第7話 ホームなのにアウェイ

 また、実家にやって来た。でも、今度は家を訪ねたりしない。あの女がまだいるのか確かめてやるんだ。いたら、尾行して、化けの皮を剥がしてやる。


 でも、何でこんな事しなくちゃいけないんだろう。わたしが一体、ナニをしたと言うのだろう……気がつけば、そんな事ばかり考えてしまう。普通に玄関から、ただいまって言って、エアコンのきいた部屋でソファに寝転び、くつろいでお母さんの手料理を食べる、そんな日常があるはずなのに……。


〈 真夏に炎天下でハリコミ中! 〉

 

 暑い。これは、なかなか耐えられるものではない。


 そう言えば、熱中症で運ばれる人が急増しているって言ってたっけ? あぁ、朦朧もうろうとしてきた。


 お水も持ってきていなかった、内陸部の夏の厳しさを忘れていた。


 あ……昔も同じ様な事があった気がする。確か、あの時は病院に運ばれたんだ……仲の良い女の子と二人ですごく歩いて……どこへ行こうとしていたんだっけ? 途中で道に迷って、探して、探して……夢中で歩き回っている内に行き倒れて……だめだ、だんだん視界が狭くなっていく、世界が緑色に染まっていく……。


 記憶もおぼろげだけど、意識もぼろぼろだ、確か、前に気を失った時も、こんな感じだったなぁ……。


〈 夏に負けました。皆さんさようなら 〉



「……ですか?」


――なにか、話しかけられている……ここはどこだろう。頭が痛い……そうか、実家の前で、電柱の陰に隠れて家の様子を伺っていたんだった……気持ち悪い……寒気がする……。


「大丈夫ですか?」


 暑いのに鳥肌がたっている、ワケわからないと思いながら、吐き気を我慢して、頑張って目を開けた。まだ夢の中にいるようだ。ずっと探していた、あの時のあの女の子が目の前にいる。


 あぁ……頭も痛い……この女の子と二人でどこに行こうとしてたんだっけ? えっと……いや、いや、そんなわけがない。あれは随分昔の話だった。やっと意識がハッキリしてきた……。


「――大丈夫です……おおっと……」


「大丈夫じゃなさそうですよ、ちょっと休んで行きませんか? うち、目の前なんで……」


「え? 目の前?」


 目の前にあるのはわたしの実家だ! と言うことはこの子……まずい、あの女だ……あの女に見つかってしまった……逃げなければ……。


「あっ! ダメですよそんなに急に動いちゃ! ゆっくり、ゆっくりこっちへ……階段に気をつけ下さいね……」


 慌てれば慌てるほど、体は思うように動かない……やっぱり……もうだめかも……。



――見知らぬ天井……なんて、そんな気分。


 結局あの女に導かれるまま、わたしは意図しない――というか、とんでもなくイヤぁな状況から逃げ出せないまま、逆に、願った通りにエアコンのきいた実家のソファでねころんで天井を眺めている。


「ホームなのに、アウェイ……」

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