宴会

 

 




「裏切り者だわ、叶一さん」


 元職員室の後ろに並べられた長机の上で、美弥はおつまみの袋を開け、紙皿の上に出していた。


 結局、全員がバツとして、宴会えんかいの手伝いをさせられることになったのだ。


「おう、倫子。しゃくをしろ」


「ちょっと、おじさん、飲みすぎ~っ」


 倫子の親戚しんせきのおじさんもボランティアで来ていたようだ。


 みんな古い床の上におつまみや、夕食の残り物を並べて飲んでいる。


「だって僕、さそわれてないもんねー」


 すねたように言う叶一を大輔がにらむ。


「お前は高校生にもなって、小学生のきもだめしにさそわれたかったのか」


「僕、佐田が途中とちゅうで放り出した映写機えしゃき後始末あとしまつに終われてて、結局、きもだめしも見れなかったんだからね」


「だって、お前の方がくわしいじゃないか」


 そう言いながら、佐田先生がこれ持ってけ、と昼間のサラダの残り物を手渡す。


 だが、そのままそれは、叶一から美弥の手にスライドした。


 もうなんにもやる気ないな、この人……。


 冷蔵庫にでも入っていたらしく、サラダは冷たかったが――。


「ちょっと、先生」

「なんだ」


「これ、先生や父兄の人が食べた晩ごはん?」


「そうだが?」


「なにこれ、パプリカじゃないっ」


 パプリカ? と横から叶一がのぞき込む。


「この赤いのと黄色いのっ。

 私たち、ふつうのピーマンだけだったのにっ」


「ああ、ピーマンの色ついてて大きいのみたいなの。

 僕はあんまり好きじゃないけどなあ」


「そう? おいしいし、高いのよ」


「そうだったのか、気づかなかったよ」

と言う佐田先生に、


「先生、食べてみてよ、違うから」

と美弥はサラダを向ける。


 はしをわたしたが、佐田先生は、ふつうのピーマンしか入っていないところを摘んだ。


「いやだからさ、パプリカ食べてよ。

 ピーマンの味はわかるでしょ」


「美弥……お前、おばさんくさいぞ」


 なにが高いのよだ、とおじさんたちから呼ばれて、びんビールを持っていきながら大輔が言う。


 それに付き合っている浩太が横を通るとき、ささやいた。


「よかったね。

 なんかうやむやになりそうで」


 うん、と美弥は笑ってみせたが、そんなにあまいメンバーではないことを知りすぎるほど知っていた。 






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