第16話 コラボ2「シンデレラ×かぐや姫」
※このシリーズのおとぎ話とは別物。関係ありません。
シャンデリアは煌めき色取り取りのドレスの花たちが舞う豪華絢爛な舞踏会。
王子の結婚相手を探すための催しにシンデレラも参加していました。
一目シンデレラを見た王子にダンスを申し込まれ、恋のパワーなのかは知りませんが、二人は疲れ知らずにもかれこれ二時間は踊り続けています。
周囲は恋愛的な羨望と嫉妬(主に女性陣から)、そして体力的な羨望と嫉妬(主に男性陣から。とくに兵士とか)が混在していました。
ゴーン、ゴーン……と12時の鐘が鳴る音が会場に響き始めました。
「御免なさい! 王子様!」
それまでそれはもう周囲が胸やけするほど熱く見つめ合って二人だけの世界で踊っていたシンデレラは、ハッとして駆け出します。
「え、シンデレラ!?」
一体どうしたのかと王子は慌てて後を追い駆け、二人共どうやら俊足なのかあっという間に姿が見えなくなりました。
鐘が12回鳴り終わるまでに会場の外に出てそれなりに人目のない場所まで行けたのが納得できる走りっぷりです。
当然周囲は唖然。
流れていた優雅な音楽もピタリと止んでしまっています。
「痴話喧嘩かしら?」
「王子が変なところ触ったとか?」
「我が王子は婚前に決してそのような不埒な真似は致しませぬ!」
一般客の反応に普段から堅物な側近の一人が王子の潔白を訴えます。
(男だったらその気持ちわかる。だってあの子綺麗だった……!)
その他の側近はそんな事を思っていました。
と言うか、モテるくせに恋人の一人も作らず国のための公務優先と徹底していた王子の、隠れた情熱と走りの才能に、側近たちは元より、王子を知る皆が仰天していました。馬より早いんじゃね?……と。
「息子は気品の権化かと思っとったが、男として
会場の貴賓席に座っていた王子の父――国王がしみじみと、けれどどこかホッとした声で呟きました。
糖度が大分下がった会場では、楽師たちが気を取り直し演奏を再開します。
一方、あと数回で鐘が鳴り終わる頃合いにまだ追いつ追われつしている御両人の現在位置は、王宮を抜けて噴水のある庭を突っ切った先にある幅の広い階段でした。
ここまで来ると、二人とも実は瞬間移動できると言われても誰も疑わないでしょう。
正直お年寄りなんかは上ると聞いただけで心が折れそうな立派な階段をボルトもかくやな……いえそれ以上の猛スピードで下りまくる二人。
そこは訪問客が馬車を乗り降りする場所に通じています。
「シンデレラ待ってくれ! 急にどうしたんだい!? 僕に不満があったなら言ってくれないか!!」
「御免なさい! あなたに不満なんてないんです!」
「だったら何故!」
「門限だから!!」
「え」
「12時が門限なんです!」
「そうなの!? 早く言ってほしかった! いきなり逃げられると自信なくすよ!」
「御免なさい! もう私を忘れて下さい!」
「そんな! 門限なだけでしょ!? また後日会ってくれないのか!?」
「実家、遠いんです!」
「僕は遠距離恋愛でも平気だよ!!」
そう叫ぶ王子は気付きます。
「あちょっとシンデレラ、靴脱げてるよ!?」
「だからどうしても私は帰らなくてはなりません!」
「僕の言葉無視かい!?」
「帰らなくてはならないのです――月へ!」
「………………は?」
最後の鐘が鳴った時、王子は片方の靴を手に呆然と夜空を見上げていました。
階段を下り終えたシンデレラは何故か馬車の停まる場所に停まっていたかぼちゃの牛車に乗り込み、それは即座に月へと向かって行ったのです。
「さよ~なら~」
と空に尾を引く声を聞きながら、
「牛……なんだ」
引き留める術のない王子は何だか複雑な気分でした。
後日、王子は一日何度もガラスの靴を見つめては溜息をつくように。
そして空を見上げては顎に手を当てよく何かを思案しています。
夜も遅くまで部屋で何かをしているようでした。
側近たちは心配になりました。
「王子、そこまで思い悩むのでしたらいっそのこと王国中を捜しては如何ですか?」
提案したのは堅物な奴です。
その他の側近は内心ハラハラとしました。
あの夜以来、常に眉間にしわを寄せ思い悩んだ顔をしている王子の姿に、誰もが王子はフラレたのだと気付き気を遣ってその話題には触れないようにしていたのにっ。
すると王子はいつになく真剣な目を向けました。
「女子のパンティーをここへ」と命じられても、「畏まりました!」と反射的に返してしまいそうな、冗談抜きの顔付きです。
少しの間を置いて、王子は静かに瞑目します。
「……もう彼女は地上にはいないんだよ」
室内に沈黙が落ちました。
シンデレラが落としたのはガラスの靴ですが。
「それは天に召さ……いえ、王子……!!」
「そ、そうでしたか王子……! だから心労でこんなにやつれて……」
「それは心が痛いですよね王子……!」
勘違いした側近たちはおろおろとしてから涙ぐみ、口を揃えました。
「「「――後追いは絶対に駄目です!!」」」
王子はどこか困ったようでいて達観した優雅な笑みで応じます。
「そうだね。追いかけた事、ちょっと後悔してるよ」
その後、
「当時、我が国の科学はまだまだだったと痛感したものだ」
そう回顧録に記したとある国王がいました。
彼主導の研究開発により、魔法技術と航空宇宙技術の融合に成功。
月に一番乗りを果たしたのはその国だったとか。
――――おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます