これでも、おとぎ話パロディー。

まるめぐ

第1話 竹取物語

 ――昔むかしある所に竹取のおきなと言う者ありけり。



ばあさんや、今日も竹を取りに行ってくるよ」

「行ってらっしゃいおじいさん」


 老齢ろうれいの妻に見送られお爺さんは日課の竹取りに。


 けれどその日は何かが違っていました。


「ん? 何だか竹藪たけやぶの上の空にカラフルな光が……?」


 けれど気にせず作業に入ったお爺さん。

 とある竹が光っているのを見つけます。


「何じゃろなこの竹は? 中に何が入っているのじゃろうか? よし切ってみるか」


 そうしておのを振り上げました。

 ひと振り入魂!


 ぶっしゃあああああーッ!!


 梨汁ではありません。

 中からの、赤い……血…………。


「ぎゃああああああーッ!?」


 お爺さんの絶叫が野山に響き渡りました。




 日本最古の脳外科医、その名は――竹取の翁。


「バイタルは……ふう、ようやく正常値に……」


 頭に包帯を巻いた赤子を見下ろして、お爺さんは胸を撫で下ろしました。


 まさか光る竹の中に赤ん坊が入っていたなんて……。


 けれどお爺さんは無事にその子の手術を終えることができました。


「もう入ってもいいですか?」


 お婆さんの声です。


「ああ。もう大丈夫」


 自宅隣接の手術室に入って来たお婆さん。


「よかったあ助かって。何て可愛らしい子でしょう。身寄りもないようですし、私らの所で育てましょう」


 2人には子がおりませんでした。

 老夫婦はその子をかぐやと名付け、大事に大事に育てます。


 すっかり怪我も回復し驚くべき速度で成長したかぐや。


 けれども、よく無表情にじっとお爺さんやお婆さんを見つめる子に育ちました。

 見ようによっては常に物問いたげにも見えました。


 普段から口数も少なく、ちょっとした会話も続きません。


「かぐや、このご飯美味しい?」

「…………」


「かぐや、今日も小判がザクザクじゃったよ」

「…………」


 無言でじっと見つめて来ます。

 黒目の大きなぱっちり眼なので、目力すごいです。


 しかも時々月を見て何やらぶつぶつ呟きます。普段は滅多に喋らないのに……。


「交信しとるのかのう……?」

「交信してるんですかねえ……?」


 2人の困惑も意に介さず、かぐやは月を見上げていました。

 一体何の意味があるのでしょう?


 とうとうお爺さん、食事の席で罪悪感を堪え切れずこぼします。


「なあ婆さん、やっぱわしが斧でやっちゃったからなんじゃろうか……」


「違うと思いますよお爺さん。かぐやの本来の性格なんでしょうよ。そんなに悩まないで下さいな。私の教育方針を責められてるみたいで心が痛みます」

「あ……すまない婆さんや。何せ動物には今まで執刀したことはあったが、人には初外科手術じゃったからのう……ミスッたのかと……」


「大丈夫ですよ。確か犬と猿と雉にでしたっけ手術したのは? 皆お爺さんのおかげで人語まで話せるようになって、桃太郎ちゃんと鬼退治に行って大活躍だったじゃないですか。お爺さんの腕に間違いはありませんよ」

「そうかのう。ありがとう婆さんや」


 そう慰められて、かぐやからもポンと肩に手を置かれ、


「…………」


 無言で見つめられながらゆるゆると首を横に振られました。

 そうだよお爺さんのせいじゃないから気にするな。

 そういう意思表示です。


 3人はそういう団欒だんらんの日々を送り、かぐやは世にも美しい大人の女性に成長します。


 その絶世の美貌びぼうからいつしかかぐや姫と呼ばれ、その天女の如き容姿の話はあっという間に世間に広まります。

 かぐや姫が来てからと言うもの、お爺さんが竹を取りに行くと必ず光る竹の中に小判を見つけたので、夫婦は経済的に豊かになっていました。

 綺麗な着物をあつらえたり、大きな屋敷を構えられる程に。

 けれどそれは全てかぐや姫のために使われました。


 ある日、姫の噂を聞いた5人の貴公子が「かぐや姫と結婚させてほしい」と屋敷を訪れます。


「かぐや、求婚者が来たんじゃが、どうする?」

「…………無理」


 久しぶりの喋りです。三日ぶりでした。


 かぐや姫にその意思はないのだと伝えましたが、5人はしつこく食い下がってきます。


 そして数日後、かぐや姫にウケるかも、と何と五人は戦隊ヒーローの恰好をして現れました。

 情熱のレッド、冷静のブルー、癒しのグリーン、幸運のイエロー、策士のブラック。

 5人はかぐや姫の前でそう名乗りカッコイイポーズを披露します。

 皆タイプの違うイケメンだったので、巷の女子になら大いに受け入れられたでしょう。


 しかし相手はかぐや姫。


 相手が悪かったとしか言えませんでした。


「かぐや、皆すごく魅力的な方たちばかりじゃが、どうする?」

「とてもあなたを気に入ってくれてるみたいですよ?」


 お爺さんとお婆さんの問いかけに、かぐや姫は答えます。


「…………もっと無理」


 と。


「そうか」

「そうですか」


 ただ断っても納得しないだろうと、5人にはどう足掻いても絶対に手に入るわけがない宝物を探させることにして、何とか求婚を断りました。


 しかし今度は噂を聞き付けた時のみかどから求婚されます。


 国の頂点に立つ権力者の圧力……いえいえ熱烈告白に、こればかりは「……無理……は無理か」と悩むかぐや姫。


 なので本当のことを暴露します。


「わたくしは、月の住人なのです。もうすぐ月から迎えが来るので帰らなければ、よよよ……」


 なので本当に心から申し訳ないが結婚は受け入れられない、と。

 めっちゃ棒読み大根でした。


 けれど、


「ならばこのちんが月の使者を阻止してみせよう!」


 何故か帝は中国皇帝ばりの一人称で宣言します。


「「「え……」」」


 めんどくさいタイプだなこいつ、とかぐやもお爺さんもお婆さんも思いましたが、口には出しませんでした。


 ――どうせなら可愛い嫁欲しい……!!


 という帝の心中はかぐや姫を見つめるエロ目から見え見えでした。


 そして月からの迎えの日。


 何百何千という帝の兵が迎え撃ちましたが、あっさり眩い光の目くらましで役立たずと化しました。


「……使えねえ」


 とは誰の台詞だったのでしょうか……?

 如何様いかようにも考えられますのでお任せします。


「今まで育ててくれてありがとうお爺さんお婆さん。さようなら」

「かぐや! 行かないでおくれ!」

「かぐや! 残れないのかい?」

「…………無理」


 2人の懇願こんがんも、もはや彼女の十八番おはこ、定番の台詞で片付けられました。

 嘆きつつも潔く諦めるしかない2人。


「せめてもの気持ちに、2人にはこれを……」


 差し出された怪しい薬を受け取ります。


「あと、最後に本当のわたくしをお見せします」


 そう言ってかぐや姫は、すぽぽん、と衣どころではなく、何と人の皮を脱ぎました。


「「「えッ!?」」」


 2人は呆然としました。


「」が一つ多いのは陰から帝も見ていたからです。根性無し。


 そこにいたのは、つるっとした頭の大きな黒い瞳の妙に頭が大きいあの……。


「ああ、グレイタイプの宇宙人じゃったのか。じゃから表情薄かったんじゃな。にしても宇宙人じゃったとは……。昔アメリカで解剖実験に密かに参加させられたことがあったのう」

「あらあら全然気が付きませんでしたわねえ。これだと宇宙人って世間のどこに紛れているかわかりませんねえ。案外身近にもっといるかもしれませんねえ。……私がそうだったらお爺さんはどうします?」

「え!? ぅおっほん、……何年連れ添ったと思っとるんじゃ。わしの大事な奥さんなのは変わらんよ」

「まあ……お爺さん!!」


「さようなら~」


 かぐや姫と共に天に昇って行く牛車などもう目もくれず、老夫婦はラブラブで手を取り合っていました。

 因みに薬は日本一高いという山に持って行き、火にくべました。


 おしまいおしまい。


「……結婚早まらなくて良かったああああ!」


 御所ごしょに帰った帝は、心底ほっとした顔でガッツポーズを作っていました。


 今度こそおしまいおしまい。




 次は「桃太郎」行きます。



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