第13話 マッチ売りの少女

 ある寒い冬の日にマッチを売っている少女がいました。


「マッチ要りませんか~?」


 もう辺りは暗く、雪もちらついてきたとあって人々は足早に通り過ぎて行くばかり。

 マッチは一つも売れません。


「そもそも最近の人はチャッカマン使うもの。どうせならチャッカマンにしてほしかった……」


 一休みしながらしみじみ愚痴を呟いていると寒さで眠くなってきます。


「ハッだめだめ! 眠ったら死んじゃうわ!」


 パンパンと自身の頬を激しく叩いて眠気を覚まします。

 パンパンパンパンパンパンパンパン…………。


「…………い、痛た」


 叩き過ぎました。アホです。


「どうにか稼がないと……」


 頬をらしつつ少女は思案します。

 ピーンと何かを思い付いたようです。


「さあさあ皆さまご覧あれー! この三つのマッチ箱の中は全てからですが、今から一つだけにマッチを入れます。これから箱を動かしますので、マッチが入った箱を当てて下さい。当てた方には――賭け金の三倍!」


 そう言って一箱だけにマッチを入れると、シャッフル!


「さあ、どれだ!」

「真ん中!」「一番右」「真ん中」「真ん中」……。


 道行く人々が立ち止まり、こりゃ簡単だと賭けます。

 人間どの世界でも欲は尽きないようですね。


「正解は……一番左でした~!」


 全ての箱を開けると、どよめきが起こります。


「まさか」「信じられない」「どうして……」「うそ!?」……。


 ……少女はしたたかでした。マジシャンとしての腕も良さそうです。

 そうして何とか糊口ここうしのいでいた少女ですが、人は飽きやすい生き物。

 しばらくすると客は誰もいなくなりました。


「どうしよう。もうこうなったら素の自分で行ってみる?」


 今まで控えめに営業活動していた少女です。

 一人の品の良さそうな老紳士を見つけ駆け寄ります。


「あの、マッチ要りませんか?」

「いや間に合って…」

「便利で安全ですよ。発火点は約150度。頭薬は塩素酸カリウム、側薬は赤リンで両者をこすり付けないと着火しないようになっていて…」

「!? さ、326×256は?」

「83456」

「即答!? ……ベ、ベンゼンの化学式は?」

「C₆H₆……加えて言うと常温で引火性の強い無色透明の液体です」

「!!??」


 その他に100個ほど問いかけをしましたがことごとく正解。

 この子は凄い天才だ。ビンボーなのに……。

 老紳士は背筋がゾクリとする中そう思いました。


「実は私はホテル王なんて呼ばれている者なんだが、跡取りがいなくてね。是非ともうちの子になってくれないか! 君なら有能な経営者になれる!!」

「――ハイ! 喜んで!!」


 そうして少女はマッチをらずとも天国のような生活へ。

 人生捨てたもんじゃありません。


 ホテル経営の研修は順調。

 時に、


「お前のせいで飛行機欠航しただろうが!!」

「はあ!? あたしが雪降らせるのは雪女のさがなのよ!!」


 新婚旅行中の変なカップルがいたりしましたが、概ね大きなトラブルもなく研修期間は終わりそうです。


「彼氏欲しいなあ……」


 少女もお年頃でした。


「いつまで雪降らす気だ!」

「気の済むまで」


 まだ雪のせいで足止めを食らって、今日もまた派手な喧嘩をしている新婚旅行カップルを見ていたらそんな風に思ったのです。

 すると、


「あ! お義父様!!」


 雪女嫁が目を輝かせた先が気になって見ると、そこには和服のナイスミドルが。ダンディなオジサマが。


「はうっ……! 運命の赤い糸……!」


 ここでもどこぞのオジサンは若い娘に惚れられていました。

 時代の流れ、流行でしょうか……?


 ともかく、マッチ売りの少女の人生大逆転劇は、その後自叙伝として出版され大ベストセラーに。

 オジサマと薔薇色の人生を送ったかどうかは、ご想像にお任せしましょう。


 めでたしめでたし。

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