第16話 生まれかわった時から

 「じゃあ、今日はスカイツリー行ってみようか、実は私、初めてなんだ」


 マナミは今日も可愛らしい。これまで、正直言うと、よく彼女を見ていなかった気がする。


 腰まで伸びる黒髪と白い肌のコントラストが太陽に映えて眩しい。淡いピンク色のワンピースは『女の子ってこうじゃないとね』と誰もがうなずくだろう、清楚で可憐で……わたしを友達だと思って微笑みかけるその眼差しは、パッチリした二重にチワワの様に真っ黒で大きな瞳が潤んでいる。ヒイラギがちるのも責めきれない。


 いけない……さっきから誉め言葉しか出てこない。こんなことではダメだ。これは、あくまで友達芝居だ。マナミから情報を聞き出すためにやっているんだ。目的を見失わないようにしなければ……。


「どうしたの? 黙って見つめて……何か顔に付いてる?」


「いや、チワワみたいだと思って……」


「ひっどーい! アハハ! 私、犬じゃないよ」


「髪が長いから、ロングヘアーチワワだね」


「もう、まだ言ってる……早く行こうよ!」


 そう言ってマナミはわたしの手を取る。女の私でも少しドキッとする。マナミがでなければ、二人でユニットを組みたいぐらいだ。


 まただ。まずいまずい、わたしは一体、何を考えているんだ?


 わたしがここにいるのは、マナミを騙すためだ、わたしから奪った全てを取り返すためだ。ついつい、二人の時間も悪くないと思ってしまう。お芝居なのに、友達っていいなと思ってしまう。このままじゃダメだ。そう、聞き出さなきゃ。


 わたしを奪った方法を。


 上野公園を出たところでスカイツリーが見えたので、軽く行ってみようと歩き出したが、以外と遠い。こざこざした裏通りに下町ってこんなに素っ気ない建物の集まりなんだね、などと、たわいもない雑談をしながら、やっとわたしはマナミに向かって一歩踏み出した。


「マナミ……マナミはいつからあの家に住んでいるの?」


「私のおうち? ずっとだよ……ずーと」


「ずっと? 生まれた時から?」


「生まれた時……そうね、ある意味生まれた時からかな、生まれかわった時から……って感じ?」


 生まれかわった時から――


 この言葉の重みを強く感じる。


「生まれかわったのね、マナミは。それでどうだったの? 生まれかわってみて……」


「そう……ね……あまり良いもんじゃないかもね……でも、そうしなければ生きられなかった……って言うと大袈裟かな、うふふ」


 そう言うマナミはどこか寂しげで……明るい笑顔が曇っても、その魅力は失われなかった。きっと本心を語っているんだと肌に染み渡ってきた。生きられなかったという言葉が何を意味するのかは分からない、だけれど、わたしも同じだ。


 座れる椅子は一つしかない。


 目を離した隙に座られてしまったら、どかして自分の物にするしかない。


「わたしは欲しい」


「え?」


「わたしは最高な自分の居場所が欲しい」


「最高な居場所……」



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