書道教室

 


 



 そっと辺りをうかがいながら、美弥たちは、反対側の階段から、二階に上がった。


「やっぱりないねー」

という声が聞こえた。


 浩太だ。

 書道教室の戸がうっすら開いている。


 倫子たちは三階を回っているはずだ。

 美弥と叶一はそっと戸にりつく。


 のぞき込むと、夕陽の落ちた木造もくぞうの教室に、二人は少し離れて立っていた。


「図書室って突き当りが多いよね。三階よりは二階の方がありそうかも。一年生が上がりやすいように」


「浩太」


 大輔の声が彼のおしゃべりを止める。


「……お前、霊が見えるなんてウソだろう」


 浩太がゆっくり幼なじみをふり返る。


「なんで?」


「なんででもいい。

 お前に霊は見えない。


 俺はさっき確信かくしんしたんだ。


 お前は本当は――!」


「そうだよ」

と浩太は笑う。


「僕には霊なんか見えない。

 きもだめしの林の話も、親に聞いたことがあるだけだ」


「なんだって、そんなことっ!」


 いきどおる大輔には流されず、まるで別の空間にいるかのような静けさで浩太は言った。


「僕に見えるもの―― それは、未来」


「やっぱり……お前、わざと俺たちを巻き込んだんだな!


 お前には教頭の死体があそこにあるのがわかっていた。


 わかっていて、俺たちをあそこに誘い込んだんだ!


 何故なぜだ!?」


 大輔につかみかかられても、浩太は動じない。


「さて、何故でしょう?」

とうすら笑いさえ浮かべている。


 その落ち着き具合に大輔は手をゆるめた。


「……お前、もしかして、犯人もわかっているのか?」


「それが動機どうきなんじゃない?」


 ふいにした声に大輔がふり返る。


「美弥」


 いきなり戸を開けた美弥に、腰をかがめて見ていた叶一がつんのめる。


「美弥ちゃん、あのね―」

抗議こうぎしようとする叶一をとめながら、美弥は言った。


「あなたがわたしたちを引き込んだのは、それは、犯人が――」


 そのとき、倫子の悲鳴が夕暮れの旧校舎にひびわたった。







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