第26話 コラボ6「浦島太郎」×「狂?科学者」
俺は浦島太郎。
父親はいない。
母親は写真一つない父親を「海でしか生きられない人だったから」と愛おしそうに話していた。
しかも母親は水が苦手だった。
よく海の男と一緒になったなと思う。
海辺で夕食の魚を釣っていたある日。
「君君、浦島太郎君だね? 君はタイムトラベルをしてみたいとは思わないか?」
白衣姿の変なおっさんから声を掛けられた。
白衣と言っても医者の方ではなく、まんま怪しい科学者だ。
「時間旅行とは実に素晴らしい概念だろう?」
両腕を広げたおっさんがあおりの角度でやけに興奮して言った。
「興味ありません」
「あ、そう?」
「ええ」
「ふーん。そっかあ」
無駄に丁寧に断ると、おっさんは特に残念そうな顔をするでもなく、踵を返して去っていった。
たった一度海辺で会っただけだったので、おっさんの事は記憶からすっかり忘れ去られていた。
それからしばらくして、砂浜で虐められているカメを助けた俺は、
「うわああああああっ! 誰か助けてくれええええええッ!」
何故かそのカメに海へと引きずり込まれた。
「ぎゃあああっちょっと何その超人的な力!? んな力あるんだったら自分で悪ガキ撃退できただろうが!!」
「コレモニンムデスノデ」
「うっわ、喋った!? しかもカタカナオンリー読みにくつ! 漢字使えよ! ってか任務って何任務って!!」
「ツギハ リュウグウジョウ~ ツギハ リュウグウジョウ~」
「聞いてくれよ! バス仕様だし!!」
「エ~ トウチャク~ トウチャク~」
そうして俺は強引に竜宮城に連れてこられたのだったが、
「ようこそ浦島太郎君、海の中の我が研究所――竜宮城へ」
そこで待っていたのは何と――白衣の知らないおっさんだった。
知った顔(例えば海辺で会った変な科学者)だったら、お前かよッ!と突っ込めただろうが、如何せんどこかで見た事があるなー、誰かに似てるなーと思っただけだったので突っ込めなかった。
「あんたは……? 何で俺の名前を知ってるんだ?」
「私は君が以前」
以前!?
「出会った」
何だとじゃあやはり会ってるのか?
「変なおっさんとは関係ないしがない科学者だよ」
「結局初対面じゃねえか! わざわざ勿体付けてんじゃねえよっ!」
「いや、しかし、彼から話だけは聞いていたからね。知っているんだよ」
「話……?」
「是非ともタイムトラベルをしたいと、そう聞いている」
「きっぱり断ったんですけど」
「何? 断った? うーん君の願いを叶えてあげようと思ったのに。……でもやはりそうであったのか。あいつは常日頃から反対の事ばかり言うからな」
「わかってんなら俺の話した時も察しろよ!」
足元で実は屈強な
正直踏みつけたい……。
おっさんの思い込みほど厄介なものはない。
とは言えここに来た以上、俺は科学的に化合生成したという何やらよくわからない栄養だけは満点の食べ物で持て成され、AIによる適度なダンスレッスンに参加させられ、終いには脳波検査も兼ねた安眠カプセルで睡眠を取らされた。
科学の粋によって体調は万全過ぎるほどに万全になった俺は、帰還時に玉手箱を渡された。
「これは……?」
「折角だし、手土産だよ」
胸を張って自信満々に言ってのける白衣のおっさん。
中身が何かくらいは教えてほしい。
「いやー興味あったら開けてみてね」
「普通そこは決して開けるなじゃないのかよ?」
「えー? ははっ今となってはどっちでもいいよ」
ザ・テキトー。
「ハッシャ イタシマ~ス ハッシャ イタシマ~ス」
「それじゃあ、またね太郎君」
「……もう来ませんよ」
刻限が迫り、仕方がなく追究を諦めた俺は、また
「ふう、とんだご招待だったな……」
とは言え、玉手箱をどうしようかと悩んだ末に、ナマモノだったら嫌だからと思い切って開けてみた。
「――ッ!?」
ピカーッと眩い光が満ち溢れ、目も開けていられない輝きの奔流に呑み込まれた。
しばらく経って目を開けた俺は箱の中の手紙に気づいた。
『拝啓浦島太郎君。
君がこの手紙を読んでいると言う事は、私はもうこの世にはいないだろう』
「は? 何その感動の手記みたいなの」
『玉手箱の中には私の研究の成果、タイムトラベルの元が入っていたのだよ。
箱の光を浴びたのなら、君は三百年を過ごした計算になる。
その間君は光速よりも速い速度で過ごしたんだ。
詳しくは相対性理論を紐解いてみてくれ。
研究所で君をその時間の流れに耐えられる体にはしてある。
だから健康面では安心してくれていい』
「な、なに言って? 何年経ったって? 三百年!?」
『ただねえ、弊害があって、肉体はそれなりに歳を取っているはずだから』
「歳を……?」
『ざっと六十年分』
俺はまさかと自分の手を見下ろした。
結果は言わずともわかるだろう。
「何だよこの理不尽はあああああっ!!」
そう言えば砂浜の風景も全然違う。
俺は辺りを駆けずり回って様子を確かめた。
さすがは未来だけあって、科学は飛躍的に進歩しているようだった。
だが、誰も知っている奴はいない……。
砂浜に戻った俺は
と、その時、
「オヒサシブリ~ オヒサシブリ~」
海から上がってくる一匹のカメがいた。
「――お前は、
ああそうだ、こいつは機械だから……。
短い付き合いだったにもかかわらず、懐かしさにじわっと来た。
踏みつけたいなんて思ってごめんな?
「リュウグウジョウ 二 イッショニ イキマショウ」
同じ言葉を繰り返すカメに俺はしばし考え、首肯した。
「ここにいても、仕方ないしな」
「リュウグウジョウ デ タイムトラベル ソシテ モトノジダイニ モドリマショウ」
「え? 戻れるのか?」
「モドレマス ケンキュウジョ ヲ ツイデクダサイ」
「? 何で俺が?」
「ハカセ ガ タロウサン ノ オトウサン ナノデス」
「――え?」
顔も知らない父親の正体を知らされ、俺は驚いた。
同時に、海でしか生きられないと言っていた母親の言葉を思い出す。
そうか、だから竜宮城にいたのか。
「サア タロウサン」
「ああ」
そうして俺はカメにやっぱり海に引きずり込まれて竜宮城へ。
「――おじいさんが、おじいさんがっカメに……っ!!」
その光景を見ていた地元未来人が焦って通報したらしいが、過去人の俺には関係ない。
研究所に着いて、再びの光の奔流。
目を開けると、
「やあ、お帰り太郎君。未来はどうだった?」
白衣の父親が笑顔で出迎えた。
俺のためにタイムトラベルを研究していたらしい父親。
「……この時代が一番だよ」
何となく照れ臭くて、俺はそっぽを向いた。
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