第7話 雪女

※少し「第29話カチカチ山」と関係してます。



 ある所に茂吉もきち巳之吉みのきちという2人のきこりがおりました。


「そうだ親父、雪山登山行こうぜ!」


 若い巳之吉みのきちがポ○モンゲットしようぜ!的なニュアンスで誘いました。


「ほう、雪山登山か。危険だから準備は入念にして行こうな」


 巳之吉の提案にナイスミドルの茂吉は了承します。


 2人はそこに山があるから登るんだ!的な気概で雪山に登りました。

 そして山頂付近のとある小屋で一晩を明かします。

 きこりと言う職業設定意味ありません。伝承に従っただけです。


「猛吹雪になってきたなー。止むかなこれ?」

「きっと朝までには小康状態になるだろうさ。心配するな」


 不安そうな巳之吉に茂吉がダンディに微笑みます。


「親父……うん」


 包容力抜群でした。

 自分の父親にドキッとしてしまった巳之吉です。


 2人は凍死しないように囲炉裏に火を入れ寝入ります。

 息をあっためるためか中年故の冷え対策か、茂吉はネックウォーマーを引き上げ顔の下半分を覆いました。


 真夜中。

 囲炉裏の火も消えしんと静まり返る小屋の中。


 小屋の入口が細く開いて外から雪が舞いこんで来ます。

 眠る2人に忍び寄る影がありました。


「うふふ、こんなところに獲物みっけ」


 長い黒髪、白い着物をまとった美しい若い女――雪女です。


 まずは年嵩の茂吉を狙って凍える吐息を吹き付けます。


 憐れ茂吉はみるみるうちに白く凍り付き……――――ませんでしたー。


「んなッ、あなた……!?」

「フッこの俺が女子おなごの細腕に殺られるとでも?」


 細腕と言うか息ですが、実は起きていた茂吉、自身の着物の内側をピラッと雪女に見せ付けます。


「なっ……!! それはホッカイロ地獄……!!」


 茂吉の服には貼るホッカイロがびっしりと隙間なくくっ付いていたのです。


「フッ、俺の勝ちだな」

「むきー!!」


 いつから何の勝負をしていたのか知りませんが、悔しげな雪女は一旦退散。


「やれやれ、むきーと口で言う女子おなごが実際にいたとは」


 茂吉は難は去ったかと再び休みます。


 しかし雪女、諦めませんでしたー。


「うふふ、一度あることは二度あるのよ。油断大敵ってね」


 頃合いを見計らってまた仕掛けます。

 凍える吐息、ふうぅ~ッ!!


 しかし、


「――残念。俺はここだ」


 何と茂吉だと思っていた物は丸太でした。

 ああここで何となくきこり臭が。


「んなッ!? 今度は変わり身の術!? 不自然に覆面してるし、あなた何者なの!?」


 動揺する雪女、噛みつくように問いかけます。


「何者? フッ俺はただの茂吉だ。忍者の末裔のな」

「何ですって!?」


 忍者。

 覆面は防寒というよりその装束の名残りだったみたいですね。


「フッお主のような綺麗な女子おなごにむざむざ殺られる俺ではないぞ」

「えっ! き、綺麗!?」


 雪女は赤くなってうろたえ、恥じらいます。

 生まれてこの方、初・キレイもらいました。

 だっていつも怖がられるので。


「何度やっても俺の勝ちだろうから、諦めなさい娘御よ。世の中突っ走って良い事と悪い事があるのだよ」

「そんなのやってみないとわからないわ。それに覆面してて顔も見せない相手に説教垂れられたくないわ! 顔くらい見せなさいよこの卑怯者!」

「むう、そこまで言われては仕方ない。他の者には秘密だぞ」


 いや息子がメッチャ普通に素顔見てましたが、茂吉はネックウォーマーを引き下げます。


 雰囲気のあるダンディな素顔が露わになります。


「え……?」


 ――ドッキューン!!


 鉄砲で胸を撃ち抜かれたような音がしました。

 雪女の方から。


「お・じ・さ・ま……!!」


 雪女、目がハートです。


「ん? どうした娘御よ?」


 変化にこれぽっちも全く微塵も気付かない茂吉。


 物語は新たな局面へ。




 その頃、息子の巳之吉みのきちは騒ぎに気付いて目を覚ましておりました。


 けれど、雪女の隙を突いて攻撃を仕掛けようと機会を窺っていたので寝たふり。

 ……でしたが、どうにも雲行きが怪しくなってきて、出るに出られなくなっていました。


「――じゃ、じゃあ今度の勝負はババ抜き!!」

「俺はババ抜きも強いぞ」

「やってみないとわからないじゃない。私が勝ったらおじさまは私のものになってね!」

「フッお主が勝てたらな」


 で、


「ああん負けたわ~。じゃあ、次は棒倒しはどう?」

「お主の白魚のような手を汚すのは少々気が引けるな」

「え……!」


 茂吉の自覚ない艶ある流し目に雪女はよろめきました。


(あんッの天然ジゴロ――――ッッ!!!!)


 ジゴロ……女タラシの事です。

 巳之吉は心の中で叫んでいましたが、我慢します。息子としては父親のそういう場面を見たくないのでしょう。


「じゃあ、じゃあ~、次の勝負はこれ!」


 雪女が何故だか決然とそれでいてもじもじと何かの小箱を取り出しました。

 あれは某お菓子会社の売れ筋商品……細い棒にチョコが掛かったやつです。


「ポッキーゲーム!!」


 ああ言っちゃった。


(なん……だと!?)


 巳之吉の心がざわっとしました。


 ポッキーゲームとはその名の通りポッキーの両端を男女がくわえて徐々に食べて短くしていき、最後には――両者のお口がああああッ!なドッキドキなゲームです。


「ほう、それでいいのか?」

「ええ!」


 心なしか雪女の鼻息が荒いですね。

 まあいいでしょう。


「よくねええええええええええ――――ッッ!!!!」


 とうとう巳之吉が爆発しました。


 勝負開始を阻止しました。

 これも子供心です。親父愛です。

 ファザコ……いえこれ以上はよしましょう。


「この雪女め! 俺の親父をたぶらかすんじゃねえよ!!」


 いやまあたぶらかされてるのは雪女の方ですが。


「はああ!? 何よ息子は引っ込んでなさいよ!! 未来のママに向かって何よその態度!!」

「ママ!? っざっけんなお前なんか母親になったら食事はどうせかき氷オンリーだろ! メロンかイチゴかブルーハワイだろ!」

「コーラ風味だってあるわよ! パインとか抹茶も! あと小豆と白玉乗せたりだってするんだから!」

「へっ何にせよ全部冷や飯同然じゃねえか! そんなスッカスカな栄養で体力仕事のきこりつとまると思ってんのか!?」

「愛情はたっぷたぷよ!!」

「じゃかしいわ!! 料理からっきしな奴に親父を渡すか!! 親父は独り身だけどお前だけは認めねえっ!! ――食らえッ火焔かえんの術!」


 忍者の末裔だけあって巳之吉も忍術を使えました。


「攻撃!? 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるのよ! 今からママの教育的指導よ!!」


 雪女、氷の馬を出現させけしかけます。

 火と氷が激突!

 双方の攻撃は相殺され、じゅわわわ~と水蒸気が立ち上ります。


「くそっやるな」

「そっちこそ」


「うーむこの話はアクションものだったかな……?」


 顎に手を当て考え込む茂吉。

 忍者物でもないですよ、茂吉さん。


 ともあれ、茂吉には若者2人が痴話喧嘩をしているように見えていました。

 視力大丈夫でしょうか。


 それに実は常々息子巳之吉の嫁を探していた子思いの茂吉お父さん。


「ふむ。――――息子の嫁みっけ!」


 漁夫の利。

 万事丸く解決とばかりに嬉しそうにしました。

 器用に攻撃を避けつつ戦闘中の2人の肩をポンと叩き、


「2人とも、結婚しなさい」


 家長命令。


「「は!?」」


 2人が照れて動揺していると思った茂吉、大丈夫全てわかっているよと鷹揚おうように頷きます。


 そして――――、


 リンゴ―ン、リンゴ―ン。


「「ええええッ!?」」


 巳之吉と雪女の結婚式です。

 しかも鐘の鳴る教会でという西洋風。


 純白のタキシードとドレス姿の新郎新婦の2人。

 何でこうなった!?と酷く混乱しました。


 茂吉の忍術なのかもしれません。

 作者の面倒臭がりの結果かもしれません。


 2人はそれぞれ混乱しつつも、


(待てよ。俺がこいつと結婚すれば親父としたくても二重婚になって無理だ。ああだから一夫一婦制の西洋風か! それに敵を監視するなら近くに置いた方がいいしな)


 と巳之吉。


(そうよ。これが一番手っ取り早くおじさまの傍にいられる方法よね。おじさまを物にしたらボンクラ巳之吉とはさっさと別れちゃえばいいんだし)


 と雪女。


 打算塗れの決断をして受け入れました。

 仮面夫婦の誕生でした。


不束ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「どこ見て言ってんだよ!!」


 義父茂吉ちちに三つ指を着く雪女の挨拶に、ついつい巳之吉はツッコミました。



 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る