第11話 金太郎

 むかしある所に金太郎という男の子がいました。


 小さい頃から力持ちで、心優しき正義感の強い子でした。

 なので人様に迷惑をかけ、山で幅を利かせる横柄な熊に相撲を挑み、見事に投げ飛ばして大勝ちします。


 敗北を喫した熊、よろめきながらもニッと口角を持ち上げました。


「見事な技だったぜ。ここいらでは――力こそ正義イイイっ!! 金太郎、あんたが今からこの山の首領ドンだ……!!」


「え、いえ別にそこまでは望んでな…」

「野郎どもおおおっ! 新しい首領ドンにご挨拶しろおおおっ!」

「「「「へいっ! 熊っさん!」」」」


 強面の熊が一声かけるとわらわらと山の動物たち(やっぱ強面)が集まって、


「あの、だから僕は皆に迷惑さえかけなければ…」

「「「「就任おめっとうございます首領ドン!!」」」」


 一斉に頭を下げます。圧巻です。

 ああもう何言っても駄目なパターンだこれ、と早々に悟った金太郎は遠い目で受け入れるしかありませんでした。


「母上……すみません。僕はもう表では生きられない体に……」


 家にいるであろう母親を思い、小さく涙しました。


 それから山は平和になりましたが、金太郎は外出の度に後ろをぞろりと付いて来る熊をはじめとした動物たちに精神がすり減りそうでした。


「カンナで削られる木の気分ってこんな感じかな……」


 食事では――「「「「「毒見しやす! 銀匙持参しやしたあああ!!」」」」」

 着替えまで――「「「「「首領ドンに似合いの服を見繕っておきましたあああ!!」」」」」

 と寄って来られ、何処の王様殿様皇帝かって扱いです。

 便所でも風呂でも何処にでも「「「「「お供しやす!!」」」」」とくっ付いて来るのです。


 とある日など、


「街場にお出かけならアッシー代わりにあっしの背に乗って下さい首領ドン! これでも結構速いんですぜ!」

「え」


 すっかり金太郎の強さに心酔した熊から期待の目で申し出られ、優しい金太郎は頷くしかできませんでした。


 ――ウウウウゥゥー!!


「道路交通法違反! 熊は車両じゃありませんよ!」

「……す、すみませんすみませんっ」


 警察に止められ罰金食らいました。


「慕ってくれるのはありがたいけど、一人になりたい……」


 プライバシーなんて皆無です。

 いつしか、彼は設けた工房に籠って、あめ作りに没頭します。

 その時は工房の中で一人になることができたからです。


 金太郎あめとして売り出すと、国中に広まり大ヒットしました。


 今注目の実業家として経済雑誌にまで取り上げられるように。


「ああ、僕は一体何を目指してたんだっけ……」


 雑誌撮影のカメラマンの前でにこりと微笑みつつ、金太郎は虚しくなっていきます。


「はい休憩入りまーす。あこれ良かったらどうぞ。前号なんですけど、金太郎さんのもこんなカッコイイ感じになるかと」

「あ、どうも」


 金太郎は素直に受け取ると、前号の同じコーナーで人造人間を創り出したと言う狂科学者マッドサイエンティストの話を読みました。


「何だこれ狂ってる……っ、倫理観ガン無視じゃないか。ふてぶてしい顔してるし。そうだ、僕は……!」


 憤りと共に初心を思い出します。


「よし、人生リセットだ。今度は勉学に生きよう! 真っ当な科学の発展のためにも!」


 山に帰ると即行動します。

 二宮にのみや家に養子に出されていた一卵性の双子の弟――金次郎きんじろうに連絡を取り、


「金次郎、僕と人生交換しないか?」


 入れ替わりの話を持ちかけます。


「いいよ。兄さんの頼みだし、ににに兄さんの生活臭強い部屋で暮らせるなら俺はッ……!!!!」


 著しくブラコンの金次郎は二つ返事でした。


「でも時々会いに来てね! 今までみたく!」

「う、うん」


 弟の知られざる一面を見てしまい戸惑いしかありませんでしたが、金太郎はそれをも甘受します。

 熊たちにくれぐれも偽物とバレないよう後事を託し、金太郎はまきを背負って山を下りました。


 ――金次郎として。


 その後、勉学と言えば……と崇められる存在になったのでした。

 入れ替わりを戻したかは、誰も知りません。



 おしまい。

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