第五章 PM5:45

図書室の探索

 





 一階に特に異常はなかったので、美弥たちは二階に上がることになった。


「思うんだが、あの配膳室の霊が何かこの現象げんしょうに関わっているのなら、やっぱり、あれのことを調べるべきだと思う」


 階段を上がりながら言う大輔の言葉に、

「でも、誰かにきこうにも、ここ、人がいないじゃない」

と一美が反論はんろんする。


「……いたけどね」

と美弥はぼそりと言った。


 大輔がにらむ。


 教頭の姿を見たなどと言ったら、またみんなが取り乱すと思ったからだろう。


「だが、ここで正解せいかいがつかめないのに、俺たちを取り込むことはないような気がする。


 全員をたたり殺すとでもいうのなら別だけど」


「さらっと言わないでよ、大輔~」

と浩太が苦笑いしていた。


「必ず何処どこかに突破口とっぱこうがあるはずだ」

 そんな大輔の言葉にしたがい、二階三階と見て回ったが、やはり、何もない。


「大輔せんせー、どうしましょう」


 二階に戻ってきたとこで、美弥が言うと、大輔は、

「今度は先生に昇格しょうかくか」

と舌打ちをする。


「お前ら単に俺を持ち上げて、いいように使おうと思ってるだけだろう?」


「あ、わかっちゃった?」

と美弥は、かくさず笑った。


 そのとき、浩太がつぶやいた。


「なにからなくない?」

「え?」


「今回った中で、なにかあるべきものがなかったような」


 そういえば、と倫子たちは顔を見合す。


「図書室がないね。なかったのかな、この校舎こうしゃ


 そんな莫迦ばかな……。


「図書室か……」

と大輔がつぶやく。


「配膳室の霊、馬の耳に念仏ねんぶつ、か」


「だから、馬の耳じゃないんでしょ」

と美弥がいじけたように言うと、


「よし、図書室をさがそう」

と大輔が言った。


「図書室が見当たらないのには、わけがあるはずだ。


 もしかしたら、あそこにあるのかもしれない。


 配膳室の霊について書かれたものが」


「どうして?」


「美弥、ここは、俺たちの学校の旧校舎でもあるんだぞ。


 あの風習ふうしゅうが、昔からつづいていたものだとしたら」


 あっ、と全員が声を上げる。


「だいたい、怖い話を作って、自分たちでノートに書き込むなんて、あんまり本が手に入らなかったころの名残なごりなんじゃないか?」


「でも変じゃない?」

と浩太が口をはさむ。


「大輔の推論すいろんからすると、配膳室の霊は自分のことを知って欲しいわけでしょ?


 なのになんで、それがわかるかもれしない図書室の存在をふさいで見えないようにするのさ」


 大輔もそれが引っかかってはいるようだった。


「まあ、いいじゃない」


 ずるずるつづいてしまいそうな議論ぎろんにキリをつけるように美弥が言った。


「探しましょうよ。

 いくつかのグループに分かれて」


「それは危ないんじゃないか?」


「だって、全員でぐるぐるしてても、なんだか見つけられそうにないし。


 ね? 大輔、浩太くんと行きなよ。


 一美たちは三人で、わたしは叶一さんと行くから」


「あっ、ずるっ!」

と倫子が抗議こうぎの声を上げた。


 それをちらと見て、美弥は言う。


「わたしたちは、もう一度、配膳室を見て来ようと思うんだけど。


 倫子、いっしょに行く?」


「け、けっこうで~す」

と倫子はすなおに引き下がった。


 この空間に飛ばされる前に、一階はうろうろしていたので、一階に図書室がないことは確認かくにんずみだ。


 大輔たちに、二、三階の探索たんさくをまかせて、美弥は叶一と下へ降りていった。


「ねえ」

「んー?」


「なに、たくらんでんの?」


「あなたは昔からわたしの顔見ると、なにか、たくらんでるって言うわ」


 階段を下りながら、ふり返りもせずに美弥は言う。


「だってさ。

 ふだんはあれだけど。


 いざとなると、僕が知ってる誰より目がすわってるんだもん」

と言ったあとで、


「……ところで、大輔がうらみがましげにこっちを見てたよ」

余計よけいなことを付け加えてくる。


「あら、大輔のためにやってあげたのよ。


 声、落として」


「え?」


「反対側の階段から上がるから」








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