第11話 わたしを覚えていた人
わたしはどんどん忘れられていく。
母に忘れられ、彼氏に忘れられ、独りになる。
わたしは、一体何なのだろう。
〈 わたしは誰? 誰か教えて 〉
誰にも必要とされないわたしは、わたしである必要があるのだろうか。
そもそも、存在する必要があるのだろうか。
独り、部屋のベッドに寝転んだまま、窓の外に見える月をぼうっとして眺めた。
私の脳裏には幼い頃の記憶が蘇ってきた。実はあまり覚えていない。人によっては幼い頃の記憶が無い人も多いらしいけれど、私も断片的な記憶しか残っていない。それを特別だとは思わないし、それで困ったこともない。
でも、たまに蘇る。あの時の記憶。
辛かったり哀しかったりで、ひどく落ち込んだ時には、きっと楽しかった記憶を引っ張り出してくるのだと思っている。
この前、熱中症で意識を失った時にも思い出したあの記憶だ。
お母さんに優しく抱き締めてもらった。大丈夫、大丈夫と何度も言ってくれた。今は忘れ去られてしまったのかも知れないけれど、きっと思い出してくれるはず……。
そう思うしかない。
でなければ、生きていけそうにない。
〈 らいん! 〉
着信だ。ヒイラギからの連絡が来なくなってからは、一度も鳴らなかった呼び出し音に、思わず胸が高鳴った。もしかしたら、ヒイラギかもしれない。やっぱりやり直そうって、後悔しているのかもしれない。
そんなことは無いと思ってはいるけれど、でも、やっぱり期待してしまう。
わたしは、急いで携帯を手に取った。自暴自棄になって、充電もしないでバックに入れっぱなしにしていた。充電ケーブルを差し込んで、電源を確保し、一旦、目を閉じて、深呼吸をしてから、LINEを立ち上げた。
――誰だ? これ
〈真奈美です。もしよかったら、一緒に行ってくれませんか? 週末に……〉
「真奈美……」
わたしからだ。
わたしになりすました、わたしからの着信だった。
誰からも忘れ去られてしまった、わたしを覚えていたのは、わたしだった。
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