第9話 ウサギとカメ

 あるところにウサギとカメがいました。


 足の速いウサギはいつもインテリ眼鏡をかけたカメをからかいます。


「もしもしカメさんよー、やーいのろま~」

「その通りですが――何か?」


 カメはいつでも冷静沈着。


「山のふもとまでかけっこして実証しましょうか? ――私ののろまさを」

「うぐっ……」


 しかも鋭く切り返され、逆にウサギがたじろぎました。

 いつもなら「だから何です?」としれっとされて終わるのですが、今日はカメもいい加減うんざりしたようです。

 こんなの初めて、でした。


「い、いいけど、暇つぶしになるし!」


 虚勢を張って誤魔化すウサギです。


「では、一週間後に」

「お、おう」


 実は寂しいと死にそうになってぷるぷるしちゃうウサギ。(本物はそんな事はありませんが)

 なので、カメから何らかの反応を返してもらえて実は満足でした!

 いつもカメに絡むのはそういう理由でした!


 一方、カメはとても努力家。


 砂浜でタイヤきは勿論、昔のアニメに出てきた全身バネのスーツで鍛えます。

 スポ根爆発です。メラメラです。

 と言うかカメにあるまじきカメです。


 そして迎えた当日。


「この葉っぱが地面に落ちたらスタートな」

「いいでしょう」


 で、葉っぱから手を離したウサギ。

 と、偶然の突風に見事に掻っ攫われ葉っぱはお山の向こうに見えなくなりました。


「「…………」」


 チョイスが悪かったようです。

 その飛んでった葉っぱをどこぞの狸だか狐が拾ってドロンしたのはまた別の話です。


 ハイTAKE2!


「このコインが地面に落ちたらスタートな」

「いいでしょう」


 で、コイントスをするウサギ。

 今度はちゃんと地面に落ち、両者同時にスタート!


 実況「おおっとおおお!? ここでカメが鍛錬の成果大発揮だあああっ!」


 地面に円形陥没ができる超絶蹴りでカメがマッハ5のスタートダッシュをかましました。

 一瞬にして、点です。


「……………………え? うそ……うそぉ……」


 ウサギ戦意喪失で棄権リタイア


 ウサギとカメ――――完!!






 ……としたいところですが、ここはどうせ負けるウサギに情けをかけて仕切り直しです。


「カメさあ、この話の大筋…わかってんだよな……? お前が先にゴールするのは、まあそうなんだけどさ」


 何となく控えめにメタ発言。

 それでいて物問いたげにウサギはカメを見つめます。


「ああ、先程はすいません、勝負事には手を抜かない主義でして、ですがこれは勝負にもなりませんし、話に合わせましょう」

「……お前、結構えぐるよな」


 何はともあれTAKE3!


「カメに馬鹿にされてちゃウサギの名折れ! うおおおーっし頑張るぞ」


 みなぎるやる気でウサギはよーいドンします。

 で、


「よっしゃーッ僅差きんさで俺の勝ちい!」

「いい勝負でしたね。やはりあなたは強い……!」


 ウサギの――勝ち。


 ウサギの……。


「――あ」


 ウサギ、自分にツッコム気力もなく、さあレッツTAKE4!!


「……なあ、俺たちの存在意義のためにも、頑張ろうな……」

「ええ」


 最早お疲れのウサギです。


 改めてやり直したかけっこは順調でした。

 物語の本筋に沿って両者とも進み、途中リードしている余裕というよりも、本格的に疲労が出てきたウサギは原っぱで一休みします。


「何か今日は疲れた……もう年かな、最近疲れが抜けなくて……」


 横になっているうちにうとうとし始めました。

 程なくしてそこを通りかかったカメ。


「おや? こんな所で昼寝……いえもう夕寝ですか」


 じっと疲労色濃いウサギの顔を見下ろします。

 ウサギなのに目の下にクマがいます。


「……全く、張り切って無茶するから」


 …………

 ……


 ――気配で、と言うよりも、何だかとても優しいものに包まれた心地でウサギは目を覚まします。


「ん……?」


 正体は、ふわっふわの毛布ブランケットでした。


「こんな所で寝てると風邪引きますよ」


 何とカメがそっと掛けてくれていたのです。


「温かいミルクもいかがですか?」


 思わずキュンとしてしまったウサギ。


「何て良妻賢母ッ……てそんな優しさ今はいいから。ありがたいけども!」

「いやしかし」

「走って!」


 ……折角上手く運んでいましたがやり直しました。


 その後彼らはTAKEいくつまで試みたのか……。


「だ……ぜえはあ……なもう、やめよ……はあ……」

「あ、そうですね。もうとっぷり日も暮れましたし」


 結局何かしらのトラブルが起き、二匹はとうとう勝負をやめました。


「なあ、カメ…晩飯……ぜえ……一緒食いに、行こうぜ……はあ」

「大変にお疲れですね。いいですねそれは。精の付く物でも食べましょう」


 カメなのにケロリとしているカメは嬉しそうに眼鏡を押し上げ、地にへばり付いているウサギに手を貸してやります。


「サンキュ。じゃあ、すっぽん鍋」

「――以外で」


 と言う事で、ウサギとカメ……未…――完!

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