少女、釣りをする
「あ!ごめんなさい!」
リリィの声と共に川に水柱があがる。
「あ!すみません!」
リリィの声と共にバケツから、せっかく取った獲物が逃げていく。
「きゃぁ!ごめんなさい!」
「いい加減にしろー!!!」
アビーは口から虫を吐き出しながら、ついに切れた。
「アビーさん、虫を食べるのはどうかと思いますよ?」
「お前が入れたんじゃあ!!」
リリィと一緒に釣りをやってみたはいいが、アビーは散々な目にあっていた。リリィの竿の釣り針が服に引っかかり、針と一緒に川に落とされてしまったり、リリィの竿に魚が掛かり、慌てて竿を引こうとしたらバケツを蹴ってしまい、せっかく取った魚に逃げられてしまったり、リリィが虫エサを手に取ったら、突然暴れ出した虫エサに驚いて投げてしまい、アビーの口の中へと入ったり・・・。
「リリィ!お前何でさっきから俺を巻き込む!」
「うぅ・・・ごめんなさい」
今日は店を閉めてリリィとアビーは釣りをしている。なぜこんなことになったかと言うと・・・。
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数時間前
「また釣りですか?アビーさん」
「ん、いいだろ?別に」
店を開けているとアビーが釣り具を持って店から出て行こうとしていた。
「まぁ、魚は美味しいんでいいですけどね。でも、釣りってただ魚が来るまでぼーっとしているだけですよね?飽きないのですか?」
「あながち間違っちゃいないが・・・。結構面白いぞ?魚が掛かった時の手ごたえとか、釣れた時の快感っていうのか・・・。そういうのもいい」
アビーは自信が魚釣りにはまっている理由を並べて言う。
「ふーん・・・。そんなに面白いのですか」
リリィはアビーが釣りをやっている所を見たことがあるが、実際に釣りをしたことがない。アビーのことが好きかもと感じ始めてから、アビーの好きなことに興味を持ち始めていたのだ。
「・・・なんならやってみるか?道具ならあるしな」
「え!いいんですか!あ、でも店が」
リリィは嬉しそうに笑顔を咲かせるが、店があると気付き、すぐに萎んでしまう。
「まぁ、最近は店の方も最近売れ行きが良かったからな。一日ぐらい休んでも問題はない。それに緊急のお客だったら、釣りをする場所からなら見えるしな」
釣りをやるのは骨董品屋アメリースから見える川、徒歩数十秒の距離だ。何か困った客が見えたら気付くだろう。
「それならやってみようかな」
「おっし!そうと決まればリリィの分も竿とか用意しないとな」
アビーは普段仕事では見せることのない手際の良さで、ちゃちゃっと用意をしてしまう。
「・・・・・・・」
「ん?どした?」
アビーが自分をじっと見ているリリィが気になり、聞いてみた。
「いえ、店のほうでもこれだけちゃちゃっと動いてくれたらと思いまして」
「うっせ!」
そんなやり取りをしながらも二人は笑顔で準備をする。そして、店を閉めなくても問題は無いが、流石に不用心ということで、念のため鍵を閉めることにする。
そして、アビーがいつも釣りをしている場所までやってきた。
「おっし。とりあえず最初は俺がお手本として餌の付け方とか教えてやるから」
「うん、お願いします」
「まずはこの虫エサをだな」
「ナニコレ!?気持ち悪い!!」
リリィは虫エサであるミミズの様な虫を見て後退る。
「何ってエサだよ。エサ」
「・・・魚ってこんなの食べるの?」
「大体の魚はそうじゃないか」
「・・・こんなうねうねしてるのを?」
「そしてこれを食べた魚を俺達が・・・」
「ダメ!!それ以上言わないで!!」
アビーは事実を教えようとしたが、リリィはそれを拒んだ。
「うぅ・・・。もう魚は食べれないかも」
リリィは今までもその魚を食べていたと思うと吐き気がしてきた。
「リリィ、安心しろ」
「・・・ふぇ?」
アビーはリリィの肩に手を置き、真剣な眼差しでリリィを見つめる。
「この虫は俺達の中でも生き続けているから・・・」
「そんなわけないでしょ!!」
「ぐふ!」
リリィは達の悪い冗談だったのでついアビーを殴ってしまった。
「普通は気の利いた言葉を言うものでしょ!」
「・・・だから笑わせようと」
「逆に怖くなっちゃうよ!?」
二人はそんなやり取りをしながら、釣りをする準備を始める。
結局、最初はアビーがリリィのエサを付けてあげることになった。
「後はこうやって川に糸を垂らしてだな」
「こう?」
リリィはアビーの隣で見様見真似で川に糸を垂らす。
「竿を少し動かすんだ。虫が生きているように見せる感じでな」
「えっと・・・こう?」
「そうそう。上手いぞ。リリィ」
なんとかリリィも釣りを開始することが出来た。暫くそうやって糸を垂らしていると
「お、こっちは来たな」
アビーの竿の先が不自然な動きをしている。
「リリィ、実際になると分かるが魚が掛かったらビクビクって来る。これが魚がエサを食べている証拠だ。ただ、来たからと言ってすぐに持ち上げるな。奴らは警戒心が強い。エサが安全かどうかを確かめてから食べるんだ。少ししたら後は・・・」
アビーは一瞬竿をクンっと持ち上げてからゆっくりと竿を持ち上げる。
「ほらな」
「わぁ・・・」
アビーは見事に魚を釣って見せた。
「最後に一瞬持ち上げるのは、針を魚の口に引っ掛けるためだ。引っ掛けてしまえば奴らは逃げることが出来ないからな」
「なるほど・・・。うん!やってみる!」
リリィは意気込みながら、垂らした糸を見つめた。暫くすると
「ね、ねぇ、アビーさん」
「お?きたか?」
リリィの竿の先端が不自然に動いていた。アビーも後ろからリリィを抱くような形でリリィの竿を軽く持つ。
「まだ警戒しているからもう少し待てよ」
「う、うん」
アビーにこうやって抱き付かれても、リリィは釣りが初めてだったので、アビーがこうしてフォローしてくれることに安心を覚えていた。
「・・・・・・今だ!」
「えい!」
アビーの合図と共にリリィは竿を引き上げた。
「わ!わ!」
思っていたより竿を引く力が強く、リリィはどうしてらいいか分からなくなる。
「落ち着け。しっかりと針は掛かってるから、そのままゆっくり引いていけ」
「う、うん!」
アビーの助言通りにリリィはゆっくりと竿を立てて、糸を寄せていく。そして
「と、取れました!」
「おう!やったな!」
リリィは糸を持って今釣り上げたばかりの魚をアビーに見せる。アビーはいつの間にかリリィから離れており、魚を入れるバケツを近くに持ってきた。
「ほれ、これに魚を入れるんだ」
「えっと、針を外してだよね?」
「ああ、そうじゃないと釣りの続きが出来ないからな」
リリィは竿を置き、魚を手にする。そして、魚の口から針を取ろうとするが
「・・・・取れない」
「どれどれ・・・。あぁ、こいつは針飲み込んでるな」
アビーは魚をリリィから受け取り、魚の口に指を突っ込んだ。
「・・・苦しそう」
「そりゃ、痛いだろうけどよっと!ほれ取れたぞ」
「あ、ありがとう」
リリィは魚を受け取り、急いでバケツに魚を入れる。魚の口から血が出ており痛々しかったのだ。
「どうだ?初めて魚を釣った感想は」
「うん、虫とかはちょっと嫌だけど、結構面白いかも」
「よし!それならこの調子で釣っていくぞ」
「うん!」
釣りは意外と面白く、リリィはまた釣りたいと思った。そして、二人は魚釣りを再開するのだった。
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昼過ぎ、一先ず魚がけっこうな量を取ることが出来たので、少し遅い昼食を取ることにした。
「まぁ、これだけ取れればいいだろう」
「うぅ・・・・」
気合いが空回りして色々と迷惑を掛けてしまったリリィは、少し泣きそうな顔だった。
「あー・・・さっきは怒鳴って悪かったな」
「いえ、私がトロイのがいけないんです。私なんかが釣りなんてやるべきではなかったんです。そもそも・・・・」
アビーは焚き火の準備をしつつ、怒鳴ったことをリリィに謝る。
だが、リリィは更に沈む。一人で何かブツブツと言っているが、途中からよく聞こえなくなってくる。そして、気のせいか周りの空気も暗くなっているように感じた。
「リリィ、初めての釣りでこんだけ釣れりゃあいい方だぞ」
「でも・・・途中私がバケツを」
「もう気にすんなって。釣れた時は楽しかったんだろ?」
「・・・・・・うん」
「ならまた一緒に釣りやろうぜ」
「・・・うん」
リリィは先程より少し顔が明るくなった。アビーは話しながら魚を串に刺して塩をまぶしている。
「リリィ、これを火の近くへ刺してくれ」
「・・・うん、わかった」
アビーはリリィに魚が刺した串をリリィに渡した。リリィは言われた通りに焚き火の近くに刺していく。
「・・・アビーさん。また一緒に釣りしていいの?」
「ああ、もちろんだ」
その言葉を聞いて、まだ目の端に涙は溜めていたが、リリィは笑顔になった。
「ほら、もう焼けたぞ」
「うん、ありがとう」
リリィはアビーから焼けた魚を貰い、かぶりつく。
「・・・・・うん!美味しい!いつもより美味しい気がする!」
「自分で釣った魚は更に美味しく感じるからな」
アビーも焼けた魚魚を手にしてかぶりついた。
「うん・・・美味いな」
この後も二人は釣りを再開することになり、この日の夕飯は魚尽くしになるのだった。
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「・・・・・ねぇ、アビーさん」
「んー、なんだ?」
時刻は昼過ぎだ。昼食を食べ終わってから、リリィとアビーは骨董品屋アメリースで店番をしていた。今は客はおらず、暇をもて余していた。
「あれから一週間は経つけど、何もないのかな?」
「ないんじゃねぇか?何かあったらロイスの方からこっちに来るだろうしな」
あの大量の魔物と
「・・・・・久々に遺跡にでも行くか。リリィも一緒に行くか?」
「え?いいの?」
「ああ、今日は客もあまり来なさそうだからな」
「うん!じゃあ準備してくるね」
リリィは嬉々としながら、遺跡に潜る準備をし始める。アビーも剣を腰に差したりと簡単な準備をする。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
二人はアメリースの店の鍵を閉めて遺跡を目指して歩き出した。
「で、アビーさん。今日はどこの遺跡に行くの?」
「・・・・この前戦った近くに行こうと考えてる」
「この前って私が滅茶苦茶にしちゃった場所?」
「まぁ・・・そうだな」
アビーが少し言い淀んだのは、リリィが色々と壊してしまったことを気にしていると考えたからだ。だが、リリィは特に気にすること無く聞き返したので、アビーは少し安心していた。
「でも、危険じゃない?」
「まぁ、多少地形が変わった影響なのか、地下にある遺跡も崩れたりして道が変わったらしいからな」
「ふーん・・・。でもよくそんなこと知ってるね」
「この前、お前のファ・・・じゃない。店に来てた客に聞いたんだ」
「・・・・・今なんて言いかけたの?」
「なんでもない。気にするな」
「まぁ、いいけどね」
リリィは特に気にすることなく、アビーの横を歩き続ける。リリィは遺跡に行くのも少し楽しみではあるが、アビーと一緒に行動することが嬉しく感じて、浮かれているのだ。
暫く歩いていると、リリィが破壊した場所までやって来た。
「・・・こう改めて見ると、私とんでもないことしちゃったんですね」
目の前の光景は、破壊されたばっかりだとわかる地形が広がっていた。地上に出ていた遺跡は更に破壊されて入口が塞がっている場所もある。逆に地面が崩れて、下にあった遺跡が新たに顔を出している場所もある。
だが、遺跡を這っていた植物等は焼け焦げ黒くなっている。結果、緑が無くなっており少し殺風景な景色になっていた。
「でもリリィが魔法を使ってなかったら、ルインの街がこうなっていたかもしれないんだぞ」
アビーは改めてあの時の現状を説明する。
「そうかもしれないけど・・・。やっぱり少し悲しいかな。前の風景は好きだったから」
「・・・・そっか」
リリィはこの危険な魔法は二度と使わないと心の中で誓った。他にも強過ぎる魔法は破壊してしまう物も大き過ぎると、今目の前に広がる光景で再認識した。
「さて、そろそろ適当に入れそうな遺跡を探すぞ。中にはすぐに行き止まりの場所もあるみたいだからな」
「そうですね」
「あと、見つけたとしてもすぐに入らないように。あの魔法で色々と脆くなっているみたいだからな」
「わかりました」
こうして、二人は入れそうな遺跡の入口を探し始めた。
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