第12話 望まぬ再会
待ち合わせ場所は池袋だった。
この街は何だか騒然としていてあまり好みではなかったけれど、ライブハウスが結構あるので、これまでにも何度か来たことがあった。
待ち合わせ場所には着いたものの、わたしはまだ迷っていた。狭い路地にあるライブハウスの近くに、小さな喫茶店を見つけ、取り敢えずコーヒーでも飲んで、気持ちを落ち着かせる事にした。まだ、随分時間もある。
相手は憎きニセわたしだ。わたしとしての地位を奪還するためには情報収集したいところだけど、笑顔で友達芝居を続けられるだろうか、もし、わたしがわたしだと、ばれてしまった時には、かえって不利にならないだろうか。
運ばれてきたホットコーヒーにミルクを二つ入れる。ひとつを先に入れて、よくかき混ぜた後、もうひとつを少しずつ注ぐ。
まだ、白いカップの中で渦を巻くコーヒーに、白いミルクがぐるぐると模様を描く。
どうしようか、このまま友達芝居をやるのか、いっそ、諦めて帰ろうか……。
渦巻き模様のコーヒーが、まるで、決めきれないわたしの優柔不断な心のように思えてきて、スプーンでぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
なんだか、自分がバカみたいに思えてきてコーヒーをぐいっと飲んだ。まだ熱かったコーヒーに驚いて、思わずガシャンと音をたててカップを置いた。
思いのほか大きな音をたててしまったので、反射的に周りの様子をうかがった。
わたしが顔を上げると、ちょうど目が合った。
一瞬、時が止まった。
まだ、心の準備ができていない。
わたしは、どんな顔をしているのかもわからないまま、その名前を呼んだ。
「――マナミ……さん」
わたしではない、わたしに対して、わたしの名前を、わたしが呼ぶ……胸がちくんとした。
待ち合わせ場所はライブハウスの前だった。しかも、まだ時間はある。なぜ、よりによって、この喫茶店に……偶然のイタズラに振り回されるわたしは、アワアワと息をするのにも苦労した。
「リコさん! ここにいたんだ! 良かった、会えたね!」
喜ぶマナミの後ろから、続けて男が入ってきた。息苦しかったわたしの呼吸は、彼を見て、完全に止まってしまった。
「ヒイラギ……どうしてここに……」
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