第12話 汝、病めるときも

「化け猫と結婚…」

「三十路の人間って…瞬きしてる間に老婆になるで…」


「いやいやいやいや…」×2


 というわけで…綺璃子キリコさんは、イプシロン(仮)の妖気が無いと、魂が抜けやすい状態に陥ります。

 ジトーッとイプシロン(仮)を嫌そうに見ている綺璃子キリコ

「感謝しぃや~、ワシのおかげで行きてんねんで~、ワシの気分次第ちゅうことやの~、オノレの命は…クックックッ…愉快やの~」

 綺璃子キリコの頭を尻尾でペシペシと叩くイプシロン(仮)


「そうなると思って…その首輪なんです」

「コレ?」

 グイッと乱暴に首輪を掴んでイプシロン(仮)を持ち上げる綺璃子キリコ

「そうです…イプシロンの妖気は、綺璃子キリコさんがコントロールできるんです」

「しゃあ! このやろう!!」

 グッと拳を握る綺璃子キリコ

「どうゆうこっちゃ…」


 先日の様な、本来の姿に戻るには綺璃子キリコさんの許可が必要になります。


「なんでやー、ワシなんて妖気が無ければ、ただの可愛いトラ猫やんか、メッチャ苛められるやん、野良ネコに、どつかれるやん…お魚献上せな、お散歩もできんようになるで」

「ざまぁ~、アタシに不利な条件なし」

「不利な条件って…オマエ…ワシの妖気で魂の蓋せな、1発昇天やねんぞ…なんで、そないに危機感ないんや…オマエが逝ったら、ワシ自由やしね…ワシ在りきのオマエやで」

「まぁ…互いに不自由な関係かもしれませんが…しばらくは、仲よく生活したほうがいいと思いますよ」

不破ふわさん…なんで?、ワシ自由になれへんの?」

「アナタも妖怪ですから…妖気が無ければねー」

「最低賃金みたいなもんは残るんでしょ?…ウソ…0もアリなの?コイツ次第で…ウグッ…」

 突然、イプシロン(仮)が苦しみだした。

「なるほど…こんな感じで使うのか~コツを掴んだ気がします」

「ほな…やめぇや…苦しいで…窒息してるみたいやで…息苦しいで…」


 。―――。

「じゃあ、そんなわけで…2人で頑張ってくださいね、あっ、今日の分の給料と…あと、イプシロン(仮)にも…はい」

「ワシにも?アリガトさんです、ホテイさんビールとカニかまやん、おおきに、毎度!」


「あっ、2人とも、明日は出張ですからね、1泊はできる用意してきてください」

「出張?」

「はい、温泉宿で、開かずの間を開けるそうで…何も無ければ、ただで温泉旅行になりますね」

「大好きです、温泉」

「広いお風呂ええな~、日本酒呑みながら、刺身かな…えぇな~」


「では明日、10時に出発しますからね、店は休みにしますので」

「は~い」×2


 。―――。

綺璃子キリコ、温泉やて…楽しみやの~」

「そうね~、久しぶりね~温泉なんて」

『開かずの間』なんて、微塵にも気にしていないのである。


「そういえば、アンタの名前、考えないと」

「どうでもえぇんやけどね…まぁなんやろ…しばらくは付き合うていくわけやしね…その辺を考慮してほしいけどね…センスっちゅうやつが試されるやん、ペットの名前て」

「アンタ…ペットの自覚が芽生えたの?」

「アホか、けどな…見た目はペットやん、日常に溶け込む言うんかな…そういう柔軟性もワシ持っとるよ」

「うん…妖怪って、たまに健気なんだね」

「せや…意外と身近におるけども、それと気づかせない微妙な距離感がないと、生きてけへん、昔は良かったけどな~、いて当たり前、そんな時代もあったんやで」

「へぇ~ナニ時代?」

「なに時代?知らんけど…あっ、でもなサッカーちゅうの?昨日やっとったヤツ、あんなん流行ってたで、もうちょい緩やかだったけどな、麻呂まろどうや?みたいなこと言いながら足でポンポンやっとったね」

「それ…どうなったら1点なの?」

「知らんけどね、やったことないし…当時の主人が好きやったで、庭で、ようやっとった」

「アンタ…ずっと飼われてんのね…妖怪の自覚たりないんじゃない?」


「今日は早く寝よ~っと」

「名前は?」

「明日、温泉入りながら考えるわ」

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