第48話 かぐや姫とジャックと豆の木のジャックが喫茶店で駄弁るだけの話。
※このパロディシリーズの「竹取物語」「ジャックと豆の木」の設定が少し入ってます。
【地球を蹴って月を足場に太陽系を飛び出そう】
これは西暦2xxx年何処でもよく見かけるスローガンだ。
その意味は言葉の通り、宇宙進出を推進するものだ。
地球規模で。
つまりは全世界の国々が国の大小や貧富にかかわらず掲げている。
よく見かけるとは実際にどの国でも道を三歩歩けば見かけるという意味だ。ものすごく推しまくっている。
そんな地球上のとある喫茶店では、一般人に扮した二人が休日を楽しんでいた。
かぐや姫がジャックを呼び出したのだ。
美貌のかぐや姫はどんな服を着ていても目を惹く。店内の他の客からは「あれかぐや姫しゃね?」「地球に来てたんだ?」と囁かれていたが、彼女の鬼のような形相から誰も本人だと確証を持てず話し掛けて来ようとはしない。無口で有名な彼女が先程からよく喋っているのもその理由の一つだろう。
「ったく、ホント月面基地も人間だけで造れなかったくせによく言うわよね。一体いくら月の都で援助してやったと思ってんのかしら! 恩のある月を足蹴にですって?」
「いやかぐや姫ちゃん、足場にだよ。足蹴にとまでは言ってないって」
「はっ、似たようなものでしょ。良いわよねジャックのとこはー、あの超巨大豆の木が国際宇宙ステーション軌道までの宇宙エレベーターに抜擢されて。遺伝子解析して複製されたのでそのうち第二第三の豆の木エレベーターができるんでしょ? 月までのも開発してるって聞いたわよ。左団扇よねひーだーりーうーちーわー」
「……世間の誰も思わないだろうな、かぐや姫の地がまさかこんなだとは」
「何か言ったジャック?」
「い、いや? ははは、でもさかぐや姫ちゃん達月の都の住人は誰よりも月と地球の往復が得意だろ。速さじゃ宇宙エレベーターは勿論どの国のロケットもまだまだ全然足元にも及ばないんだし、高速月の都ツアーでも組んでその長所を利用したら儲かるんじゃないの?」
「あー、うち岩石しかないから観光に向かないわ」
「人面岩あるじゃん」
「あー、マニアな客だけじゃ採算がねー。大体しかも牛車って……」
「え、ダメ? ロケットとかよりは差別化できて良いと思うよ。観光客だってそういう他とは違うのに乗りたいって人多いだろうし」
「だめだめ。宇宙公道の途中で脱糞するのはまあいいとして、時々ペテルギウスとかの赤い色の星見ちゃうと興奮して暴走するからねー」※ペテルギウスは赤色超巨星
「闘牛使ってたのか!? 知らなかったー……道理で速いわけだよ」
「それに月の都の人達って神通力にまかせて色々やってきたからか、肉体的に軟弱なのが多くてねー。牛にはほらその力効かないから暴れられたら手に負えないみたいなの。観光客に怪我でもさせたら大変でしょ」
「あー、そうかも。……あっでも逆にそのスリルを売りにしたら? いつ宇宙空間を漂流してもいいように宇宙服必須って銘打ってさ」
「まあそういうのもありよね。でも今の論点はそこじゃないでしょ。月を単なる中継地点って感じで蔑ろにしてる所でしょ。どうして月は月でリスペクトしてくれないの? そりゃ火星に基地も造りたいだろうし、更にその先にだって進出したいでしょうよ。だけど、永遠の重要地の一つとして月は入れておくべきでしょ。月は某美少女戦士の故郷でもあるのよ! 月には宮殿だってあるのにね! ……まあ滅んじゃったけどっ!」
思い余ったかぐや姫がテーブルを叩いてグラスの氷がカランと崩れる。
「お、落ち着いてかぐや姫ちゃん、こうも宇宙進出を推進してるのはさ、きっと人類もかぐや姫ちゃんみたいな宇宙人になりたいんだよ。リスペクトなんだって」
「宇宙人とか言うな月出身なだけじゃい! 竹から出てきたんだし、地球出身って言えなくもないんじゃい!」
「え、そこは素直に自分宇宙人でよくない? 人じゃないんだし。それに地球外生命体ってカッコいいのに」
「どこが? まだまだ地球人の宇宙人へのイメージはグレイ型のじゃない。ゴキちゃん系もあるけど、大半があの頭でっかちなもやしボディでしょ」
「ん? かぐや姫ちゃんも確かそれ…」
「じゃかしいわ! 赤子になったりって姿を変えられるだけよ。その一つがグレイ型なだけ。単にしつこい帝を諦めさせるためにあの姿を見せただけだし。言っとくけどこの姿が基本の基本よ」
「あ、そうなんだ、へえー、すごい特技だなあそれも」
けどたぶんそれ他の人誰も知らないよ、自分もだったし、竹取のお爺さんもお婆さんも未だに彼女をグレイ型だと思っているに違いない……とジャックはやや拗ねるような気分でグラスを両手で持ってストローを吸った。
せめて自分にだけは話しておいて欲しかった。
関係ないけど桃太郎印の桃ジュースがとんでもなく美味しい。気持ちが立ち直るレベルで。
竹ではなく桃から生まれた彼は色々な職業を試した結果、大規模な農業法人を設立して手広くやっていると聞く。犬猿雉という有能な三銃士ならぬ三獣達がサポートしているおかげさまらしい。自分もモンスター級な豆の木ではなく、何かポケットも然りなモンスターの一匹や二匹と仲間になっておきたかったな、と詮ない事を思ったジャックだ。
「まあさ、そうカッカしなさんなって。巨大太陽フレアの脅威もあるし、災害級のそれが起きた時はまさにかぐや姫ちゃん達の牛車しか動かせないだろうからさ、万一の際の救助や避難機関の軸として大きなビジネスチャンスも秘めてるんじゃないの、月の牛車って。そのうち皆も月がとっても大事って気付くって」
「それって左団扇?」
「ま、まあそれなりには?」
「ふーん、ならそれもいいわね。この機に月の地位向上だわ。何なら月の宮殿跡地も宇宙遺産に登録して人面岩周辺には食人エイリアンに住んでもらって本物のスリルを味わってもらうツアーなんて組むのもいいわね」
「え、そこはどうだろう。駄目だよ死人は」
「出さないわよ。本当に食べられるわけないじゃない。ギリギリでセーフっておちよ。……行方不明者くらいは出るかもしれないけど」
「絶対食ってんじゃんそれ! 全く、益々駄目だろ」
「うーんそうよねえ。まあ観光地化するのは追々考えるとして、よーし慰謝料がわりにがっぽり緊急牛車の資金もらってやるぞー!」
「私欲の善行……お伽噺のお姫様には時々人間性が疑問の人もいる良い例だなあ」
「余計な事言わない。ジャックはポロポロ馬糞みたいにこぼしすぎよ」
「馬糞……」
そう言えば糞が登場キャラクターにいる昔話もあったっけなあ、と小さくないショックで関係ない事を思い出していたジャックだった。
「それじゃ提案書なんかはどうやって作ればいいの? 教えてよジャック」
上機嫌になったかぐや姫がにっこりとしてジャックを見つめる。
ジャックはがくっと嘆息した。
「ふう、仕方がないなあ。じゃあ後でうちの会社来て」
「わかったわ♪ よろしくねジャック!」
「はいはい。……良かった機嫌直って」
「え?」
「ははは」
ジャックは照れを誤魔化すように残りの桃ジュースを飲み干すのに集中した。
美人は洋の東西を問わない。絶世の美女たるかぐや姫の笑顔には逆らえないジャックなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます