少女、痕跡を探る

「それでアビーさん、教えて貰った情報からどうやって探すんです?」

「そいつはな・・・・・・」

「今考えてますよね?」


 リリィの言葉にアビーは固まってしまう。


「・・・すまん、思いつかん」

「思いつかなかったんですか!?」


 アビーとロイスの模擬戦の翌日、リリィとアビーは街や遺跡の内部ではなく、街の周辺を探索していた。


「あれ?でもここまでしっかりとした足取りで歩いて来ましたよね?」


 リリィはアビーに付いていき、ここまで目的地が決まっているように歩いて来たのだ。


「ああ、俺のカンがこっちだと告げていたからな」

「カンだったんですか!?」


 リリィは呆れてしまった。先日、ロイスからせっかく情報を貰ったのにまったく役に立てていないのだから。


「やっぱ考えるのはリリィに任せる」

「ふぇえーー!?」


 リリィは情けない声を上げてしまう。そしてリリィは昨日、ロイスが教えてくれた情報を思い出すのだった。



 --------------------------



「なぁ、引き分けの場合はどうなるんだ?」

「・・・今回は僕の方は諦める。だが協力はしてほしい。情報は共有しよう」


 ロイスは少し迷ったが、今回の件は最重要と考え、アビーと共同戦線を張ることにした。


「・・・わかった。協力はするが、協会からの命令には従わねぇぞ」

「それでいい」


 アビーとロイスの模擬戦の後、ハンター協会の第1部隊の部屋まで皆で戻ってきていた。模擬戦は引き分けという形に終わったが、ロイスは折れて情報を開示することにした。


「まず、この前の第3部隊が襲われた事件についてだ」


 ロイスは改めてアビーとリリィを見る。


「あの夜、襲撃されたのはまだ発見されて間もない遺跡だ。調査も少ししか進んでいなかったようだ。だから、奴らに襲撃された遺跡についての資料はそこまではないらしい」

「・・・ということは他にも資料があったということですか?」


 リリィは質問をした。


「ああ、リリィの言う通り、取られた資料にはあの辺り周辺の遺跡が5つ程の情報が書かれていたということだ」

「その他の遺跡についてはすでに大体の調査は終わっているとのことです。しかし、特に偏屈もないただの遺跡だということでした」


 セレナが情報の補足をする。


「奴らの狙いは昔に聞いた物と同じというなら、何かの封印たやらが関係あるはずだ」

「ああ、昔失敗とかなんか言ってたな」

「何が成功なのかもわからんがな」


 ロイスは苦笑する。


「それとアビー。あれから僕は色々調べたことで奴らはある組織に所属していることが分かったんだ」

「組織?」

「ああ、名前を『闇夜の使徒』というらしい。僕も数年間調べてはいるが、その名前と奴らが全員漆黒の花の剣を持っていることしかわかっていない。だがもし、その組織が関わっている事件なら盗まれた資料の遺跡に行く可能性がある」

「・・・どういうことだ?」


 アビーはロイスの言っている意味が分からなかった。


「これは僕の憶測になるんだけど、この組織は一般的に入れない遺跡や封印された遺跡に行くことが多い気がするんだ。そして、取られた資料の遺跡の内二つは一部封印がされている扉が奥にあるんだ」

「その封印は解けなかったのか?」

「ああ、色々やったが封印は解けなかったようだ。だが奴らはこの封印された扉を狙ってくる可能性が高い。僕はそう睨んでいる」


 ロイスは真剣な顔持ちで言った。


「お前らの方では対処してんのか?そこまでわかってるんだろ?」


 アビーは既に調査やその遺跡周辺に人を置いていると思ったのだが


「確かにこの第1部隊から数人は出している。だが、今のところこれといった成果はない」

「あの、もっと人とかを増やせないのでしょうか?」


 リリィはこの場にいる第1部隊の人達を見回して言った。


「僕も増やせたら増やしたいんだけどね。ここはハンター協会という組織だ。他にもやるべきことがある。だからそれだけに人を全て振れないんだ」

「・・・そうなんですね」


 ロイスもこの事件は過去のメアリーを失った事件と繋がっているような気がしているのだ。だから全力でこの事件に取り組みたいと考えている。しかし、ロイスは第1部隊隊長だ。上からの指示もそうだが、隊員全員の命を扱う立場でもある。そのため、この第1部隊を自分勝手な理由で自由に動かすなんて出来ないのだ。


「そこで、お前が出来ないことを俺達にやって欲しいということか?」

「その通りだよ」


 ロイスはアビーの言葉を肯定する。


「こちらがわかった情報は僕かセレナが君達に伝える。その際に君達の得た情報もこちらに教えて欲しい」

「了解した」


 アビーも納得したようだ。


「それで私達は何をしたらいいでしょう?」

「任せる」

「「はい?」」


 リリィとアビーは同時に声を出した。


「君達は今の話を聞いて自由に動いて欲しい」

「・・・それでいいのでしょうか?」


 リリィはそれでいいのか不安だった。


「ああ、こちらから指示してしまうと同じ事の繰り返しになってしまうかもしれないからね。だから敢えて君達には命令はしない」


 ロイスはそう説明した。


「・・・わかった。ならこっちは好き勝手にやらせてもらうぜ」

「ああ、それでいい」

「え?え?」


 アビーとロイスの間ではもう決まってしまったらしい。


「それじゃあ、これからよろしく」


 この日はロイスにそう言われて、ハンター協会を後にしたのだった。



 --------------------------



「うーん・・・・」


 リリィは今、座りやすそうな岩に腰掛けて考えていた。


「リリィ、何か思い付いたか?」


 アビーは地面に座って聞いてきた。


「まだです。アビーさんも少しは考えてくださいよ」

「へーい」


 そして、リリィはまた考え始める。


(私が知っていることと、昨日聞いた遺跡のこと・・・。関係性・・・関係性・・・、私が話したあの二人のことだよね。見つかってない遺跡・・・。封印された遺跡・・・、封印されてるってことは鍵が掛けられてるって事だよね。鍵・・・かぎ?)


 リリィは何かを思い出しそうだった。


「もうちっと、もうちっとだ」

「・・・・・・何をやっているんです?」


 アビーは地面に座ったまま顔を変な角度にしていた。


「リリィ、もう少し足を開いてくれ」

「あ、はい」


 リリィは何の考えも無しに足を開いた。


「よし!今日はオレンジか!」

「って何で人のスカートの中を見てるんですか!!」


 リリィは慌てて足を閉じる。


 アビーはリリィのスカートの中を覗き込もうとしていたのだ。リリィも色々考えていたこともあり、アビーの命令に素直に従ってしまった。アビーの位置からはモロにリリィのスカートの中を見ることが出来た。


「もう、アビーさんもちゃんと考えてくださいよ」

「いや、考えてるぞ。どうやってリリィのパンツを見ようか」

「そんな事考えないでいいです!」


 リリィは頬染めて訴える。


「で、リリィは何か思い付いたか?」

「あれ?何か思い出したような・・・」

「しっかりしてくれよ。まだ若いんだから」

「アビーさんが変な事をするから忘れたんじゃないですか!」


 リリィはアビーと会話をするだけで疲れてきた。


「えっと・・・そう!鍵!」

「鍵?」


 リリィは何とか思い出すことに成功する。


「そう!鍵です!私が拾った遺物らしき鍵をあの人達は買っていきました!」


 リリィは何かのヒントにならないかと思い、アビーに教えた。


「鍵ねぇ・・・。その鍵ってどんなやつだ?」

「えっと大きさはこれぐらいで、何か模様みたいのが彫られてました」


 リリィは鍵の特徴を伝えた。


「それぐらいの大きな鍵はあまりないよな。いや、でもあいつらがその鍵を使える場所を探している可能性もあるのか」


 アビーが考え込む。


「あ、でもその鍵が落ちていた場所なら私覚えてますよ」


「マジか!ならそこに行ってみるぞ!」


 アビーは立ち上がり歩き出した。


「あ!そっちじゃないですよ!」


 リリィは慌ててアビーを呼び止めようと追いかけた。



 --------------------------



「兄貴、あの資料は使わないので?」

「あれは今じゃ手に余る封印だからな」


 黒いコートを着た男二人は遺跡の中には入らずに街の郊外を探索していた。


「偶然にもお前が見つけた鍵が意外に役に立ちそうなのでな。先にこっちを探すことにした」

「それは光栄ですぜ」


 二人は歩き続けた。そして、遺跡の残骸が広がる広い場所に出た。


「ここは・・・」

「ここは黒狼の遺跡だ」

「黒狼の遺跡?」

「お前はまだ組織に入ってから日が浅かったな」


 兄貴と呼ばれる男がもう一人の男に振り返った。


「ズズ、この遺跡。いや、この辺りの遺跡を中心にして眠って居られる方は知っているな?」

「ええ、あの方なら使徒に入った時に」

「ここはあの方を封印している4つの封印のある遺跡の内一つなのだ。そしてお前が持ってきた鍵、よく見ると狼の様な模様だと気付いた」


 兄貴と呼ばれる男は鍵をズズに見せてきた。ズズは目を凝らして鍵の模様を見ると確かに狼のように見えなくもなかった。


「この遺跡はもうすでに協会に調べられた後だが、隠し扉か何かがあるはずだ」


 男はそう言ってある場所を目指した。


「あ、兄貴!」


 ズズは後を追っていくと遺跡の入口らしき穴が地面に空いていた。


「ここ以外にも侵入経路はあるが、そちらは協会の犬がいる可能性がある」

「な、なるほど。だからここから侵入しようと」

「地面まではおよそ3mだ。強化魔法はかけておけ」

「は、はい!」


 男二人は穴の中へと消えていった。



 --------------------------



「アビーさん、今の話」

「ああ、ビンゴだ」


 その現場をリリィとアビーは影から見ていた。リリィの案内で二人はこの遺跡跡にやってきていた。そこへあの二人の男がやってきて会話を始めたのだ。


「アビーさん、追いかけます?」

「・・・いや、ロイス達に報告・・・いや来るのを待つんだっけか」

「でもこのままじゃ」

「・・・一回街へ戻ろう」

「・・・はい」


 リリィはせっかくの黒幕が目の前にいたのに何も出来ないことを悔やんだ。


「リリィ、これはお前の手柄だ。誇れ」

「でも何も・・・」


 リリィはしょんぼりとしてしまう。そうするとアビーはリリィの頭に手を乗せて撫でてきた。


「お前がいなかったら何も手がかりが得られなかったんだ。だからいいんだ」

「・・・ありがとうございます」


 リリィとアビーは一度、骨董品屋アメリースへと帰るのだった。



 --------------------------



 骨董品屋アメリースに帰ってきたのは夕方だった。こちらからの接触を避けていそうだとアビーが言うので、ハンター協会には顔を出さずに店の中で待機していた。


「こんばんは」


 そこへ一人の男のハンターの男がやって来た。腕には白いスカーフを巻いているので、ロイスやセレナと同じ第1部隊の所属の隊員だ。


「こんばんは」

「・・・・・・」


 リリィは挨拶を返したが、アビーはハンターの男を睨みつけているだけだった。それも気にせずに男は喋り出した。


「今日の報告ですが、こちらは特に進展はありませんでした。貴方達はどうでしたか?」

「あ、あのですね。実は」

「待てリリィ!!」


 リリィが話そうとするのをアビーが止めた。そして、先程より険しい剣幕でハンターの男を睨みつけた。


「お前は誰だ」

「私はハンター協会第1部隊に所属する隊員ですよ。隊長から指示を受けて報告に来たのです」


 ハンターは迷いなく言った。


「そうか・・・。本当にロイスの奴がそう言ったんだな?」

「当然ではないですか。出なければ私がここに来る理由はないですから」

「・・・・・・」


 ハンターの男の目を睨み続けるアビー。


「アビーさん、ロイスさんが言ってきた方ならいいのでは?」

「いや、お前は別の誰かに言われて来たはずだ」

「・・・何故そう思うのです?」


 ハンターの男は驚くことなく聞き返す。


「ロイスは俺達にこう言ったんだ。『こちらがわかった情報は僕かセレナが君達に伝える』ってな。なのにお前が来た。これはどういうことだ?」

「だから先程も言った通り隊長に・・・」


 ハンターの男は同じことを言おうとした。


「いや、ロイスの奴はそんなことをお前なんかに頼む理由がねぇ。奴は約束事をしつこいぐらいに徹底する奴だからな」

「・・・・・・」


 ハンターの男は黙り込んでしまった。


「流石だね。アビー」


 そこへロイスが入ってきた。


「やぁ、君はこんなところで何をしているのかな?僕の記憶が正しければ君は遺跡の警備に行っているはずなんだが」

「いえ、この者達と少し話しをしようと」


 ハンターの男は少し戸惑いながら言う。


「おい!さっきと言ってることがちげぇよな?」

「・・・・・・く、あーはっはっはっは!!」


 ハンターの男の表情が一変する。


「意外に騙されないんだな!ええ?」

「ロイス!」

「ああ!」


 アビーとロイスは男を捕獲しようと飛び掛かった。


「遅い」

「「っぐ!!」」


 二人は挟み撃ちでかかったのだが同時に捌かれてしまう。そして男はその隙に店の外へと逃げ出した。


「リリィ!」


 アビーの叫ぶときにはリリィはすでに詠唱を唱え始めていた。


「水よ・敵を・捕らえろ・アクアリング!」

「何!?」


 リリィの手から撃ち出された3つの水の輪はすぐさま男に追い付き、身体と手足に絡みつき捕縛した。


 水属性の下位の捕縛魔法。殺傷性も少なく、被害は濡れるだけなので一番安全に捕縛することに特化している魔法といえるものだ。


「くそ!」


 男は転がりながら毒舌を打つ。


「残念だったな」

「リリィの魔法は発動も速度も速いからな」


 アビーとロイスは男に近付きながら言う。


「さて、誰から命令を受けたんだ?」

「・・・・・・」


 ロイスの質問に男は黙ったままだった。その後も何度か質問したが、男は黙り続けた。そして暫く質問を投げ続けていると男に異変が起こり始める。


「うっ!・・・こ、これ・・・は」

「おい!どうした!」


 拘束されているとはいえ、男の苦しみ方はおかしかった。ロイスは心配して近付いた。


「っ!ロイスさん!離れて!!」

「っ!」


 リリィは嫌な予感がしてロイスに離れるように言った。ロイスもすぐにリリィの言葉を聞き、男から距離を取った。


「あい・・つめ・・・だまし・・・」


 男は奇妙な苦しみ方をする。


「が、があああぁぁぁぁ!!」


 パシン!


 男が咆哮すると共にリリィの捕縛魔法が解けてしまう。


「がぁ!」


 男は近くにいたロイスに殴りにかかった。


「っく!」


 ロイスは攻撃をぎりぎりで避けて、カウンターとばかりに男の腕を剣の抜刀と同時に切り捨てた。


「ロイス!後ろだ!」

「ぐはっ!」


 ロイスは切り落とした腕に脇腹を殴られて吹き飛ばされる。アビーもすぐに剣を構え、ロイスに加勢しようとした。


「こ・・・これって」


 リリィの目の前では切り落とされたはずの男の腕が元に戻っていく光景だった。


「ロイス!こいつはあの時の!」

「ああ!あの時遺跡で戦った!」


 アビーとロイスは昔のことを思い出していた。


 そして、男の両腕から闇が伸びて剣の形を取る。


 リリィはその光景に恐怖を覚えると共に何かを感じた。


 両腕から闇の剣を生やした男はアビーとロイスに斬りかかった。


「おら!」「はぁ!」


 二人もそれに応戦し剣を振るう。闇の剣は実体があるのか、二人の剣とぶつかり合っていた。アビーとロイスはお互いに邪魔にならないように戦いながらも、幼馴染ながらの連携も繰り出し、男を追い詰めていく。


「合わせろ!」

「はっ!」


 アビーの一言でロイスは少しだけタイミングを遅らせて剣を振るった。ロイスの剣を闇の剣にぶつかり、男を少し押し込む。そこへ同じ場所をほぼ同時にぶつからないようにアビーの剣が走る。男は更に後ろへ押し込みと同時に闇の剣を断ち切り、男の身体を引き裂いた。そして男から闇が溢れ出てくる。しかし


「ちっ!」


 アビーはすぐさま距離を取った。ロイスもすでに距離を取っていた。


「やっぱ、すぐに再生しちまうな」

「だね。完全にあの時と同じだ」


 二人が過去戦った、二人の幼馴染であるメアリーの命を奪った者と酷似していた。


「あの時は肉片も残らずにやったんだっけな」

「ああ、確かそのはずだよ」


 二人はどのように倒したのかを思い出す。


「ダメです!」


 そこへリリィの声が響いた。


「それだけでは本当の意味で倒せません!」


 リリィは二人にとって意味が分からないことを喋り出した。


「どういうことだ!」


 アビーはリリィに叫んで聞く。


「よく分からないですけど、あれを本当に対すには肉体ではなく、闇を攻撃しないと!」


 リリィは闇を攻撃して倒せと言ってきた。


「リリィ!闇とはあの剣か!」

「今はそうです!」


 リリィの言葉を信用するか一瞬判断に迷う二人だったが


「やってやる!」「やってみよう!」


 二人は同時に答えるのだった。


「はっ!」


 ロイスは闇の剣を攻撃するが、やはり剣同士がぶつかるのと似た感触が戻って来るだけで壊せる気がしなかった。


「ロイス!魔法だ!」


 そこへ入れ替わるようにアビーは男と斬り合いを始める。


「炎よ・仇名す者を・貫く・槍となれ・ファイアランス!」


 ロイスの魔法が放たれると同時にアビーは男から距離を取った。ファイアランスは男の闇の剣で受け止められる。本来ならファイアランスは最後に爆発を起こすはずなのだが


 しゅん・・・


「何やってんだ!」

「違う!闇に魔法の力が吸い取られた!」

「何だと!?」


 魔法で押せると思ったが簡単にはいかないようだ。


「光よ・彼の者に・聖なる輝きを与えよ・エレメント・ライト!」


 後ろから聞いたことがない属性の付与魔法が聞こえてきた。


 リリィの魔法はアビーの剣に纏い始めて、白い光を放ち始めた。


「アビーさん!それで攻撃を!」

「あ、ああ!」


 アビーは最初戸惑ったがすぐに斬りにかかった。アビーの剣は闇の剣に触れると闇を打ち消し始めた。そして、闇の剣を斬り裂き男を斬り付けた。


「こ、こいつは」


 アビーは驚きつつも攻撃をする。男は闇の剣でアビーの剣を受け止めようとするが、まったく効果を成さなかった。そして


「はぁあ!」


 アビーは闇の剣の根本を斬り裂き男の手も切り落とした。男を斬って身体から溢れた闇もいつの間にか出て来なくなり、男はその場で倒れ絶命した。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 アビーは連続で攻撃を仕掛けていたため肩で息をしていた。


「り、リリィ。さっきの付与魔法は?」


 ロイスはリリィに問いかける。


「わ、わかりません。でも何とかしないとって思ったらあの魔法が出ました」

「「・・・・・・ぷっ」」


 リリィの言葉を聞いたアビーとロイスはお互いに目を見て、噴き出した。


「あっはっは!流石リリィだぜ!」

「そうだな。まさかリリィに助けられるとは」


 二人は笑いながらリリィを称えて来た。


「な、なんで笑うんですか!」


 リリィは突然笑われて少し怒りだす。


「いや、リリィ。バカにしてんじゃねぇよ」


 アビーはそう言いながらリリィの頭を撫でる。


「俺達はな。昔に今のと同じ様な化け物と戦ったことがあるんだ」

「その時はハンター協会の人達が跡形もなく消すことで倒したんだよ」


 アビーとロイスはリリィに説明する。


「だが、そいつの身体から出てきた闇みたいなのはどこかに消えちまった」

「僕はそれを見ていないけど、アビーから報告受けたときは耳を疑ったよ。だけど今回は闇も消し去ることが出来た」

「だな。リリィのおかげだ。サンキューな」


 二人はリリィを誉めまくった。リリィは嬉しく感じ顔をにやけるのを止められなかった。



「さてと、こいつをどうするか」


 ロイスは男の死体を見て言った。一応この人物はハンター協会に属するハンターだ。何故このような事態になったのか調べる必要がある。


「今のこいつを調べても何も出ねぇんじゃねぇか?」


 アビーの言うとおり、もうこの男からは闇は出ていなかった。調べても恐らくはただの人間だろう。


「・・・そうだな。だが、こいつは僕の部下でもある。何があったかわからないが、丁重に扱うとしよう」


 ロイスはそう言って一度席を外した。信頼出来る部下を呼びに行ったのだ。リリィとアビーはその間、近くを念のため警戒していた。特に何も起こることなく、人を連れてきたロイスがやって来た。


「アビー、リリィ、今日は帰ることにするよ。また明日の朝に来ようと思う」

「あいよ、お疲れさん」

「お、お疲れさまでした」


 二人はロイスを見送った後、店の中へと戻った。


「「・・・・・・・」」


 二人は何も言わずに黙ったままだ。お互いにどう話したらいいか迷っているのだ。


 ぐ~~~


「・・・・・アビーさん?」


 突然鳴り響いたアビーのお腹の音にリリィは気が抜けてしまった。


「わりぃわりぃ、腹減っちまった」

「ふふっ。それなら、夕飯の準備しちゃいますね」


 リリィは少し笑って、そのまま台所の方へと歩いていく。


「あ、リリィ!今日は肉が食いてぇ!」

「はーい」


 アビーの注文を受けたリリィは調理を開始するのだった。



 --------------------------



「アビーさん、起きてる?」


 その日、リリィは一人で寝るのが怖くなり、アビーの部屋を訪れた。アビーはベッドの上で外を眺めていた。


「おう、どうした?」


 アビーはリリィの様子を見て何かを悟ったていた。この感じはまだリリィが来たばっかりの時と同じ感じがしたのだ。


「その・・・ね?えっと・・・」


 リリィはこの年にもなって一緒に寝て欲しいと言うのが恥ずかしくなり、ネグリジェのスカートの裾を握りしめて、頬を染めて俯いてしまう。


「一緒に寝るか?」

「え?」

「そのために来たんだろ?」

「・・・・・」


 アビーから言ってくれるとは思わなかったリリィ。思考が追い付かずに硬直してしまう。


「違うのか?」

「・・・違わない」


 リリィはそう言ってアビーのベッドに上る。


「ははは、昔の時と違ってちょっと狭いな」

「・・・うん」


 以前寝たことがあるのはリリィがまだ8歳の時だ。あの頃よりリリィは女性らしく成長し大きくなっている。


 アビーは横になり、その隣にリリィが横になる。ベッドは狭く、自然と腕が当たってしまう。


「・・・怖かったんだろ?」

「・・・うん」


 リリィは静かに答える。


「そういや始めてだったか?お前が人の死を見るのは」

「・・・うん」

「こんな時なんて言ったらいいかわからねぇが・・・」


 アビーはリリィを元気付けようとするが、良い言葉が出てこない。アビーはリリィの頭の下に腕を通し、肩を抱き寄せた。


「俺が付いててやるから大丈夫だ」


 アビーは力強く言った。リリィは心の中の恐怖心が薄れていくのを感じた。


「ありがとう・・・アビーさん」


 リリィはアビーの腕の中で眠りに就くのだった。




「・・・寝たか」


 アビーの腕の中で眠るリリィは安心しきっていた。


「ったく、これじゃ俺が寝づらいわ」


 アビーも男だ。リリィはまだ14歳とはいえ女性らしい身体になってきている。少しでも動くとリリィの香りがするし、柔らかい感触も伝わってくる。


「・・・・・・頑張って寝るか」


 アビーは目を閉じ、眠気に身体を預けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る