妖貸し《あやかし》

第7話 頭も胃も痛い

「綺璃子（キリコ）～ちょっと来て～、零（レイ）さん、なんや、おかしなこと言い始めたわ」

「え～、今、DVDのホコリをね…」

「うん…せやけど…えぇ薬あったら飲ませてあげて～…いや…なんや変なクスリ飲んでるのかもしれん」

「綺璃子（キリコ）さん、どうですかね？イプシロンって」

「なにがです？イプシロンってなんです？ポンシロンの姉妹品？えっ…怪しげなクスリとかも売ってるんですか…アタシそういうのはちょっと…」

「なんでやねん!!　風俗で生きる覚悟までした女が、ギリギリのクスリくらいでなんや!!　ノーパンでコンビニで酒を買うことの方が人として恥ずかしいんやで!!」

「基準が解らないわ…脱法ハーブとかちょっと…」

「ん？脱糞ソープ…どんなプレイランドや？」

「いえ…伊部（いべ）　四郎左衛門（しろうざえもん）さんの名前」

「あ～改名の件ですか」

「なんや、改名の件って…在りきで進んどるやないけ!　現在進行形やないけ!」

「やっぱり、言いやすくて、カッコいい名前のほうがいいと思うんですよ僕は」

「そう？カッコいいね…時代も変わっていくしね…そういう柔軟性も必要なんかな」

「イプシロン…どうです？」

「イプシロンですか…この化け猫が…なんか名負けしそう」

「名負けてなんや!　負けるかボケ!　猫又やぞ、ワシ猫を超越してんねんぞ!」

「超越って…ボケーッと長生きしたら、尻尾が割れただけじゃないのよ」

「アホ、喋れようになったっちゅうねん、コミュニケーション能力が爆発したっちゅうねん」

「気に入りませんか？イプシロン」

「いや…零（レイ）さん…気に入らんちゅうほど拒絶はしとらんよ…なんや微妙に原型も留めとるしやね…ポンシロン感も混ざっとるし…」

「アンタ気に入ってるの…ポンシロン？」

「ん～、なんか…スッキリしよるね～クセになるっちゅうの？不思議とね…マタタビとは違う感じ？」

「知らないわよ…でポンシロンでいいの？名前？」

「アホ!　ポンシロンちゃうわ、イプシロンや…パンツ履いたら耳まで遠（とお）なるんかい？穴塞がるとでも言うんかい、アハハハハ」

　ボグッ!!

「痛いっちゅうねん…暴力的な女やで…これで生理になったらどないなるんやろ…怖いわ～猫又怖いわ～妖怪を気安く殴るような女やさかい…祟られるんやな…自業自得や」

　ボグッ!ボグッ!!

「せやから…堪忍してぇな～零（レイ）は～ん、パワハラでっせ!　ブラック認定や」

「綺璃子（キリコ）さん」

「はい、すいません、けど、この猫が…」

「いや…さわれるんですね～妖怪に」

「はい？さわれますけど…なにか？」

「ウソや…さわるなんてもんやない、殴るわ、蹴るわ…断じてさわるなんて優しゅうない」

「驚いた…そういえば、お地蔵さまの首を、もぎ取ったって言ってましたね？」

「はい…いや違うんです…たまたま、足元にあったというか…カブトムシが、その…踏んだら滑って」

「せや、踏んづけよってん!　なんや黒いパンツ履いとったわ」

　ボグッ!

「う～ん…今まで、そういうことがなくて…急に霊感に目覚めたか…危ないのかもな～」

「えっ？危ない？アタシ？」

「危険や…こないに妖怪をボグボグッと殴る女は危険や…生まれながらのPSや」

「PS？」

「パンチソルジャーや」

　しばらく考えていた不破さん…。

「行ってみましょうか…その場所へ」

「なんか怖いんでけど～」

「せやで、綺璃子（キリコ）!　怪異をなめとったら、怖いんやぞ!　行くんなら濡れてもええパンツに履き替えや!　なんや、その面積の小さいパンツは!　職場なめとんのか!!」

　ボグッ!

「もっと可愛がってくれる女に祟りたかったわ～こんなPS嫌やん…痛いやん…妖怪なのに痛いやん…痛いー!!　頭も、胃も痛い～」

「胃はアタシじゃないわよ」

「今夜…行きますかね」