少女、聖女と過ごす一日

 夜の帳が降りた頃


「ふぅ」


 聖都アナスシアの聖女クリスティアは貸し与えられた部屋のベッドに身体を預けた。


「・・・・・・お友達・・・ですか」


 今日の集会で突然無礼を働いてしまって迷惑を掛けてしまった少女リリィ。まさかの正体に驚きを隠せなかったが、友達になってくれたことにも驚いていた。


「あんな酷いことをしてしまった私に友達ですか・・・ふふ」


 クリスティアは聖女であるため、友人関係になれる同年代の人間は、聖都アナスシアにはいなかった。


 そのため、自分が犯した無礼な行動も許してくれたリリィが、友達になってくれたことを、喜ばずにはいられなかった。リリィのことを考えると自然と笑みも溢れる程だ。


 クリスティアはリリィと今後どうやって過ごそうかと、初めての友人とのことを考えながら、眠りに就くのであった。



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「リリィちゃん、ちょっといいかしら?」


 セレナが骨董品屋アメリースを訪れたのは、クリスティアが集会を開いた翌日の昼過ぎのことだった。


「えっと・・・何がでしょうか?」


 リリィは内容を聞いていないので、セレナに聞き返した。


「その・・・ね。聖女様が貴方を呼んでいるのよ」

「え?ティアがてすか?」


 リリィはティアに呼ばれる理由が思い当たらなかった。昨日の話では、何かを調べるとかで忙しいと聞いていたはずなのだが。


「いえ、正確に言えば会いたがっている。と言った方がいいかしら」

「・・・どういことだ?」


 話を聞いていたアビーも話に加わってきた。


「ほら、聖女様は昨日、リリィちゃんが初めての友達って言っていたじゃない。だからなのか、今日の午前中も事あることに隊長や私にリリィちゃんのことを聞いてくるのよ」


 セレナは何故か少し嬉しそうに言ってきた。


「・・・変なことは言ってないですね」


 リリィは何か嫌な予感がして、セレナに内容を聞こうとする。


「ええ、リリィちゃんの可愛さをたくさん話しただけです」


 セレナは目をキラキラさせて言った。それを見て更に嫌な予感が増したリリィ。


「・・・・・何を言ったのでしょうか?」

「それはリリィちゃんが可愛くなる瞬間の仕草や、水着を着たときの失敗した姿、後はアビー殿のいたずらで照れた姿とかです。それと、リリィちゃんの下着も可愛いのが多いとかですね」

「何を話してるんですか!!」


 リリィにとっては恥ずかしいことしかない内容だった。それを聖女とはいえ、友達になったばっかりの人に暴露されてしまった。次の時にどのようにして会えばいいのか分からなくなってしまう。


「ああ・・・、でもやはり言葉では表現は出来ません。なので、今から私と一緒に行きましょう!」

「少しは落ち着け」

「いたっ!」


 リリィに迫ったセレナにアビーは軽くげんこつを落とした。


「あ・・・、ご、ごめんさない!リリィちゃんの可愛らしさを分かり合えると思ったらつい・・・」

「・・・・・・もういいです」


 リリィは半ば諦めてため息をついた。


「あぁ・・・ため息する姿も可愛らしいです」


 そんなリリィの姿を見て、うっとりするセレナ。


「リリィも大変だな」

「その大変な一部であるアビーさんに言われたくないです」

「・・・・・・・・すまん」


 アビーもリリィによく悪戯をしてしまうので、強く言えなくなってしまった。


「と、とにかく!聖女様が会いたがってるので、来てもらえないかと」

「それは大丈夫ですけど・・・。なんかとても嫌な予感が」


 リリィはセレナの話を聞いた後のクリスティアに、何を言われるのかが怖かった。だが、特に反対もないので、店はアビーに任せて、リリィはクリスティアがいるハンター協会へと赴くことになった。



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「っ!リリィ!」


 リリィがクリスティアの貸し与えられている部屋に赴くと、少し驚きながらも、嬉しそうに駆け寄ってきた。


「リリィ、どうしたのです?何か用事ですか?」

「え、えっと・・・」


 リリィはクリスティアが会いたがっていると、言うから来たのだが、当のクリスティアはリリィが来ることを知らなかったようだ。


「ふふ、ごめんね。リリィちゃん」

「え?」


 後ろにいたセレナから笑い声が聞こえてきた。


「聖女様が貴方に会いたがっていたのは本当よ。で、一応リリィちゃんの疑いは昨日の内に説明したけど、ちゃんと皆に見てもらおうと思ってね」

「そうですわ!それがいいです!」

「えっと・・・どういうことでしょう?」


 セレナの説明にクリスティアはわかったようだが、リリィはいまいち理解できなかった。


「つまり、リリィのことは昨日、疑いは誤解だったと街の人々に公言はしました。ですが、まだリリィのことを信用していない人がいるかもしれません。なので、私と一緒に外を見回ることで、リリィは信用たる人物と知らしめるのです」

「な、なるほど」


 クリスティアの説明を聞き、リリィは納得した。


「それに、ほら!見てください!セレナから聞いてリリィの好みの服を着てみましたの」


 確かに昨日の神秘的な衣の服と違い、クリスティアの服装はリリィの服と似た可愛らしい服を着ている。


「ですが、このスカートの短さには慣れませんね。スースーしますし」


 クリスティアは基本、神官のローブの様な服や衣を着ることが多い。その類の服は脚が隠れる物が多いのだ。

 クリスティアは膝上のスカートを着たことがなかったので、慣れていないようだ。


「でも似合ってますよ。ティア」

「そうでしょうか」


 クリスティアはリリィの前で一回転をする。その時、スカートがふわりと舞い上がり、スカートの中がリリィから見えてしまった。それは可愛らしい小ぶりなお尻だった。


「って、なんでパンツ穿いてないんですか!?」

「え?ぱんつ?」


 クリスティアはきょとんとした顔でリリィを見てきた。


「そういえば昨日、セレナの話でそのぱんつという言葉を聞きましたが、何なのです?聞いたことがないのですが」

「え?パンツを聞いたことがない?」


 リリィは訳が分からなくなってしまう。


「あ~・・・そういえば聞いたことがあるかもしれませんね」


 セレナが何かを思い出したように呟く。


「巫女の一族は下着を付けないとかなんとか」

「そ、そうなのですか?」


 リリィはセレナの説明に困惑したが、実際にクリスティアはパンツを知らないようなので、本当の事なのだろう。


「えっと、ティア。そのスカートを穿くならパンツっていうの穿いた方がいいですよ。風とかで捲れたら大変です」

「でも私は持っていませんわ」

「それならせめて長めのスカートを」

「嫌です。せっかくリリィと同じような服を着たのに着替えたくはありません」


 クリスティアはリリィとお揃いの服がいいようだ。


「それじゃあリリィちゃんもパンツ脱ぐ?」

「脱ぎません!」


 とんでもないことを言ってきたセレナの言葉を一蹴するリリィ。最初はクリスティアのパンツを買いに行くことになった。



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「・・・なんか窮屈です」


 クリスティアは下着専門店でパンツを購入した。もちろん、その店の試着室で穿かせてもらった。

 因みに、クリスティアは淡い青系のフリルの付いたパンツを穿いている。このパンツを選んだのはリリィだ。パンツというより下着関連の知識が皆無なクリスティアが選べるはずもなく、全てリリィが選んでいた。


「リリィちゃん、聖女様はリリィちゃんより二つは年上で16歳ですよ。成人もしているのです。もう少し大人な下着を買った方がいいのでは?」

「いいえ!私はリリィが選んだパンツしか穿きませんわ!例え窮屈であってもリリィが選んでくれたなら我慢いたします!」


 リリィが選んだパンツはリリィが好きな可愛らしいデザインの物ばっかりだ。色もピンク系や明るい色が多く、リボンやフリルが付いている物が多い。


「そこまで言われるとなんか申し訳なく感じますね」


 リリィもクリスティアのリリィへの執着具合が次第に重く感じるようになってきた。


「でも聖女様。大人なデザインにはこのようなものもありますよ」

「これは・・・紐ですか?」

「それは下着と呼びません!!」


 それは紐としか言えないような布地しかない下着だ。リリィはこれと似た水着を着させられたことがあるので、少しトラウマになっていた。


「でもこれの方が窮屈さはなさそうですわね」

「それを聖女が穿いた方がまずいと思います!」


 リリィは何とかそれを購入することを諦めさせることが出来た。あんな下着を聖女が穿いていたら、かなりの問題になってしまう。まぁ、元々穿いていなかったので何とも言えないかもしれないが。


 それから3人は見回りという名の買い物をしつつ過ごした。クリスティアにとってはこのような買い物はしたことがなかったので、見る物全てが新鮮に感じられたようで、行く先行く先で色々なものに興味を持った。


「リリィ、あの店は何ですの?」

「あれはハンターが使う道具を打っている店ですね」

「そうなんですか・・・」

「少し見ていきますか?」

「はい、是非!」


 リリィはハンターではないが、ハンターの道具については職業柄詳しかったりする。

 リリィの説明をクリスティアは興味津々で聞いている。


 そんな2人の姿をセレナは護衛の意味もかねて見守っていた。クリスティアは聖女だ。その姿を見て敬愛する者、少し居辛そうにする者等様々反応を示す。


 中には良からぬことをする連中がいるかもしれない。そのため、セレナは2人と楽しむと共に常に警戒を怠らないようにしていた。


(・・・リリィちゃんのこともちゃんと見てくれているようですね。これならリリィちゃんが無罪だと皆も見てくれるはずです)


 傍から見たリリィとクリスティアは、本当に仲が良い友人にしか見えない。これならば、リリィの疑いは誤解だったと、周囲に知らしめることが出来る。


 それからまた暫く歩いている内に流石に疲れたということで、広場のベンチで休憩することになった。


「そういえば先日、リリィは普通の魔法を使ってましたよね?」

「はい、それが何か?」

「いえ、私自身もそうなのですが、私の血族は光属性以外の魔法を使えないはずなのですが、リリィは普通に使っていたものですから」

「ああ・・・」


 リリィはアーシーとアリアと話している時にも、同じようなことを話していたことを思い出した。


「それはアーシーも言っていたけど、分からないみたい。私も誰にも教えてもらっていないけど、小さい頃から使えていたから」

「「・・・・・・・え?」」


 リリィの言葉にクリスティアだけではなく、セレナまで聞き返してしまった。


「え?どういうことです?魔法を教えてもらっていないのに使えたのですか?」

「うん、何となくで使えていたから」


 その説明に絶句してしまうクリスティアとセレナ。やはりこれは異常なことなのだろう。


「でも、リリィちゃんは治癒魔法も使えますよね」

「うん、あれは水属性の魔法かと思っていたけど、実際は光属性も入っていたみたい」

「入っていたみたいってそんな他人事のように言いますのね」


『光輝の巫女』の娘というからには光属性の魔力を持っていても不思議はないので、治癒魔法が使えることには驚きはしなかったクリスティアだが、まさか意識しないで使っているとは思ってもみなかった。


「それでしたら、光属性の魔法を教えしましょうか?」

「え?いいんですか?」


 クリスティアからまさかの提案がきた。


「リリィは光属性の魔力を持っているようですし、すぐに使えると思います」

「それなら是非お願いします」


 リリィも光属性の魔法についてはほとんど知らない。使えるのは付与魔法とヒーリングとグレイスぐらいだ。どれも補助系の魔法なので、攻撃には向かない。


「それだったらあの闘技場使えるように申請しましょうか」


 セレナは魔法の練習を行う場所の提供を申し出る。


「とうぎじょう?」

「はい、お願いします。あそこなら魔法が暴発しても被害が無さそうですし」


 闘技場とは、以前リリィとロイス、アビーとロイスが模擬戦をやった場所だ。あそこは古代の技術で地面や建物が破壊されないように、何かしらの魔法が掛けられているのだ。


「・・・リリィちゃん、暴発は危ないからくれぐれも気を付けてね」

「もちろんです」


 セレナはリリィの暴発宣言に少し不安が募るのであった。



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「結構広いのですね」


 リリィはクリスティアとセレナの3人で闘技場を訪れていた。

 闘技場に入ると、クリスティアは広い闘技場内を見渡して驚いていた。


「ここはハンター協会の管理下に置かれている闘技場で、建造物や地面には保護の魔法が掛けられています」

「だから変な感じがするのですね」


 セレナの説明を聴きつつ、納得するクリスティア。


「ではリリィ、始めましょうか」

「はい、よろしくお願いします」


 こうして、クリスティアによる光属性の魔法の講義が始まった。


「まずですが、リリィの光属性の魔力がどれくらいなのかを調べたいと思います」

「はい」

「なので、簡単な魔法を教えますので、それで試してください。他の属性の魔法が使えるなら、これも出来るはずです」


 リリィはクリスティアから簡単な魔法を教えてもらう。


「ではいきます」


 リリィは誰もいない方向を向き、教えてもらった魔法を試す。


「光よ・敵を・貫け・ホーリーショット」


 ・・・・・・・・・・・。


 リリィは教えてもらった魔法を試したが、何も起こることがなかった。


「おかしいですね。下位の攻撃魔法なのですが」


 クリスティアは首を傾げて、出来ない理由を考え始める。


「・・・・・・・・・・」

「リリィちゃん、どうしたの?」


 リリィが自分の手を見て何かを考えていることに、セレナが気が付いた。


「いえ・・・ちょっと。ティア、ちょっと試してもいいですか?」

「え、ええ」


 リリィは先ほどの不発だった魔法を使おうとしたことで、何かを感じ取っていた。


(さっきの詠唱では私の魔力に合っていなかった。それなら、私に合うように変えればいい)


 リリィはオリジナルの魔法を作る時と同じ要領で、頭の中で考えるのではなく、身体で、心で、感じようと精神を集中させる。


「・・・・・光よ」


 リリィは最初の詠唱の言葉を発する。それほさっきと同じ詠唱の始まりだった。しかし、前に突き出したリリィの両手には白い光が集まり始める。


「仇成す者・撃ち抜く・閃光となれ・フォトンレイ」


 リリィの両手に集まった光は、魔法名を唱えた時にはすでに消失しており、何も起こらなかった。


「・・・・リリィ、何かしたんですの?」


 何も起こらなかったと見たクリスティアが、リリィに問い掛ける。


「えっと、一応は攻撃出来ましたね」

「でも何も起こりませんでしたけど」


 確かにリリィの両手には光が密集していたのはわかった。しかし、それだけで、何かを攻撃した感じがしなかったのだ。


「んー・・・なら的を作ってもう一回やりましょうか」


 リリィはそう言って的を作り出すことにする。


「大地よ・我守る・壁となれ・アースウォール」


 リリィは少し離れた場所に岩で出来た壁を作り出した。


「ではもう一度いきますね。光よ」


 リリィは的に向かって両手を突き出して詠唱を始める。


「フォトンレイ」


「「え!?」」


 リリィが魔法を言い終わった瞬間に的に穴が空いたのだ。


「な、何が起こったんですの?」

「・・・白い線のような物が見えたような気がしましたが、あれが魔法?」


 あまりの速度にそれに反応出来た者はおらず、ただ呆然とするだけだった。


 フォトンレイ、リリィが今作り出した魔法だ。文字通り、光の速さで貫通する光線を撃つ魔法だ。太さは拳大ぐらいだが、これを視認してから回避するのは不可能に近い。


「り、リリィ、今のはどうやったのです?」

「えっと、最初の失敗した時に光の魔力が自分の中に確認できたので、それを自分の魔法として変えてみたのです」

「か、変えるって」


 リリィがしたことは普通は出来るはずがないのだ。即興で新たな魔法を紡ぎ出す。いや、今回は教えてもらった魔法を改変したのだが。


「リリィちゃん、貴方はいつも魔法をそうやって作っているんですか?」

「大体はそうですね。でも、完全に新しい魔法となると、もっと感覚に頼ることが多いです」


 リリィの説明に納得出来ない2人。


「聖女様はどうなんですか?リリィちゃんみたいなこと出来ますか?」

「無理に決まってます。私の魔法も母から、母もその母からと、代々伝わり教わったものですから」


 クリスティアは先祖代々に伝わってきた魔法のようだ。


「リリィは変な魔法使いですね」

「変はひどくないですか!」


 クリスティアはリリィのことをそう認識をした。


「でも、魔法を即興で作るなんて芸当、出来る人はいませんよ。いえ、やろうとする人がいません」

「だって・・・出来ちゃうんだもん」


 リリィは少し落ち込みぎみに言った。


「で、でも私は凄いと思いますよ。自分にしか扱えない魔法って少し憧れますし」


 セレナはリリィが落ち込まないように褒めて機嫌を直そうと試みる。


「・・・ほんとですか?」

「ええ。だからリリィちゃんはそのままでいいのですよ」

「・・・・なんか親子みたいな会話ですわね」


 クリスティアは2人のやり取りを見ていて、リリィが子供でセレナが母親の様に見えて来た。


「まぁ、結果として光属性の攻撃魔法を使えるようになりましたから、これで平気ですわね?」

「そ、そうですね。ティア、教えて頂きありがとうございます」

「い、いいのです。友達として当然です」


 リリィはきっかけをくれたクリスティアにお辞儀をしてお礼を言う。クリスティアは真っ直ぐなリリィの言葉に照れて戸惑ってしまう。


「ま、リリィが凄いといっても、私は光属性の上位魔法も取得しています。また教えることはあるかもしれませんね」


 クリスティアは初めて出来た友達に頼ってくれることに少し快感を覚えていた。なので、リリィもこれから頼ってもらえるように頑張ってアピールをした。


「はい、その時はお願いします」


 クリスティアの心境に気が付いていないリリィはそのまま言葉を素直に受け取って、嬉しそうに笑った。


「っ!え、ええ!私が街を去る前には教えます」


 こうして、クリスティアの光の魔法講義は終わるのだった。



「では、リリィ。また次の時に魔法は教えますので」

「はい、わかりました」

「リリィちゃんも気を付けて帰るのよ」


 ハンター協会とアメリースの分かれ道でリリィはクリスティアとセレナと別れた。

 太陽はもうすぐ完全に沈み、夜がやって来ようとしていた。


「リリィ、コツはつかめたのか?」

「うん、大丈夫。後はもう少し自分に合わせて組み替えてみるから」


 帰り道、アーシーと人気の無い道を歩いてリリィはアメリースに帰って行った。



 --------------------------



「ふぅ、疲れましたわ」


 クリスティアは貸し与えられた部屋に戻ると、ベッドに身を投げ出した。

 クリスティアは普段はあまり動かないため、今日のようにお出掛けなども殆どしたことがなかったのだ。


「・・・やっぱり窮屈ですわね」


 クリスティアは寝転がったままパンツを脱ぎ捨てる。


「なんで皆さんはこんなのを穿いて生活ができるのだか」


 それは普段から当たり前のように穿いているからであって、特に理由という理由はない。あえていうなら習慣だろう。


「クリスティア様」


 そこへドアのノックの音と共にロイスの声が響いた。


「開いてますわ」


 クリスティアはそのままの体勢で返答を返した。


「失礼します」


 ロイスは一応クリスティアの護衛だ。今日はセレナが代行していただけであって、本来はロイスの仕事なのだ。


「く、クリスティア様。少々乱れ過ぎなのでは」

「・・・・あ」


 ロイスは入ってすぐに視線を逸らした。理由はクリスティアの格好にあった。

 クリスティアは普段は長めのスカートのため、適当に寝ころんでも問題はなかった。しかし、今はお出掛けしたままの短めのスカートだったため、パンツも脱いだこともあり、ロイスからはお尻が丸見えの状態だった。


「ロイス様!見ないでください!」

「し、失礼しました!」


 流石のクリスティアも顔を真っ赤にして、掛け布団で隠しながら叫んだ。

 そして、ロイスは慌てて部屋から出て行った。


「・・・・ああ、このような時のためのパンツなのですね」


 クリスティアはここでパンツを穿く意味を知るのであった。



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「アビーさん、特に問題はなかったですか?」

「ああ。まぁ、一つ言うのであれば、リリィがいなくて肩を落としている奴がいたぐらいだ」

「そ、そうですか」


 相変わらず、この店アメリースはリリィ目的のお客が絶えないようだ。


「それよりティアに会ってたんだろ?どうだったんだ?」

「えーと・・・、まぁ、いろいろありましたが、一緒に買い物して、後は光の魔法を教えてもらったりしてました」


 リリィは今日あったことの顛末をアビーに説明した。


「ってことは、リリィは光の魔法を・・・いや、前に一回属性付与はしてくれたか」

「はい。でも、今回は光の攻撃魔法を教えてもらったんです」

「で、使えるようになったのか?」

「もちろんです。でもまだ作れそうな気がします」

「ん?つくる?」

「そのですね・・・」


 リリィはクリスティアから教わったままの魔法が使えなかったこと。それを改変して自分用の光の魔法を作ったことを説明する。


「相変わらずデタラメな理論だな」

「わ、私なりにちゃんと危険がないかとか確認してるんですよ」


 リリィは初めて使う魔法に関しては、いつも以上に魔力の流れを見よう感じようと心が構えているのだ。


「そこは信用してるって。でもお前は暴発起こすことあんだろ」

「そ、それは・・・」


 アビーの言うとおりなので、反発出来ないリリィ。


「ま、怪我しなきゃいいさ。それより・・・」

「ん、なんですか?」


 いきなりアビーがリリィのことを凝視してくる。

 リリィはまた変なことをされるのかと思い、身構えた。


「腹減ったから何か作ってくれ」

「・・・わかりました」


 アビーはただお腹が減っているだけだったようだ。

 リリィはそのまま台所に入り、晩御飯の献立を考えながら、作業に移るであった。



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 時刻は深夜の時間を迎えている。

 街の灯りのほとんどが消え、辺りを暗闇に包んでいた。

 それは、ハンター協会も同様だ。そして、ある部屋の前には一人のハンター協会の見張りと黒いローブを着た影がいくつかあった。

 よく見ると、周囲にはすでに何人かの見張りが倒れている。


「やはり結界が張られてますね~」


 目的の場所には結界が張られており、触れたら誰かしらに気が付かれてしまうだろう。


「ユルバン様、どうしましょう?」

「僕一人なら気が付かれずに入れますからね。貴方達はここで待機してください」

「わかりました」

「それと、拐った後はこの扉を突き破りますから、逃走の準備を。襲い掛かって来る者には容赦しなくて構いません」


 ユルバンはそう言い残して、影の中に沈んでいった。

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