第31話 聞き耳頭巾

 ※マイナーそうなので、聞き耳頭巾の大雑把なあらすじ↓

 子狐を助け動物や植物の声が聞こえる頭巾を手に入れたお爺さんが、長者の娘の病気をクスノキの上に建てられた蔵のせいと知って教え、娘を救って褒美をもらうお話。




 とあるお爺さんが日課の柴刈りから帰る途中、一匹の子狐が困っていました。


 どうやら木の実を取りたいようですが届かないのです。


(はて、あれは柿の木。狐は柿も食べるんじゃろか)


 最近は狐もグルメになって……と思いましたが、お爺さんは親切心から柿をどっさり取ってやりました。


 ……おや?

 柿の木の傍にカニのお墓らしきものがありますが、お爺さんには関係ありませんね。

 そっちはそっちで何かがあるのでしょう。


 次の日、お爺さんが仕事から帰ると家の前で子狐が舞っていました。

 きっと柿がすこぶる美味しくて嬉しさの余り能を……まあとにかく待っていました。


「お主はこの前の狐っ子かい?」


 肯定に「く~ん」と鳴くと子狐はお爺さんを誘うように身をくねらせ……いえいえそう言う意味の誘いではなく「付いて来て~」とでも言うように誘導し始めます。


 原っぱを通り、しゃがんで小道のトンネルを抜け、大きな木の根元の穴に転がり込んでそのまま滑り落ちました。


「あぅちっ!」


 着地で運悪く腰を打ったお爺さん。

 痛みに耐えて顔を上げると、その先には子狐を迎える母狐の姿が。


 お爺さんに気付いた母狐はトコトコと寄って来ると木の枝で地面に……、


 ――うちの息子のために柿をたくさんありがとうございます。


 と記しました。


「何と! 字を書けるとは……!」


 ――おかげで美味しい柿がたくさん手に入り、それを売って無事に小金を稼ぐ事ができました。


 小金……。

 この時代、狐も現金が必要なのだろうか……お爺さんは狐に対する認識を改めねばと思います。


 と、母狐はどこからかボロくて小汚い頭巾を出して来ました。

 嫌な予感です。


 ――これはせめてものお礼です。


「え゛っ……」


 正直いらん……と思いましたが人の好いお爺さんはバレない作り笑いで受け取りました。


 狐の親子に見送られ家に帰ったお爺さん。


「ケモノ臭い……」


 頭巾からはぷ~んと臭って来ます。

 まあ獣の所持品だったので当然っちゃ当然ですが。


「にしても何でこれをくれたんじゃろ。まさか単にゴミの処分……? 被った途端に頭をがぶり、とか? いやいや穿うがった見方はいかんいかん。きっとあったかいからとくれたんじゃろ……頭が寒そうじゃから」


 最後のも穿った見方ではないのでしょうか?


「とりあえず被ってみるかの。……臭くて汚い未知なる頭巾を」


 お爺さんはチャレンジャーでした。


「む……! 動物や植物の声が聞こえる!?」


 被った途端に家のネズミや家の前の松の枝に止まっているスズメ、そしてその松の声が聞こえてくるではありませんか。


 しかも頭巾の声なのか、


「言語コンプリート率0.1パーセント」


 とか聞こえてきました。


「言語収集ゲーム!?」


 しかし、


「言葉が通じずとも心で通じることこそ尊い……!」


 断言します。

 名言もかくやです。


「ま、とは言え、動植物の言葉がわかるのは便利じゃ。暇じゃし、もう少し楽しもうかの」


 ころっと意識を変えて愛用するように。


 しかもはまって言語コンプリート率100パーセントを目指して世界各地を旅し始めます。

 マサイ族辺りともこの頭巾で会話できました。


 旅の途中、


 ――サイズ的に竜宮城に入れない……。あとさ、クラーケンて呼ばれるの不本意なんだ。


 深海に棲む巨大なダイオウイカ君の愚痴や、


 ――飛べないの。近代化の波で……。


 秘境に隠れ暮らすドラゴンさんの苦労話なんかも聞きました。


 そしてお爺さんは動植物たちや、時に土着の民族の助言や証言から、数々の秘宝を探し出します。

 いつしか同業者からはトレジャーハンター翁と呼ばれるように。


 お爺さんは後に語ります。


「サーカス王を目指しても良かったんじゃが、やっぱ男の子なら冒険じゃろ!」


 そんなある日、久々に家に戻ると、


「長者ドンの娘が病気らしいカァー」

「そうそう。何でもクスノキの祟りだとカァー」


 偶然カラスの世間話を聞きます。


「長者様の娘御が? それは大変じゃ」


 お爺さんは急いで長者の家を訪ねました。


「え? だ、誰だ……?」

「わしですじゃ。村の東に住むジジイですじゃ」

「ああ翁――って、え!? ホントに!? ヨボヨボしてたし、しばらく姿見なかったからもしかして鬼籍にって……」


 日に焼けた黒い肌と数々の冒険で鍛えられた逞しい肉体。

 ツルハシを担いだら様になる、最早別人の域に達していたお爺さんを最初わからなかった長者です。


「娘御が病気と聞きまして」

「あ、ああ、そうなんだよ。何人もの医者からさじを投げられて、もうどうすればいいのか……」


 打ちひしがれ、悲嘆に暮れます。


「――長者様、わしを信じて任せて頂けないじゃろか」


 医療ドラマの名医のような台詞を吐くお爺さん。

 もうわらにもすがる思いの長者は承諾します。

 世界を歩き回ったと言うお爺さんが何か取っておきの治療法を知っているかもしれない、そう思ったのです。


 しかしお爺さんは、真っ直ぐ娘の部屋に行くかと思いきや、庭の蔵に籠りました。

 すぐ隣にはクスノキがあり、その根っこに乗るように蔵は建っています。

 器用な大工もいたもんです。


「は!? あの、ちょっと翁?」


 困惑する長者を放置し、頭巾を被るとじっと蔵内で待ちます。


 ――自分、クスノキなんすけど、重い蔵が上に乗っててマジ痛いんすよ。誰か通り掛かった人がリア充と一緒にこの蔵爆破とかしてくれないっすかね。ホント蔵の存在ウザいからこの家のねーちゃんをちょろっと祟ってみたんすけど、すっきりしないっすね。ああホントブッ潰してえ。自分大きくなりたいんで。ホント成長したいんで誰かやって……。


 クスノキの独り言です。

 ぶつぶつぶつぶつとずっと小さく喋ってます。

 これは危険なクスノキだと直感したお爺さん。


「長者様、もしも本格的な外科手術が必要なら名医竹取の翁を紹介するところですが、此度の原因は怪異ですじゃ!」

「何と!?」

「ですから何があっても驚かないで下され」

「ああ、わかった!」


 世界を飛び回って得た知識から、翌日、お爺さんはクスノキにとある呪文を唱えます。


「――バ○ス! ――バル○! ――○ルス!」


 するとどうでしょう。


 クスノキの中に秘められていた滅びの力により、


 ――蔵ごとかよ! ああああああああ!


 クスノキは蔵を抱いたまま天高く昇って行きました。


「あ、ああ財宝が……木が昇っていく……」


 蔵ごとの消失に、呆然と見上げる長者です。


「治りましたお父様!」


 と、すっかり元気になった娘が部屋の障子度を景気よくスパーンと開けて飛び出してきました。


「おおおっ娘よ! 良かったあああ~ッ! ありがとう翁!!」

「蔵が重いとクスノキが怒っていたんですじゃ」

「おおっそうだったのか! てっきりあの天空の城の壮大な場面の再現をしたかっただけなのかと!」

「否定はしません」

「え……ああそう。まあ治療費と思えば安い安い。蔵は他にもあるし、まあいっか!」


 大らかと言うよりどんぶり勘定もいいところです。

 そう言うわけで、感謝されたお爺さん。


「――え? いらないの?」


 褒美は断ります。


「……冒険で見つけた財宝のおかげで実は長者様よりも財産あるしのう。全ては狐の親子のおかげじゃのう。そう言えば頭巾を用いて彼らと話をしたこと無かったのう。手土産でも持って行くかの……」


 たんまりと柿の実を持って会いに行きました。


 狐の親子は微妙な顔をしたと言います。

 ……だって別に好物じゃありません。


「どうせなら油揚げがよかった……」


 子狐が視線を逸らし、そう呟いたとか。


 そして……、


「言語コンプリート率100パーセント!!」


 聞き耳頭巾が宣言しました。



 おしまい

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