第31話 希望と決意
太陽がわたしを起こした。
カーテンを開けっぱなしのまま寝ていたらしい。こんなにいい朝は久しぶりだ。昨日は――いや、今朝は始発で帰ってきて寝不足のはずなのに、不思議とこんなにも清々しい。
渋谷の公開オーディションは自信はないけれど精一杯やってみることにした。夢で見た星空をもう一度見たいと思った。あの少年のように、自分の力で何かを掴みたいと思った。
オーディションのエントリーには二部門あって、歌姫募集と楽曲の募集だ。折角だから、両方挑戦することにした。作詞も作曲もやったことはないけれど、始めれば何かが見えそうな気がしたからだ。
難しいことはわかっているけれど、とにかく楽しいのだ。止まらないワクワクはきっとあの少年のおかげだ。
それに、わたしの気持ちを届けたい。あの星空を誰と見たいかと聞かれたとき、やっとわたしはハッキリと気が付いた。
わたしは小さな頃から大好きだった愛花にいつも笑っていて欲しい。
わたしと一緒に笑っていて欲しい。
それにはまず、わたしが笑えるようにならなきゃだめだ。
本当は今日にでも会いに行って、気持ちを全部伝えたい。でも、きっと今はダメだ。今の私では、《真奈美さん》になってしまった愛花に思いを届ける自信がない。
それほど大きな存在なのだ、お母さんって……その気持ちは、きっとわたしが一番理解できる。
とにかく、まずは詞を書こう。この思いをありったけ詰め込んで、愛花へ届けよう。
そう決意して、元同居人の鳴海さんが置いていったパソコンとにらめっこする日々が始まった。
ユーチューブの動画投稿のために、パソコンと格闘していたおかげで、検索スキルはなかなかのものだと思う。創作の準備に、フリーの作曲アプリをインストールして、入力用の小さなキーボード探した。
クレジットカードがないからポチることができないので、良さそうなものをピックアップして、秋葉原に買いに行くことにした。
秋葉原ではお目当てのミニキーボードはすぐに見つかった。その他にも、ミニドラムセットや、ボーカロイドのパッケージなど、欲しいものが目白押しだ、やっぱり秋葉原は夢の国だ。お金が足りなくて、買えないけれども。
愛花もここに連れてきたい。一緒に夜中まであそびたい。今、愛花はどうしているだろうか、あれから連絡はない。幸太も会えていないと言っていた。
お母さんから掛かってきたあの電話が、私を不安から解き放ってくれない。もう、お母さんと呼んではいけないと思うけれども……とにかく、あの電話で、わたしの心は大きく揺さぶられた。
――あなたが本物の真奈美なの?
そうだよ! って叫びたかった。でも、しなくて良かった。もし、そうしていれば、愛花はどうなってしまっていただろう。
きっと、お母さんは気が付いたんだ、愛花が真奈美さんではないってことに……どこまで思い出したんだろう。さざんかの事まで思い出してくれればいいけれど、そうでなければ、愛花は宙ぶらりんになってしまう。
真奈美さんが十年も前に亡くなってしまったことは、まだ、思い出していないのだろう。でなければ、わたしのことを本物の真奈美さんだと思い込んで、電話してくる筈がない。
でも、あれから一度も電話は掛かってきていない。よい方向へ行っていればいいのだけれど……。
愛花は……今、何を考えているのかな……。
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