第36話 まやかし
「ようこそ、パウチの里へ」
外壁に囲まれた里、行き交う人、小人…全てが裸だ。
そして小人の陽気さに反比例して人間は陰気だ。
「楽しそやのー、めっちゃ踊ってるやん」
「そうかなー、酔っ払いの集団にしか見えないわ」
フラフラとおぼつかない足取りの人間、ただただ落ち着きのない小人。
「死ぬまで踊るって言ってたわね…」
「せやな」
「あそこで運ばれていくの、もしかして」
「考えたらアカン!! 思考を0にするんや
「どこに運ばれるんだろう」
「崖から、なんちゃらとか言うてなかったやろか…」
「崖から?なんちゃら?」
「いやぁー!! 取り乱すなやー、ただでさえ目立っとんねや、騒ぎを起こしたら、絶対…」
。―――。
「…こうなるやん」
「すいませんでした」
小人に囲まれ、身ぐるみ剥がされ、盆踊りの輪へ強制参加させられた。
「なぜに…盆踊り」
「盆踊りってちゅうたら死者へ捧げる踊りやもん、盆に踊るんやさかいの」
「さすが天国に一番近い島ね」
「しかし…ワシは普段のままやけど、オマエ恥ずかしくないん?」
「うん…なんだろう…みんな裸だと慣れるというか、馴染むというか…羞恥心が切り替わった感じ」
「ヌーディストビーチでは着ているほうが恥ずかしくなる的な発想やな」
「そういうものなのかもね」
「オマエ…戻る頃には変な趣味、覚醒させんといてくれな」
「はっ!! そうよ踊ってる場合じゃなかった!! 4時間しかいられないんだった」
「せやな」
「おばちゃん見つけなきゃ」
「せやな」
「アンタ探しなさいよ!!」
「アホか…アソコの屋台で焼きそば焼いてるのが、そのおばちゃんやボケ!!」
「えっ?なんで解るのよ~」
「よう見てみぃ、麺がパスタやん」
近づいて見てみると『イタリアン焼きそば』の文字。
「なるほど…話が早いわ、変な快感に目覚める前に退散しましょう」
(目覚めそうやったんかい!!)
「おばちゃん、一緒に来て、帰るわよ」
「えっ…アタシは…別に戻りたいなんて」
「なんで?」
「生きてても、いいことなんかないし…ここで死ねるならそれで…」
「はっ?なに言ってんの?」
「せやで、おばちゃん…なにがあったか知らんけど、ここは、まやかしの世界や、死にたい負の気持ちに死神が集ってできた里なんや」
「そうよ、知らないけど、さっきも死んだ人が崖にポイッてね」
「でもいいの…楽に死ねるなら、それが幸せなのよ」
「
「なにすんのよ?」
「ここの死にたがり共のバカに、現実を見せたるわ」
「アンタ…暴れないでしょうね?」
「大丈夫や…このまやかしを消し飛ばすだけや」
「そう…じゃあ」
。―――。
元の姿に戻ったイプシロン(仮)。
真っ赤な目をギラッで、パウチ達をひと睨みすると、パウチ達はクモの子を散らしたように逃げていく。
先ほどまでのお祭りが嘘のように、荒れ果て、朽ちた沼が異臭を放つ景色が広がる。
鉄板は、枯れた葉に戻り、そのうえで蟲が蠢く…。
「これが、ここの真実や…天国に行かれんような魂を地獄へ落とすための待機所みたいな場所なんや…」
おばちゃんは、そこで泣き崩れた。
「だって…なにも無いもの…独りで生きてきて、気が付いたら孤独で…歳を取ったら会社にも居られなくなって…居場所が無くて…キャリアなんて何の役にも立たない、アルバイト探すのでやっとの日々よ…疲れたのよ…まやかしでもいい…楽に死なせてくれるなら」
「
。―――。
「ところで…どやうやって帰るのかしら?」
「それは知らんで…」
「おい、パウチ、この人は連れて帰るで」
コクコクと頷く小人。
「で?どないして帰るんや?」
「往復運航してるのね」
「往復ってなんやろな?」
「さぁ~」
「
。―――。
「お帰りなさい、無事に戻れましたね」
「ただいまですわ、
「で、戻れたんですか?そのおばさんは」
「あぁ…身体の場所が違うから、別の停留所に置いてきたで」
「そうですか…後は、おばさんの人生ですからね」
「可哀想と言うか…他人事に思えませんでした…」
。―――。
それから1ヶ月。
「
「そうね…から揚げが食べたいわ」
「あの、おばちゃん戻ったみたいやのー」
「そうね…」
お弁当の脇には炒めたナポリタンがチョコッと添えられていた。
「やっぱ、これがないとのー」
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