第15話 コラボ1「白雪姫×笠地蔵」

※もしも、白雪姫が森で出会ったのが笠地蔵だったら……。

※このシリーズの白雪姫とは別物です。

※真面目です。



 白雪は疲れ果てていた。

 継母である悪い女王に追い詰められ城から追われ、森で猟師から殺されそうになって、命からがら必死で逃げていた。


「もう、走れない……」


 病は気からと言うように、気力が尽きると体力が尽きた。

 力の抜けた足がわずかな凸凹につまずき、よろけて傍の茂みに倒れ込む。


「もう、駄目だわ……」


 そんなボロボロの犬のように憐れな白雪の目の前に、そのお堂は現れた。

 たまたま弾みで茂みを転がり抜け、そのまま伏した地面から何とはなしに視線を上げたのだ。


「あ……」


 時が止まった。


 雲の隙間から射し込む太陽光――天使のはしごと言うらしい――のように降り注ぐ木漏れ日。

 柔らかなそれが古色蒼然としたお堂の木の屋根に落ち、明と暗の境界線を刻んでいる。


 微かな風が、吹いた。


 さわさわとした木々の葉擦れの音を生み出し、緑の匂いを運び、耳と鼻腔びこうとをくすぐる。

 何処からともなく聞こえる小鳥たちのさえずりが彼女を慰め落ち着かせた。


「……そうだ、森はいつでもこんなに優しい音を、私にくれてたんだっけ」


 それよりも、見慣れぬ木造りの小さなお堂が、それから発せられる清冽せいれつな空気が彼女の疲れ果ててもう一歩も動けないと諦めていた体躯に不思議な活力与え、立ち上がって前進する生への執着を、希望の息吹を齎してくれているようだった。


 全部で七体の石の地蔵は言葉なく彼女を迎え入れてくれた。


 そもそも無機物の石像にそんな意思があるのかはわからないが、お堂の真ん前に辿り着いた白雪は、両膝を着いてただただ呆然と石の彼らに見入っていた。


「ああ、ああ……心が洗われる……」


 蒼穹の太陽以外に何かが光り輝いたわけでもなく、森は森として静かにそこにあったが、白雪は確かに光明に包まれていた。


 そして――――……


 所変わってお城。


「そろそろ死んだかしら。鏡よ鏡、教えて頂戴、白雪は今……?」



「出家しました」



 ――――完。

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