第5話 悪い夢

 逃げるように自分の部屋へ戻ってきた。本当に警察を呼ばれてしまって、怖くなって逃げ出してきた。あの女は一体何者だったのか……本当は確かめたかった。


「ウチにいた、あの女……一体、誰なの? なぜ、ウチにいたの? お母さん……まなみはウチにいますって言ってた。あの女を本当にわたしだと思い込んでるの? まさか、そんなこと……」


 何かの悪い宗教にでも騙されてしまったのだろうか、わたしがいない間に、お母さんの心の隙間にもぐり込んできたのかもしれない。だとすればわたしのせい? わたしが、わたしがお母さんを棄てたと……そう思われていたのかもしれない。


〈 きょうはなんだか気分が悪い 〉


 よくリツイートしてくれるファンの子に心配させて、少し落ち着いた。


「……あ、ヒイラギ? ちょっと聞いて! 実は実家に……」


「今ちょっと忙しい……あとでラインするから……」


「いや、ちょっと待ってよ、大変だったの、お母さんがね、わたしを詐欺師だと言って警察を呼んで、怖くなって逃げてきたの」


「警察? 警察が来たからって逃げる必要ないだろ? ちゃんと事情を説明すれば、わかってくれただろうに」


「そ、それはそうだけど……」


「とにかく、忙しいからもう切るね! また後で!」


 切られた……はらだたしさコノウエナイ。


「ちょっと、どういうこと? 何でみんな、わたしのこと無視するわけ?」


 だけど、確かに警察から逃げてくる必要はなかった。なぜか、とても怖くなって、何も考えずに逃げてきたけれど、何がそんなに怖かったんだろうか?


 ヒイラギの的確な突っ込みが、余計に腹立たしくて、携帯を思わず投げつけた……ちゃんとソファのクッションを狙って。


 とにかく今日はもう寝てしまおう。ホントに悪い夢を見ているだけなのかもしれない……そう思うしかない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る