第14話 親指姫

「お願いだよツバメ、僕の結婚相手を探して欲しい!」

「任せて下さい! 我が君のためなら最高のパートナーを探し出してみせましょう!!」


 とある花の国の王子に懇願され、とあるツバメは意気揚々と飛び立ちました。


 道中勝手に登録した結婚斡旋所のマッチングを試しましたが誰一人としてマッチしません。


「やっぱそうだよなあ。人としてのサイズがなあ……」


 ガリバー旅行記に出てきた小人の国は遠すぎて行けないし、一寸法師は男だからBLになるし、チビ友のティンカーベルには以前「果てしなく無理」と断られてるし……と悩むツバメです。


 正直、王子はモテません。残念なお顔なのです。

 それでも、


「僕は愛嬌あっていいと思うんだけどなあ。はああ、でもどうしよ……」


 一月経って一向に候補が見つからず途方に暮れるツバメは、飛行中もふらふらでした。

 気付けば、木の幹が眼前に……!


「――――アウチッ!!」


 大きな衝撃が体に伝わります。

 心労が祟ったのでしょう。


 けれど原因はそれだけではありませんでした。

 最近、ツバメはよく同じ夢を見るのです。

 チューリップから生まれた親指姫という少女を花の国に連れて行こうとする夢です。


 夢の中、出会った親指姫はとても可愛らしい天使ちゃんでした。

 夢で何故か瀕死の自分を介抱してくれた心優しきマジ天使です。


 会話ができるようになると花の国へと誘います。

 返事は保留でしたが脈ありで、快復したツバメは約束の日、わくわくと彼女が現れるのを待ちます。


 ですが……人は変わるもの。


「ツバメさん。私をお国に連れてって!」

「はい! 待ってましたー!」


 声の方に振り返って、顎が外れました。


 ツバメなのでくちばしが外れたと言った方がいいかもしれません。

 関係ありませんが金の天使エンジェルが出たら「クエーッ」と喜びます。

 とにかく言葉を失くしたようにツバメは愕然と、いや、慄然となっていました。

 そうしている間にも、親指姫はツバメの背に乗ろうと駆け寄ってきます。


 跳躍。


 大きな影がツバメを覆い隠しました。


「ァ……?」


 ズシーン!!!!

 プチッ。


「あら? ツバメさん? ねえツバメさんってば?」


 親指姫は、親指大→拳大に大変身!


 つまりは、拳姫になっていました。


 ぽっちゃり系どころじゃありません。

 ミニだるまです。

 最早別の生き物です。


 実はこの親指姫、ストレスで暴飲暴食。

 その結果がこれでした。


 なんせヒキガエルに誘拐され、コガネムシに誘拐され見知らぬ場所に置き去りにされ、挙句はモグラに結婚を強要され、親指姫は積み重なった不運に精神を病んでいたのです。

 両生類に昆虫に人とは遠い哺乳類。次は結婚できないどこぞの王子様と来たか、ああ人生終わってる……と内心思っていたことでしょう。

 それでもモグラよりマシ、と彼女は花の国行きを決めたのでした。


 重圧の下でツバメは王子との数々の走馬燈を見ます。


(ご、ごめんなさい王子……ぼ、僕には運ぶの無…理……)




 ――――ッッ!?


 ハッと覚醒したツバメはハアハアと荒い呼吸を繰り返し、全身骨折したはずの体を見下ろします。

 水玉のナイトキャップを被った自分の体は水玉のベッドの上で何事もなく機能していました。


「…………ゆ、夢か」


 もう何度目か忘れる程に、ツバメは同じ悪夢を見るのです。


「予知夢、だったらどうしよ……」


 ※なります。


 迎えた朝を寿ことほぐ気も起きず、ツバメは全身汗びっしょりでした。

 その夢のせいで寝不足にもなり、注意力散漫で木に激突し瀕死の重傷を負ったのでした。


 意識不明で運び込まれた場所は闇医者業をやって荒稼ぎしている金持ちモグラの穴ぐら。


「あら……? ツバメさんだわ」


 可愛らしい声がします。


 さあ、ここからが本当の物語おわりの始まりです。




 後日、憐れに思ったモグラの厚意でどうにか満身創痍のツバメは花の国へと帰還できました。


「申し訳ありません我が君。諸事情があって、だ、駄目でした……」


 報告のために無理を押して現れたツバメは痛々しい姿でした。


「ツバメ……!」


 よろよろと杖を突くツバメの健気さに心打たれた王子は、感極まって涙しました。


「いいんだ。いいんだよツバメ……!」

「王子……。そのうち絶対絶対いい人を見つけて来ますから」


 王子は優しくツバメを抱き寄せます。


「じゃあ、お前が私と結婚してくれ」

「は!?」


 幸せはすぐ近くにあったと気付いた花の国の王子。


「え。ちょっと待って、はああッ!?」


 ツバメも幸せを摑みましたとさ。


「だってそれじゃ色々まずい…」


 ――――幕。

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