以上にアビーの動きが速く、ロイスは詠唱する余裕が無くなってきた。早くもこの戦闘方法の攻略法を見つけられてしまったのだ。
「魔法はどうした!」
「くそ!」
アビーはどんどん速度を上げていく。ロイスは剣の方も余裕が無くなってきた。だが、アビーの性格上、何処かで隙が出来るとみて、ロイスはアビーの剣を捌き続けた。
「おらぁ!」
アビーが少し大振りの攻撃を仕掛けてきた。
「はぁ!」
アビーの大振りの攻撃を紙一重で避けて、ロイスはアビーの胴体に向かって剣を走らせる。アビーもアビーで、すぐに切り返してロイスの肩を狙い剣を走らせる。
バリン!!
闘技場内に魔法障壁が割れる音が響き渡った。偶然なのか魔法障壁は二人同時に割れていた。
「・・・これは引き分けかな?」
「みたいだな」
二人はお互いに引き分けと判断した。
『わあぁぁぁーーー!!!』
闘技場の観客席で見ていた隊員達から歓声があがった。
こうして、二人の勝負はいつかまたやる時までお預けになった。
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「凄い凄い凄い!!」
アリアは凄い興奮して騒ぎ続けていた。
「本当に凄いわ。最後の方は何をやっているのかまったく分からなかったもの」
セレナも同様の感想みたいだ。
「隊長もすげぇけど、あの相手も強えぇな」
「ってか魔法に突っ込むとか普通しねぇよ」
「・・・俺としてはこの嬢ちゃんの魔法も気になるかな」
『それだ!!!』
「ふぇ!?」
誰かの呟きで協会のハンターの男達の視線が全てリリィに降り注いだ。
「嬢ちゃん!あの強化魔法はなんだ!」
「1回の魔法で全強化なんて出来るのか!?」
「隊長の強化魔法もすげぇけどよ」
「それを軽く上回るってなんだよ!」
「えっとえっと」
リリィは突然皆の注目を浴びてしまい戸惑ってしまう。
「皆さん、これ以上はリリィちゃんが困っています。あまり詮索しないように」
そこへセレナが間に入って静止してきてくれた。
「で、でもよ」
「副隊長は気にならないのか?」
「気にならない、と言えば嘘になりますが、今ここでそれを追求する必要はありません」
「いっしっし。本当はただリリィちゃんを独り占めしたいだけでしょ?」
いつの間にかアリアがセレナの隣にいて耳打ちをする。
「そそそそそんなはずないじゃないですか!」
「セレ姉、動揺し過ぎ」
二人は仲が良い姉妹に見えた。
「その、気になっていたんですけど、セレナさんとアリアさんって姉妹なんですか?」
「「え?違いますよ(違うよ)」」
「でもアリアさんはセレ姉って」
リリィは呼び方に姉が入っていたから姉妹と思っていたのだ。
「ああ、それはこの子が勝手に呼び出したのよ」
「だってお姉さんみたいって感じたんだもん。特にこのおっきなおっぱいとか!」
「な!何を言ってるのよ!」
リリィはセレナの胸を見てみる。確かにリリィやアリアよりかなり大きい。
「・・・まだちっちゃい」
リリィは自分の胸と比べてみて違いが分かると泣きそうになってしまう。
「リリィちゃんはまだこれからだから大丈夫よ!」
「そうそう!まだ14歳なんだからこれからだって!」
セレナとアリアは慌ててリリィを慰めた。
「お前らは何の話をしているんだ」
そこへロイスが話しに入ってきた。なんだかんだ話している内にアビーさんと一緒にここまで戻ってきていたようだ。
「リリィ」
「アビーさん、小っちゃくてごめんなさい」
リリィは少し混乱していたため、なぜかアビーに胸の小ささに謝った。
「いや、オレは別に大きさ何て気にしてねぇから」
「そ、そうなんですか!」
リリィは希望の光を見つけたように目を輝かせた。
「ああ、この前少し見た時は形は綺麗で可愛いと思ったぐらいだしな」
「み、見た・・・」
『・・・・・・・』
リリィは顔を赤くして俯いた。そして、アビーは周りの皆からは白い目で見られた。
「あ、あれはお前が!」
「アビー、お前はこんな年端も行かない少女に何をしているのだ」
「「サイテー」」
ロイスとセレナとアリアから非難の言葉がアビーに向けられる。
「違う!リリィ!お前があれを着たからだろうが!!」
「あ!あれは!!その」
「俺だってあんな透け」
「もう言わないで!!」
「ぐはっ!」
リリィは思考が出来なくなりアビーの鳩尾にパンチを喰らわせた。アビーはその場に崩れ落ちる。
「・・・なんだかんだでいいコンビなのか?」
「まぁ、心配はありますが」
「仲良しさんだね」
ロイスとセレナとアリアの言葉に周りの隊員達も頷いていた。
「お、お前ら・・・これ見て・・なんでそうなるんだ」
アビーは死にそうな声で呟いた。
「アビーさんはもっと・・・」
リリィはアビーを見下ろして注意しようとする。
「・・・白い」
「本当にもう!!」
「ぐふっ!」
倒れた拍子にパンツを覗き込んできたアビーの頭を踏みつけるリリィだった。
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