第25話 コラボ5「シンデレラ」×「掃除のおばちゃん」
ある所に
毎日毎日継母とその娘たち、つまり義理の姉に虐められ、寝床はいつも台所の煮炊き用暖炉の側でした。なので名前の通り頭から足の先まで灰に汚れて見るからに汚い姿です。
ある日、すこし家計に余裕ができたというわけで継母は掃除のおばちゃんを雇いました。
見た感じどしっとして貫録のある、実はお宅関取では?と問い正したくなる……いえいえとても抱擁力ありそうなふくよかな女性でした。
継母的には住み込みで働いて欲しかったのですが、掃除のおばちゃんは別に家庭を持っていましたので通いで妥協する事に。
「掃除婦さん、娘たちの部屋を綺麗にして頂戴。あとは来客の目に付く場所とか」
「畏まりました奥様!」
継母は二人の実の娘たちの部屋を綺麗にしてもらおうと指示を出します。……シンデレラに頼むと灰が落ちて結局いつまでも終わらないのです。
「それじゃあわたくしは娘たちとちょっと出掛けて来ますわね。後はよろしく頼みますよ」
「畏まりました奥様!」
掃除のおばちゃんは表情豊かにとても張り切っています。天職なのでしょう。
継母たちは王子の花嫁を決める舞踏会に出るためのドレスの採寸日でした。
さて、意気揚々と言われた部屋とその他を綺麗にした掃除のおばちゃん。
彼女は言わずとも知れた掃除のエキスパートでした。
どんな屋敷の掃除も朝飯前の脅威の技術とスピードの持ち主だったのです。
なので、継母たちが出掛けた一時間後にはほぼ全ての部屋の掃除を終えてしまいました。
「あまり大きくもないし掃除し甲斐のない家だねえ全く」
引く手数多な彼女がわざわざこの家に雇われたのは一体何の因果か、きっと天の采配ですね。
或いはこんな部分で魔法使いの魔法が効いているのかもしれません。
「あら? そう言えば台所がまだだったねえ」
おばちゃんは「うっかりしてたわ~」とお茶目に言いながら踏み込みます。
「――!! 何て汚い……! それにもう一人いたのかい」
シンデレラです。
彼女は突然入って来た恰幅のいい女性に気圧されてしまって上手く口が利けません。
「何だい何だいそんなに汚れた格好して! あんたも女性ならもう少し身綺麗にしときな。ほらおいで」
シンデレラは有無を言わさず水場へと連れられてごしごしと体を洗われました。
(私、収穫された大根にでもなったみたい……)
頭から水を掛けられている間、シンデレラはそう思っていました。
「ほら綺麗になった! ――おやおやあんた美人さんだねえ。こんな日陰に居るのが勿体ないよ。女優かお姫様にでもなったらいいんだよ」
「……私は、いいんです」
「無欲な子だねえ。まあとりあえず新しい清潔な服を着といで。その間小汚い台所を掃除しとくからね」
「え、でも」
「あたしは掃除のおばちゃんだよ。汚いは悪! 生理的に許せないのさ」
「はあ……」
わかるようなわからないようなこだわりを述べられ、シンデレラはとりあえず従います。
「あの子は誰かがしっかり支えてやんないと駄目だね。どうせなら土台から強固な男が良いねえ。うーん、この国の王子なんかぴったりじゃないか……?」
ささっと散らかった灰を片付け水拭きをして
実は以前結婚相談所にも務めていた経歴の持ち主です。
仕上げに除菌スプレーをさらっと吹きかけて掃除完了。
「あの、着替えました」
ちょうど着替えて来たシンデレラが台所に入って来ました。
「……その黄ばんだ服、洗ったのはいつだい?」
「ええと、さあ……」
不合格でした。
またもや身ぐるみを剥がされたシンデレラは見違えるようにピカピカ輝く台所に放心していました。
(ふふ、これはもしかして全部夢かしら?)
なので幸い自分の格好の事にはあまり気が回りません。
と言うか自らの境遇についてもさほど深刻に捉えてないあたり、彼女は不思議ちゃんなのかもしれません。
そのうち、これもめっちゃ早いですが服を洗い乾かし終えた掃除のおばちゃんが戻って来て、新品みたいに白くなった服をシンデレラに渡してくれました。
このおばちゃん実は過去にクリーニング屋にも以下略。
「他も洗っといたからね」
「あ、ありがとうございます」
「!!」
おどおどとしてはいましたが、はにかむような笑みにおばちゃんの母性が目覚めます。
彼女の子供たちは男ばかりかつ皆大きくなって自立、結婚していました。
しばらく開店休業中同然だったので充電完了、満タン母性の覚醒です!
「おばちゃんね、ずっと娘が欲しかったのよ……! 嫁はあたしが窓枠とか汚れてるって指摘すると不貞腐れるし生意気で可愛くなくてホント不満たらたらよ。だからあんたみたいな可愛い娘がね……!!」
嫁姑関係は微妙なようでしたが、掃除のおばちゃんはシンデレラにはいいおばちゃんでした。
「ところで王子の舞踏会には行くのかい?」
「いいえ、ドレスもないですし」
「あんたの幸せのためにあたしが何とかしてあげるよ!」
そうして、掃除のおばちゃんはこの家に通って掃除婦を続けつつ、シンデレラを磨く事に余念がありませんでした。
継母たちが文句を言ってきそうですが、シンデレラの変貌に彼女たちは気付きません。何故なら普段からほとんど顔を合わせない生活をしていましたし、掃除のおばちゃんが勝手に連れて来た掃除見習いだと勘違いしていたからです。余計な給金が発生しない以上、継母は口を挟むつもりはありませんでした。各業界人材育成も大切です。
そうして日々は過ぎ、王子の舞踏会当日です。
継母たちはさっさと出掛けて行き、残されたシンデレラにおばちゃんは堂々大きな胸を叩いて告げます。
「あんたん家の物置に入ってた古い馬車、掃除したら使えそうだったからちょうど良かった。デザインがかぼちゃモチーフで多少奇抜だけど我慢してこれで夜会に行きなね。馬は伝手で安く借りられたからさ」
「あ、ありがとうございます。靴やドレスだってこんな素敵で綺麗なのを……!」
「感謝するなら、良い男(=王子)をゲットしてからにしとくれよ」
とは言いつつ照れるおばちゃんです。
「あ、馬のレンタル今夜12時までだから忘れないようにね。遅れると延滞料かかるから」
「はい、わかりました」
シンデレラは見送られ、舞踏会に。
そしてガラスの靴を片方忘れて帰って来ます。
後日、王国では王子が舞踏会で一目惚れした女性を捜していました。
彼女の忘れ物であるガラスの靴を試させています。靴にピッタリ合う女性はまだ現れていません。
まあなんやかんやあり、とうとうシンデレラの順番になりました。
……不服そうな継母たちを掃除のおばちゃんは腕っ節を見せて黙らせていたりします。
「では、シンデレラ」
「はい」
おずおずと彼女がガラスの靴に爪先を付けようかと言う所で、
「――その靴ちょっと待ったあああ! 履くんじゃないよ!」
掃除のおばちゃんです。
ものすごく怖い顔をしています。
予想外の妨害にシンデレラは困惑しきりです。
「だ、誰だその
王子の遣いの一人がビクつきながらも怪訝にします。
おばちゃんは据わった目でその遣いの男たちとガラスの靴を交互に見やります。
「あんたら正気かい!?」
「は?」
「――何人足入れたかわからない雑菌だらけの靴を消毒もせずに履かせようとするなんて……!! 水虫の奴がいたらどうしてくれるんだい!? え!? この愚か者共が!!」
!?
良く見れば、透明なはずのガラスの靴は一部が白っぽかったり黒ずみがあったり、多分顕微鏡で見ると寄生虫やらなにやらまでいるのかもしれません。
「……ひっ!」
シンデレラが慄きました。
「は、履かなくて良かった……」
我先にと足を突っ込んだ義理の姉たちは青くなって大急ぎで足を洗いに行きました。
「一度きちんと洗浄して綺麗にしてから出直しな!」
「「「もッ申し訳ありませんでした!!」」」
おばちゃんの気迫の呑まれ、遣いたちはすごすごと帰りました。
「おばさまありがとう!!」
「シンデレラ幸せにおなり!!」
その後仕切り直してピッタリだったシンデレラは、城に招かれ王子と再会。
結婚し末永く幸せに暮らしました。
余談ですが、王城はいつも塵一つ落ちていなかったと言います。
めでたしめでたし
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