再び再び、配膳室







「あのー、開かないんですけど、隊長」


 誰が隊長だ、と大輔がにらむ。


 いきおいこんで来たものの、配膳室はいぜんしつのドアも開かなかった。


 大輔は戸を見て考えこむ。


「この中にまだ、いろってことか?」

と誰にともなくつぶやいていた。


 美弥ちゃん、と叶一が近くの部屋から、半身をのぞけて手招てまねきしている。


 そっとそちらに行くと、叶一はその部屋の時計を指さした。


「五時四十五分で止まってるんだ。なんの時間なんだろうね?

 一階はぜんぶの部屋の時計がこの時間になってる」


「こりゃまた、お約束ね。

 これが動けば帰れるってことかな」


 どうだかなあ、と叶一は半信半疑はんしんはんぎだ。


 よく見れば、そこは職員室しょくいんしつだった。


 今は机が並んでいるが、あの宴会場えんかいじょうとなった場所に他ならない。


 ふいにたくさんの人のまぼろしが見えた。


 みんなが楽しげに酒を飲んでいる。


「ふっと目を閉じたら」

「ん?」


「現実に戻ってたりしないかしらね」


「こっちが現実かもよ」

と叶一らしい意地の悪いことを言う。


「わたし、きっと、防空壕ぼうくうごうに逃げ込んだとき、頭を打ったんだわ。それでずっと夢を見てるの」


「またまた、らしくもない現実逃避げんじつとうひを……」

と叶一が言いかけたとき、ふと外を何かが横切よこぎった。


 窓に走りる。


 裏庭を歩く人影、それは教頭だった。


 うつむきさみしげに歩いている――。


「教頭!?」

「……もしかして、僕らをここに引っり込んだのは教頭なのか?」


「なにやってんだ?」

 り向くと大輔が立っていた。


「大輔、今、そこに教頭が」


 一瞬いっしゅん、本当は教頭は生きていたのではないかと思った。


 これらはすべて壮大そうだい悪戯いたずらで――。


「決めたわ」

「え?」


「これは――

 四、きもだめしのつづきである」


 はあ? と二人は声を上げる。


「そう思うことにするの。

 これはきっと誰かが仕掛けたイタズラよ。


 そう思って冷静れいせい対処たいしょするの。


 こんなびくびくしてるのわたしたちらしくないわ。

 なんでわたしたちがここに引っ張り込まれたと思う?」


余計よけいなことに首突っ込んだから……いてっ」


「そうじゃなくて。

 きっとその誰かがわたしたちに何かを知って欲しいのよ。


 それはわたしたちならそれが出来ると思ったからだわ。


 だったら、いつも通り冷静に機転きてんをきかせて動かなきゃゴールはないじゃない」


「すごいポジティブシンキングだね」

 叶一はいっそあきれたように言う。


「ともかく! 校舎の中、探索たんさくするわよ」


「あ~、結局けっきょく仕切しきってるし……」

と叶一がつぶやくのが聞こえた。


 外に出て、まだ動くのが怖いのか、たむろっていたメンバーと話をする。


 とりあえず、ぜんぶ見て回ろうということになって歩き出した。


 横にそっと来た大輔が小声でささやく。


「お前、それでゴールに何があると思ってんだ」

「……あんまりわたしたちが見たくないもの、かな?」


 さっき、ここに自分たちを引きずり込んだ何かは、自分たちになぞいて欲しいのだろうと言った。


 それは間違まちがいないと思う。


 では、その何かが自分たちに好意的こういてきかと言うと、そうではないような気がする。


趣味しゅみ悪いよね……」


 美弥はぽそりとつぶやく。








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