第42話 パロディだけどパロディと関係のないガリバー旅行記
ガリバー青年は旅行が大大大好きなカメレオン俳優だった。
俳優業を旅費のためにやっていると言っても過言ではなった。
彼は人の倍は好奇心に満ち、知識に富み、探究心は彼の行動の原動力となっていた。
様々な世界を股にかけ、ある時は巨人に、ある時は小人に、ある時は妖精さんに、ある時は動物に……と様々な役をこなしつつ、彼は色々な人たちを見てきた。
名を変え、姿を変え、多くの「旅行記」を世に出したガリバーは、晩年はとある山麓に落ち着き、余生を過ごしていた。
彼の暮らす丸太のコテージの窓枠という額縁の中には、万年雪を戴く標高の高い山々が毎日異なる絵画を見せてくれた。
コテージに誰もいない時、おそらくは究極の芸術の一つを彼は贅沢にも独り占めできた。
ここでは決して雲からブランコが……なんて事は起きないが、山羊乳のチーズを削りながらそんな妄想を膨らませた事もあった。
ぱちぱちと眠気を誘う暖炉の薪が爆ぜる音を耳に、ガリバーはロッキングチェアに揺られている。
コテージに観光客を宿泊させて生計を立てながら、彼は代金をまける代わりにと、そのお客たちから沢山の種類の話を聞いた。
もう随分と歳を取って自分では行けないだろう場所の話、人生では直接的に関われなかった人々の話を聞く度に、彼は持ち前の想像力と創造力を発揮して、まるで我が事のように追体験していた。
若い頃は自分の足でどこへでも旅行が出来、老いてからはどこにいても旅行が出来る彼は、自らを果報者だと思っている。
自らの経験した旅行が、この美しい世界にちりばめられた童話の数々として大勢の意識の中に残る様を、彼は大変満足に感じている。
――物語は旅行だ。
どことも知れない温かな暖炉の傍で、カリバーは今日も新たな世界を楽しみに目を閉じる。
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