第三章 真・きもだめし

テントの中の悪だくみ




「俺は反対だ」

と大輔が言った。


「じゃあ、あんた来なけりゃいいじゃん」


 テントは班をくずして、男子女子に分かれているのだが、今は美弥たちのテントに全員が集まっていた。


 浩太のいう配膳室の霊現象を確かめに行こうという話になったのだ。


「確かめてみたくはあるけど、夜行かなくても」

と一志が小さく反論はんろんする。


「でも、昼間じゃ幽霊は出ないでしょう?」


 そう言った一美に、出てるよ、と浩太が口をはさんだ。


「みんなに見えてないだけだ。

 だけど、夜の方が力が強いのは確かだから」


「浩太、世迷言よまいごとせ」


 ため息混じりに言った大輔に、美弥は、


「あら、大輔は幽霊いないと思ってんでしょ。

 じゃあ、行ってもいいじゃない」


 別に乗り気ではないが、なんとなく流れでそう言ってしまう。


「お前、また怒られるぞ、御法川みのりかわに。

 スイカ運ぶの手伝ってて、落として割ったろ」

と言われ、ちっ、見てたのか、と舌打ちをする。


 御法川というのは、付属ふぞくから手伝いに来ている先生なのだが。


 いかにも生真面目きまじめな感じで、美弥はあまり得意とくいではない。


 だが、佐田先生にそう言ったら、それでもそういう先生も必要なんだと言っていた。


「ところで叶一さんは何処に行ったのよ」


 さっきから見かけない叶一に美弥が言うと、浩太が、


「あ、叶一さんの学校の人たち、さっき他所の学校の女の子ナンパしてたから、いっしょかも」

と言う。


「え~、なにそれっ。

 止めてよっ、浩太くんっ」

と倫子が浩太の首根っこをつかんで揺する。


「ぼ、ぼくに言われても……」

と首をガクガクされながら、浩太は力なくうったえていた。






 わはははーと豪快ごうかいな笑い声がして、美弥たちは、びくりと身をすくめた。


 一階の、職員室と書かれた部屋から灯りがもれている。


 どうやら、先生や父兄たちが宴会をしているらしかった。


「いいのか? あれ」

「街の方なら大問題だよ」


 大輔のつぶやきに、浩太が苦笑いする。


 これでなにか問題が起こったら、監督不行かんとくふゆき届きで槍玉やりだまに上がること間違いなしだ。


 まあもっとも、こうやって、やってはいけないとわかっていることをやる生徒がいなけりゃいいだけの話なのだが。


「あの前を通らないと配膳室には行けないよ」

と浩太が元職員室の前の廊下を指さす。


「ならもう、やめようよ~」


 美弥は灯りの向こう、暗がりの階段を見て、今更ながらに駄々だだをこねる。


 ぼんやりとしか見えないそこに、勝手に想像で、いろんなものを見てしまっていた。


「だって、お盆には縁故えんこの人が足をひっぱりにやってくるのよ~」

と美弥が訴えると、一志が、


「縁故の人って?」

ときいてくる。


親戚しんせきとか、自分たちといろいろとつながりのある人のことだ」

と大輔が答えていた。


 倫子と一美がたたみかけるように言ってくる。


「……美弥、またなんだか色々混ざってるから」


「今、お盆じゃないし。

 それは縁故の人じゃなくて、エンコ。


 お盆に海に入ると足を引っ張ってくるっていう妖怪でしょ?」


「ええっ!? 縁故の人じゃなかったの!?」

と美弥が声を上げると、


「お盆には、縁故の人が足を引っ張りにくる、か。

 みょう辻褄つじつま合ってんな」

と下手に財産があるせいで、親族しんぞくの中でもめ事がなくもない大輔が、変に感心したようにつぶやいていた。


「よしっ!

 ともかく、ここ通らないとどうにもならないから、け抜けようっ!」


 気の短い一美がそう叫び、いきなり、走り出そうとしたとき、うしろから、のんきな声がした。


「せんせー、ここに脱走者だっそうしゃがたくさんいるよー」





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