第55話 出会いは必然

 近づいて行くにつれ、解ったことがある。

「あの犬デカないか?」

「場所が場所だから、多少、発育過多なんじゃない」

「そんなもんかの~」


綺璃子キリコ、犬と遊んでるっちゅうか…襲われてるんちゃうやろか?」

「え~?大きいからそう見えるんじゃない」

「そうなんかの~」


綺璃子キリコ!! 助けてって聞こえたで!!」

「全力で、こっちに走ってくるわね…あの人…」

「助けてくれー!!」

 全速力で脇を駆け抜けて行った男の人より、真っ黒いデカい犬から目が離せなかった。

「アカン…アレ、ヤバイ奴や」

「頭が3つあるわ…黒くてデカいだけじゃなかった」

「アホ!! 後方にダッシュや綺璃子キリコ!!」

「アワワワワ…」

 綺璃子キリコの足は速かった。

 あっという間に、メタリックパープルのキャリーバックを引きながらも、先ほどの男を軽々抜き去り走り去る。

 岩陰に滑り込み、息を整える。

「オマエ…めっちゃ足早いな…ワシ、プライド折れたで」

「短距離には自信があるのよ…ゼェ…ただ体力が…ゼェ…無くなった気がするわ…オエッ…」

「そりゃ三十路やさかい…ガフッ…」

 綺璃子キリコがキッとイプシロン(仮)を睨む。

「見てみぃ…綺璃子キリコ、さっきの男、食われてるで」

「3つの口で食われても、身体は一つじゃ意味ないわね~」

「いやぁー、そうでもないんとちゃう?あるやん、ラーメンと、うどんと蕎麦を同時に食いたい時も」

「アタシは無いわ…麺類3種を同時になんて…ソレに」

 綺璃子キリコが黒い犬を指さす。

「なんや?」

「ひとつ寝てない?」

「食事中に寝るかアホ…寝とるね」


 黒い犬は食事を終えると、戻って行った。

「足パンパン…もう走れない」

「同感やね…」

「あー!!」

「なに?」

「車輪がもげたー」

「ええやん、4個もあるんや1個くらいええやん」

「バカ…アンタの足が1本無くなったらどうよ」

「……なるほど…ちょい不便やね…まぁそのうち生えると思うけどね」

「生えるの?」

「たぶん…」

「キノコみたいね」


 。--。

「しかし…えらいとこに降りたの~」

「まさか、あんな凶悪な中ボス感のある犬がいるとはね、予想を越えて来るわね、さすが地獄…あなどれないわ」

「あなどってたんかい!!」

「バス停まで戻りましょ…こんなとこにいられないわ」

「しかし…カイン兄さんの弟さん探さなあかんやろ…ほっとこか?」

「それも気持ち悪いわね」

「録音したしの~」

「う~ん、スマホから消す時、躊躇しちゃいそうな重い内容だったわね」

「殺人やからね…氷漬けやからね…」

「初犯で抒情酌量とか付かなかったのかしら…」

「計画的やったからの~肉親やしね…難しいんちゃうやろか」

「しかし…生臭い所よね~」

「犬はな…縄張りとかあるし、群れで生活しますやん、どうしてもね猫とちゃうのよ」

「ンゲッ…」

「なんや?変な声だして?」

「なんか踏んだ…あっ…」


「変な声出したいのは、こっちの方だ…カインの末裔風情が、私の顔を踏むとは…さすがカインの末裔…」


「キショっ…顔が落ちてる」

「何でもありやの…ここは…呆れるわ」

「落ちてるわけなかろう…さすがはカインの末裔…知性も低い」

「落ちてなければなんなのよ?」

「埋まっているのだ…カインの末裔よ」

「なんで埋まってるん?趣味?遊び?」

「趣味でも遊びでもない…強いて言えば罰だ」

「あ~はいはい…地獄だもんね、じゃあね、踏んづけてゴメンなさい。では」

 立ち去ろうとした綺璃子キリコ

「カインの末裔よ…頼みがある」

「また?手一杯なんです~複数のクエストを同時に熟せるほど、ココに詳しくないんです~無理ゲーです」

「ホンマやで…ココの連中は他力本願すぎるわ、タダで頼み過ぎる、そういうこっちゃから、こんなとこにぶち込まれるんやで」

「そうよ、他人を動かすのは、心とお金よ…悲しいけど」

「愚かなり…カインの末裔…いや、さすがというべきか…その姿は美しいが」

「さすが?美しい?褒めても何もしませんよ、もう…お話だけでも伺いましょうか?」

「けなされたんちゃうやろか…」


 。^^。

「まさかアナタがアベルさんだったなんて…」

「踏んでみるもんやのー、人の顔も…」

「そうか…カインに頼まれて…忘れたことなど無い…私は、あれから、叫び続けているのだから、カインの血を引く者を呪い続けるために…」

「暗ッ!!」×2


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