第9話 おともだち芝居

「調査って……どんな感じ?」


 ざわざわと騒がしい、いつものファミレスなのに、私はなんだか落ち着かなかった。ヒイラギが到着して、席にすわろうかどうかという時、私はもう、質問を投げ掛けていた。


「うーん、実はね、丁度、別の案件があって、それが済んでからだって言われてさ」


 ――そうか、期待していた訳ではないけれど、他人にお願いするってこういう事だ。私はソファの背もたれに寄りかかったが、思いのほか勢い良く背中を打って、飲んでいたコーラを吹き出しそうになった。


「そんなにがっかりするなよ、ごめんよ……そうだ、リコはどうだった? 行ってきたんだよね、実家に」


 私はヒイラギにざっくりかいつまんで話した。具合が悪くなって、部屋に連れていかれたこと、向こうは私に気がついていないこと、LINEのIDを聞いたこと……。

 改めて考えると、私はあんまり何もできていない……と、ヒイラギに話して始めて気が付いた。それまでは、頑張ったと思えていたのに。


「――それそれ、それ、いいんじゃない? もうLINEしてみたの?」


「ううん、まだ……何て書いていいかわからなくって……」


 結局私は、あの時、何を話せばいいか、ひとつも思い付かなかったし、その後も思い付かない……自分が思っているよりバカなのかな?


「俺さ、協力するって言ったけど、結局何もできていないから、気になっていたんだよね、そんでさ、今、思い付いたよ。友達になっちゃえばいいんじゃない? うんうん、我ながらいいアイディアだ」


「え? バカなこと言わないで、私が仲良くできると思う?」


「演技でいいんだよ、おしばい。向こうだってリコを――本名は、まなみだっけ? 演じているんだろ? だったら、リコもおしばいしてもアイコだろ?」


 お芝居か、でも、それって嘘つく事になるんじゃないかな……しょうがないと思うけど、でも……。


「あんまり、自信ないな」


「そっか、まあ、できたらでいいよ、なら、俺が探って見るからID教えといてよ」


「うん……」


 ヒイラギにLINEのIDを伝えてその日は別れた。


 私はこのままどうなってしまうのだろう。


 三百万の借金を抱えて、唯一の頼みの綱である、母親に忘れ去られ、高校も卒業しないで、なれるかどうかもわからないアーティストを目指している。


 ものすごい脱力感が襲ってきて、私は部屋に入るなり、ベッドに吸い寄せられたまま動けなくなった。


 きっと、明日は良くなっている。今日よりきっと、よい朝が迎えに来る。そう念じながら眠りについた。

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