あらわれた死体

 




 ここは?


 美弥は、おなじ配膳室の床に立っていた。


 だが静かだ。

 誰もいない――。


 見上げてみれば、同じように厚くて外がゆがんで見えるガラス窓があったが、そこから差しこむ光は夕暮れだった。


 いつの間に……。

 それにみんなは、どこへ行ったの?


 美弥は足を踏み出そうとして、何かをった。


 きゃっと転びかけて、壁に手をやり、みこたえる。


 見下ろしたそこにあったのは、小さな女の子の死体だった。


 足もとに小さな女の子が倒れている。


 少し古臭い服装。


 うす暗い中でもわかるほど、その瞳孔どうこうは明らかに開いていた。


 生きている者の匂いがしない。


 美弥は辺りを見回す。


 誰か、誰かいないの?

 みんな、どこにいるの?


 耳が痛くなるほどの静寂せいじゃく

 その中で……


 水滴すいてき――?


 どこから?


 ゆっくりと、唯一ゆいいつするその音にすがるように美弥は歩き出す。


 二つ目の棚の奥をのぞき込んだ。


 どう雨もりしているのか、一階のはずの天井から、たまった雨水らしきものがしたたり、床をらしていた。


 その前に――。


 後ずさった美弥は棚にぶつかる。


 背後はいごに気配を感じて振り向いた。


 そこには、やはり、あの少女がいた。


 たおれたまま、瞳孔どうこうの開いた目でこちらを見ている。


 いやっ。


 美弥はその場にしゃがみ込んだ。







「美弥ちゃんっ」

 目を開けると、そこは暗闇くらやみだった。


 いや、実際じっさいは明るい月がらしていたのだが、さっきまでまぶしい夕暮れの光をあびていた美弥には、そう見えた。


「大丈夫?」

 よろけた美弥をささえたのは叶一だった。


「あ、ありがとう。ごめんなさい」


 そこはまだ階段を下りている途中とちゅうだった。


「すべったの?

 さっきの地震なんだったんだろうね」

と叶一が言う。


 大輔って、間が悪いよね。後ろから、ぼそりとそんな浩太の声が聞こえる。


 り返ると、大輔はすぐ側にいて、ちょっと機嫌きげん悪くこちらを見ていた。


 いつも通りの大輔の顔を見ながら思う。


 今のは夢?

 白昼夢はくちゅうむ―?


 ううん、今は夜だけど。


 そう思ったとき、みんなが話すのをやめたせいか、ぴちょん、という音がふたたびひびいた。


 水滴すいてき――。


 現実げんじつにあの水音がしている。


「あれ? なんだろ。

 雨もり?」


 人数が多いせいか、特に何もなかったせいか、安心したらしい倫子が、ふっと前に出た。


「倫子っ、駄目っ!」


 反射的はんしゃてきに叫んだとき、彼女の悲鳴が聞こえた。


 きゃああああっ。


 大輔がけ出す。


 倫子はあの棚の向こうに座りこんでいた。


 美弥が夢の中で見たあのたなの向こう――。


 それと同じ光景が広がっていないことをあのりつつ、美弥もまたのぞき込んだ。


 座り込んだ倫子の指さす先には、音のみなもとが。


 どう雨もりしているのか、一階のはずの天井から、たまった雨水らしきものがしたたり、床をらしていた。


 その前に―


 大輔が、現実感をなくして、ふらりと近寄りかけた美弥の肩を引いて後ろに下げる。


 叶一が側にしゃがみ、その人物のみゃくをとる。淡々たんたんとした声で、

「死んでるよ」

と言った。


 その水たまりの中に、夢と同じ、スーツを着た教頭先生が、しゃがみこむようにして息絶いきたえていた。









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