第3話 花咲か爺さん

※少し「第27話ピーターパン」と「第28話ジャックと豆の木」と関係してます。



 昔々ある所に人の出来たお爺さんとお婆さんがおりました。


 お爺さんの唯一の悩みは頭が薄い事……というか率直に言ってハゲなこと。

 お婆さんから、


「毎日飼い猫にめてもらってぽやぽや毛が生えてきた人がいるらしいですよ(実話)」


「何だって!? もっとくわしく……!」


 そんな話を聞いた時にはピラニアのように食い付き、本気で猫を飼ってみようかとも思っていました。

 普段はとにかく良心的な夫婦です。


 しかし光のある所に影は付きもの。

 隣人の老夫婦は顔を合わせれば、


「ああこんにちは、今日もハゲてていい天気ですねー、あっと失礼晴れててと言い間違えましたハハハハ」


 と雨でもそう言う意地悪で胸糞悪くなるようなケッタイな2人でした。

 髪の毛は憎たらしいほどにふっさふさでした。


 ある日、隣人夫婦が畑に入った白い子犬を苛めている所を助けたお爺さん。

 可哀想に思って自分の家で飼う事にします。


「猫じゃなくてもいいんですか?」


 そう気にしたお婆さんに訊かれるも、


「自分の髪の毛よりもこの小さな子犬の方が大事だよ」


 と。


「よかったですよ。あなたがそういう人で」


 微笑み合う2人。

 いい人オーラが後光と共に見えます。

 まだ仏になるには早いですが。


 そうして自分たちの子供のように大事に育てました。


 名前はポチ。


 ポチは2人にいつか恩返しをしたいと思っている優しい犬でした。

 なのである日、畑にお爺さんを呼んで吠えます。


「ここ掘れワンワン!」


「え、何だい? ここを掘れって? すごいなあポチは。ここ掘れって言えるのか。自慢のワンちゃんだよ!」


 そうしてお爺さんが畑を掘ると、


「――――!?」


 何と言う事でしょう。


 中からは輝かんばかりの新品のカツラが!!


「おおおお!? これは大判小判よりもよっぽど有難い! ポチよ、どうもありがとうなあ~!」


 お爺さんは大事に大事に家に持ち帰ります。

 今度は裏山でも、


「ここ掘れワンワン!」

「おおっカツラのバリエーションが増えた!! ああポチや~!!」


 お爺さんはまたもや大切に家に持ち帰ります。

 その後もポチが「ここ掘れワンワン!」というと新たなカツラがざっくざく!


 お爺さんの家は美容師の特訓にも使えるくらいカツラで満たされ、そのうち夫婦は美容師の資格を取る決心をして美容院を始めます。

 大繁盛しました。


 弟子には何故かオネエ言葉の雉もいました。


 その一連を見ていた隣人の意地悪爺さんと婆さんです。


「これは私らもポチの示した場所を掘れば大金持ちになれるんじゃないですか?」


 妻の言葉に意地悪爺さんは頷きます。

 そうして可哀想にも嫌がるポチを引っ張っていきました。


「早くここ掘れワンワンって言え!」


 なかなか吠えないポチに苛立った意地悪爺さんがポチを棒で叩きながら怒鳴ります。


「何故吠えないんでしょうね。――この駄犬が!」


 意地悪婆さんの言い方は妙に板に付いていました。

 因みに一瞬だけ意地悪爺さんの肩がビクッとなりました。


 憐れ痛めつけられたポチは、じっと意地悪夫婦を見つめます。


 その目は、最早犬のそれではなく……。


「何か怖っ! この犬! さっさと鳴けこの!」


 更に痛めつけるとポチはか弱い声で「ここ掘れワンワン」と一鳴き。


「ようやく鳴きおったか」


 悪役台詞そのもので意地悪爺さんがその場所を掘ると、中からはやはりカツラが……。

 ポチ、揺るぎません。

 けれどそれはポチが吐いた自分の毛玉で作ったカツラだったので、獣臭くで汚れきっていました。

 虫も沢山湧いてました。

 要するに……ゴミ。


 ポチは汚物でも見るような目を意地悪夫婦に向けています。


「馬鹿にしやがって……!」


「――死にたいようね!」


「……え。――え!?」


 激高した意地悪爺さん。

 横の意地悪婆さんの過激発言にギョッとして二度見しました。

 怒った意地悪夫婦……主に意地悪婆さんによってポチは殺されてしまいます。


 女を怒らせると怖い、そう実体験した意地悪爺さん。

 絶対に逆らわないようにしようと肝に銘じます。


 人のいいお爺さんとお婆さんはポチの死を悲しみました。


「なあポチ、お前がいたからここまでやって来れたんだよ」

「そうですよ、ポチ。私たちが不甲斐ないばかりに……」


 ごめんなあ、ごめんねえ、と嘆いた夫婦はポチの亡骸を丁重に埋めました。

 ポチのおかげで手に入れたカツラも一緒に埋めました。


 そしてお墓の印のように一本の苗木を傍に植えます。

 するとどういうことか、その木は有り得ない速度で立派な大木へと成長!


 2人は夢を見ます。


 ――お爺さんお婆さん、その木をうすにしてワン! それでもちをついてワン!


 夢の中ではポチも人語です。でも語尾に犬語は忘れません。


「ポチやあの世そっちは快適かい?」


 ――楽しいワン。豆の木伝って登って来た異国のつわものとかいるワン!


「そうか、なら良かった」

「体に気を付けるのよ?」


 ――ははっ心配しないでワン、僕もう死んでるワン。ってことで臼だワ~ン。


 お告げのような夢に従って、大木を臼にした2人は早速とその臼で餅をつきました。


 するとどうでしょう。

 餅がみるみるうちに大判小判に!


「わあ、こんな事があるものなんだなあ………………カツラの方が嬉しかった」


 驚きと喜びはありましたが、お爺さんは本音をつい漏らしました。お婆さんは呆れます。


 所変わって家同士の隙間。


「見たか今の? よし、あの臼を借りて餅をつこう!」

「ええ! 今度こそ大金持ちですよ!」


 意地悪爺さんと婆さんは巧妙に開けた覗き穴から様子を盗み見てほくそ笑みます。

 そうして家に無理やり臼を持ち運んで来た2人は餅をつきました。

 するとどうでしょう、餅は大判小判になるどころか、子供の玩具でよくある偽のお金に変わりました。

 お店屋さんごっこをして遊ぶと意外と楽しい一品です。

 けれど本物を追求していた職人の目を持つ2人には堪えました。


「何でこんなものに……!」

「完膚なきまで粉々に叩き潰して燃やしてしまいましょう!」


 怒った意地悪爺さんと婆さん。

 ただ、やはり妻の言動が恐ろしく感じた意地悪爺さんでした。


 ともかく、臼を壊して灰にしてしまった意地悪夫婦。


 それを知ったいいお爺さんとお婆さんは悲しんで、せめてもとその灰を持ち帰って保管します。


 また夢枕にポチが立ちました。

 もしかして成仏してないのでしょうか?

 2人は夢の中でやや心配になります。


 ――その灰を枯れ木にいてワン! いい事あるワン。ザプライズもあるワン!


 何故か意味深。

 首を傾げながらも、言われた通りお爺さんは枯れた木にその灰を振りかけました。

 すると何と言う事でしょう!


 枯れ木にみるみるうちに花が咲いたではありませんか。


 その際、強い風に吹かれて間違ってお爺さんの頭に灰が掛かりました。


「うわっ…ぷっ!」


 慌てたお爺さんでしたが、


「まあっお爺さん! 髪の毛が……!」


 灰はお爺さんの頭も枯れた枝だと認識したのでしょう。


 見事に髪の毛を再生させてくれました!


 サプライズです!


 以来、枯れ木に花を咲かせるお爺さんの噂は広まって、遠くはお殿様の耳にも届きます。

 興味を持ったお殿様の前で妙技を披露したお爺さん。

 実はお殿様も髪の悩みを持っていたため、お爺さんが灰を振りかけるとふさふさに。


「アンビリーバボー!! これは重ねて天晴れじゃあああ~! これは一休にも解決できぬ難題であったのにのおおおっ!!」


 お爺さんとお婆さんは、臣下たちがちょっと統治に不安を抱くほど狂喜乱舞したお殿様から褒美をたんまりともらい、帰って幸せに暮らしました。


 その話を聞き隣りの意地悪夫婦も、灰を奪って同じ事を試みましたが、枯れた木には一つも花なんて咲きません。

 しかも灰がお殿様の目に入ったり、大事な頭髪を汚したりして大激怒されてしまいました。

 そう言うわけで、ガチャガチャ、ガチャン。


「入れ!」


 ドン、ドサ。ガチャン、ガチャガチャ。


「沙汰があるまで待て!!」


 と、まあ当然ですが牢屋に入れられてしまいました。


「ああ、私らの人生何てこったい」

「そう言うな、命があるだけでもよしとしよう」


 入れられた牢屋の中、意地悪お婆さんの悪態に意地悪お爺さんは諭します。

 と、どこかからぶつぶつとお経のような呟きが聞こえてきました。

 意地悪爺さんと婆さんは声の出所がとある少年だと気付きます。


「異国人もいるのか。あんたまだ随分と若いのに、一体何やらかしたんだ?」

「……え?」


 しょんぼりしていた少年は意地悪爺さんの声に顔を上げます。


「いえ、その、調子こいてたらちょっと住居不法侵入の容疑と詐欺の容疑と未成年者云々……で」


 結構ありました。


「あんたも未成年じゃないのか?」

「ああ、ふふ、若く見えますけど僕これでも結構年で……あれ? 何歳だっけ?」


 少年は悩んだように自らの汚れた掌を見つめ下ろしました。病的です。


「ネバーランドにいるとついつい年数えるの忘れちゃうんですよね」

「あ、いや、やっぱりもういいよ」

「はあ、そうですか……」


 本当に意気消沈して壁の隅っこで丸くなって、しかもぶつぶつと独り言が激しい少年……いえ見た目少年を見つめ、意地悪爺さんと婆さんは「ああはなりたくない」と後に改心したとかしないとか。


 めでたしめでたし。

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