少女、闇夜を知る
「まずお前の連れている精霊を出してもらおう」
「・・・渡しませんよ」
「何を勘違いをしている。俺の話を一緒に聞いてもらいたいだけだ。恐らく俺の話は精霊すら知らないことだろうからな」
「そうか。それなら聞かせてもらおう」
「面白そうね。私達が知らないことなんてあまりないかもしれませんよ」
ナハトの言葉にアーシーとウォーティが黄色と青の小さな光の粒となって現れた。
「・・・地の精霊と水の精霊か」
「お主も精霊との関りがあるのか?」
「さあな」
ナハトの表情は読めない。だが、関りがあるのは確かなようだ。
「で、早く話しやがれ」
「言われなくとも話す。そうだな・・・封印については・・・精霊から聞いているか」
「は、はい」
「では、封印が完璧ではなかったことは知っているのか?」
「っ!?」
「そんなはずはない!我々が全力を持って封印したのは覚えてるぞ!」
「そうね。私も封印するところははっきりと覚えているわ」
珍しくアーシーとウォーティも声を荒げている。
「そうだろうな。闇夜の巫女自体を封印することには成功した。だが、事の根幹である負の怨念は封印されていなかったとしたら?」
「っ!?そんなわけが!!」
「あるんだ。そいつは光輝の巫女リュミエルが自らの魂に封印することで事なきを得た」
「それでは私達が封印をしていたのは」
「素の状態の闇夜の巫女フォンセだ」
真実かどうかはわからない。だが、ナハトの顔は真剣そのもので、アーシーとウォーティは耳を傾けていた。
「では、あの空にある黒い太陽のようなものは」
「あれは本来の宿り主である闇夜の巫女フォンセの身体が封印から解かれたことで、現在の光輝の巫女の末裔、今はクリスティアといったか?光輝の巫女の魂に封印された負の怨念を代々受け継いできた。恐らくあれは、その娘の内から出た負の怨念が肥大化したもの。つまりは古の戦争の根幹そのものだろう」
「テ、ティアは無事なのですか!」
「このようなことは我々闇夜の使徒の情報でも例がない。だから何とも言えんな」
「そんな・・・」
リリィは友人になったクリスティアが危険なことを知り、いてもたってもいられずにアビーに詰めかかる。
「アビーさん!ルインに戻りましょう!」
「・・・・・・・」
「アビーさん!」
「リリィ、ちょっと待ってくれ。おい、ナハト」
アビーはリリィを抑えてナハトに向き合った。
「なんでお前らは封印を解こうとしていたんだ?封印が解かれてこの現状になったのなら、お前らは今のこの状況にしようとしていたんじゃねぇのか?」
「それは思い違いだ。我々は封印を解き、闇夜の巫女フォンセを回復させ、その負の怨念という根幹を制御し、抹消しようとしていたのだ」
「ならなんでこんな状況になってやがる!」
「これは我々の仲間の不始末が原因だろうな」
「仲間・・・・まさかこの前の」
リリィが以前ユルバンとの戦いの時を思い出した。あの時、ナハトはユルバンの腹を剣で貫きながら言っていたはずだ。『こいつは我らの主に逆らった行動をしたから裁かれた』と。
「ユルバンは光輝の巫女である娘なら、光の魔力と同じ地位にある闇の魔力で何か出来ると勘違いをしたのだろう。結果は娘の内に眠っていた負の怨念の力を後押ししたに過ぎん」
「じゃあ、ティアは・・・」
「最悪、負の怨念とやらの手足となっているかもしれないな」
ナハトの遠慮のない言葉。だが、それが事実なのでれば、今ここで足踏みをしているわけにはいかない。
「リリィ、お前の光の魔力。恐らく光輝の巫女リュミエルと似て非になる物だ」
「・・・・え?」
「俺はお前のことを見てきた。最初はまさかと思ったが、光の魔力を使えるから真実なのだろう」
ナハトはリリィの目を覗き込むように見てきた。
「長き時を眠った影響か、もしくは4体の精霊に守られてきた影響か、不可思議な進化をしているように見える」
「長き時?眠るって・・・」
「今はどうでもいいことだ。それよりここから奴に攻撃は出来そうか?」
「・・・・・・・・届いたとしても威力が足りないと思う」
「だろうな。なら近くに行くしかあるまい」
ナハトは何か策があるのか不敵に笑った。
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「おいナハト!それ本当なんだろうな!」
「ああ、嘘だと思うなら付いて来なくてもいいぞ」
「ふざけんな!リリィを守るのは俺の役目だからな!」
「うぅ・・・、そんなはっきり言われると恥ずかしいです」
リリィはアビーの背中に背負われていた。
場所は木々が生い茂る森の中だ。その中をアビーはナハトの後を全速力で追っていた。
ナハトはある物が眠る場所に案内をするといって駆け出したのだ。
リリィは足が遅いので、結果的にアビーに背負われることになったのだ。
「それよりリリィ、最近太ったんじゃねぇか?重く感じるぞ」
「なっ!失礼ですね!これでも成長期なんですよ!きっと成長下に決まってます!」
「まぁ、確かに胸は大きくなってるようだな」
「もう!バカ!エッチ!」
リリィは背負われているため身動きができないので、アビーの頭を叩き始める。
「いてっ!痛いっつーの!!」
「わにゃ!!お尻掴まないで!!」
「うるせぇ!お前が暴れるから持ち直したんだろうが!」
「・・・・うるさい奴らだ」
ナハトは横目で二人のやり取りをみて呟くのだった。
それから暫く移動していると、森を抜けて地下空洞の入口が見えてくる。
「ここからは真下に落ちるぞ」
「は?」「え?」
ナハトの言葉を聞くとただ落ちると聞こえるのだが。
「ついてこい」
「って!おい!!」
アビーが声を出した時にはナハトは暗い地下空洞の闇に消えていった。
「あ、アビーさん・・・」
リリィは涙目でアビーの顔を見る。
「ああ!もう!行くぞ!!」
「え?え?って本当にいくの!?って、きゃあああぁぁぁ!!!」
アビーに背負われたリリィに逃げる術はなく、地下空洞の闇に消えていくのだった。
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「っと、確かこの辺だったはずなんだけど」
アリアは一人である遺跡に来ていた。
この遺跡は常に風が通り抜けており、至る処が断崖絶壁のようになっている不思議な遺跡だ。
「にしてもこれはひどいなー・・・」
本来は何かを形取っていただろう石像も最近に壊された痕跡があった。
「・・・・・やっぱり私のところの遺跡を襲ったのと同じ魔力を感じる」
アリアは崖を飛び降りるようにして、遺跡の奥に潜っていく。着地する寸前で、足裏から炎を吹き出して、落下の衝撃を相殺する。
「ん~・・・人間が破壊するにはちょっと酷すぎるかなぁ。まぁ、狙いが封印だけだったから、まだよかったけど」
アリアはある場所に到着した。崖下は激しい河になっており、その近くに小さな祠がある。そこに緑色の宝石のような物が置かれていた。
「ウィンディアー、いるー?」
「んにゅ・・・、なあに?」
宝石から声が聞こえてきた。
「久しぶり、やっぱり眠っていたの?」
「ん~・・・ファイリア?」
「そうだよ。人間の姿の時はアリアって名乗っているけど」
「ん~・・・じゃあ、アリア」
「なに?」
「おやすみ~」
「え、ちょっと!寝ないでよ!!」
アリアは慌ててウィンディアを起こそうと声をかける。
「ウィンディアのとこの封印解かれちゃったんだよ!」
「知ってるよ~。邪魔しようとしたら、魔力食べられちゃって・・・ぐぅ」
「それでそんなに眠そうなのか。って寝ないで寝ないで!」
ウィンディアは風の精霊だ。いつも眠そうな感じの精霊だとアリアも知ってはいたが、ここまでになっているとは思っても見なかった。
「ん~、眠いよ」
「ごめんね。でも今ちょっとまずいことになったから、手伝ってほしいんだ」
「まずいこと~?」
「うん、前に封印したはずのが復活しちゃったみたいなの」
「そう・・・・・・え!?まずいよ!それ!!」
「だから、手伝ってって言ってるの」
「でも今の私にはあまり魔力は・・・・」
「リリィちゃん、今の私のご主人様と契約すれば魔力は回復するよ。だからついて来てもらってもいい?」
「新しいご主人様・・・契約者のことだよね?」
「うん」
「・・・・・・・・うん、契約するかは実際に会ってから考える。だから、私を連れて行って。到着するまで寝てるから」
「相変わらずだね。じゃあ行くよ」
アリアはウィンディアの緑色の宝石を持って、地上に戻るために、足から炎を噴出して、地上へと帰って行った。
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「・・・・・・・・・ここは」
「あ、隊長。目が覚めましたか?」
ロイスはハンター協会の医務室で目を覚ました。傍にはセレナが看病していたらしい。
「医務室ですよ。隊長はハンター協会の離れで倒れていたのです。それより何があったのですか?離れが壊されていましたが」
「離れ・・・・そうだ!クリスティア様は!アリアはどうした!」
「いえ・・・いませんでしたが」
「くそ!!」
ロイスは珍しいくらいに悔しそうに布団を拳で叩いた。
「・・・隊長、何があったのですか?」
「・・・・・・・・・・クリスティア様の部屋で大きな音がしたんだ。その確認に向かおうとしたら、謎の黒いオーラを纏う女性がアリアと戦っていたんだ。アリアがなぜその場に居たかは分からないが、ただ事ではなかったのは確かだ」
「その黒いオーラを纏った女性が聖女様を?」
「恐らくは。アリアはこちらに気が付いて遠くへ跳んでいった。俺は残ったその女性に話し掛けようとしたら、建物ごと俺を吹き飛ばしたんだ。そこで意識が途切れたから、その後のことはわからない」
「そんなことが・・・」
セレナは暗い顔をする。姉妹同然のアリアのことも気になるが、聖都アナスシアの大事な聖女がさらわれた。非常にまずい事態だ。
「セレナ、僕はどれくらい寝ていたんだ?」
「私が見つけてから5時間ほどです。まだ日付は変わっていません」
「そうか。ならセレナ、緊急事態だ。寝ている連中、休みの連中にもできる限り伝達してほしい」
「それは構いませんが。隊長は黒い太陽を見たのですか?」
「黒い太陽・・・・・・・あれか?」
ロイスは気を失う前に見た光景を少しだけ思い出した。
「・・・・・・あの女性」
「え?」
「先程話した女性が黒い太陽を出したような気がする」
「あれは人が作り出したのですか!?」
魔法でもあの大きさの物を維持するなんて出来ない。セレナはそう思うと信じられないことだが、隊長であるロイスの言葉は信憑性は高い。
「・・・・・私はできる限り隊員を集めます」
「ああ、僕の方はその黒い太陽を見て、今後の対策をしようと思う。何が起こるか分からない状態だ。もし混乱をしている住民を見たら、出来るだけ建物の中で待機してもらうように伝えてほしい。もしくは避難所いを設けて避難させるよう」
「わかりました」
ロイスは痛む身体に鞭を打ち、行動を開始するのだった。
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