配膳室の女の子



 




「夕方、配膳室に行くと、ふだんはかかっている鍵が開いている。


 人の話し声のようなものが聞こえるので、そっとのぞいてみると、女の子の幽霊が階段のところにたおれている。


 近づくと追いかけてくるが、配膳室からは出て来ない」


 一志が声に出して読んだ。


「あ、配膳室からは出てこないんだ」

とほっとしたように一志は言ったが、横でそれを聞いていた大輔は眉をひそめた。


 今、出てたじゃないか、と思ったのだ。


 ここが通常つうじょう空間くうかんとは違うから出てこられたのか、それとも、ふだん、配膳室から出ないのは、なにか理由あってのパフォーマンスなのか。


 そう思ったとき、一志が続きを読んだ。


「昔、この配膳室に閉じ込められた女の子が喘息ぜんそく発作ほっさで死んだらしい」


 閉じ込められて――。


 そうか。

 それでだ、と大輔は気がついた。


 だから、ふだんは、配膳室から出てこないんだ。


 そこから出られなかった無念むねんをうったえるために。


「人の話し声かあ」

とつぶやいた叶一が、


「何十年かのうちに、その人の話し声って部分が、いつの間にか、馬の耳に念仏になっちゃったんじゃないの?」

と美弥を笑う。


 もうっ、と美弥は、すねてみせたが、すぐに顔つきを変え、


「でも――」

と言ってきた。


「なんで、話し声がするのかしら?

 そこで死んだのも、出てくるのも、その子一人なのよね?」


 うーん、と一志はページをめくる。


「ここには、それだけしか書いてないけどなあ。

 別のとこにあるのかなあ」


 別のとこ?


 はっとした大輔は手にあるノートを広げた。


 それに気づいた美弥がいっしょにのぞいてくる。


 今度は霊は出なかった。


 美弥がそのページに書かれている文章を声に出して読みはじめる。


「崖下の幽霊――」






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