第6話 名前は現代風に

「なんや気持ちわるい…」

「吐かないでよ」

「アホか、猫に吐くな言うんかい…でも胃薬飲もかな」

「そこに、ポンシロンあるから」

「コレかいな…苦いのう…胃薬は今も昔も変わらずに不味いのう」

「アンタ…何歳なの?」

「ちょっと覚えてへんけどね~、なんや飼われてたんやけど…兄弟どころか、飼い主も死んでしもうてね、あっ、4番目の猫やったから四郎左衛門やねん、まぁ…気づいたら、うっかり喋るようになって…知らんまに尻尾も2本になってるし…ちょっと普通と違うかなって…」

「発祥から適当なのね…」

「う~ん…まぁ幾つと言われてもね~陰陽師のアホに騙されて、いい気分で酔っぱらって、気ぃついたら封じられてたというか…寝たり、起きたりしとったら、クビがグキッてなって…イタッて思ったら自由になっとったね」

「今の感じだと…祟られる云われがないように思うんだけど」

「うん…感謝はしてるで、でもな綺璃子キリコ…ワシは妖怪や、憑りつけへんとアイデンティティいうもんがな…しゃあないことやで…堪忍やで、なっ、呑もう、今日は呑もう」

「アンタ…ホントに封じられてたの?アイデンティティって…」

「嫌なことは忘れたらええねん、呑んで忘れよう」

 グイッとホテイビールを飲む猫又 伊部いべ 四郎左衛門しろうざえもん

 見た目は、掌に乗るほどに小さいトラ猫、中身はおっさんだ。

「嫌な事…アンタの存在が嫌なんだけど…呑んで、朝起きたら消えててくれないかしら…」


 翌朝、しっかりと綺璃子キリコの足首を枕にして寝ておりました。

 なんかイラッとして、ヒョイッと足を抜くと、不機嫌そうにアクビして

「おはよーさん…なんや、自分、寝るときはノーパン派なん?」

 ドカッと蹴られてベッドから落ちる猫又。

 シャワーを浴びて、身支度を整えて出勤2日目の朝。

綺璃子キリコ…昨日と違ごうて、今日は地味やのー」

「うるさい!! 昨日は…その…勘違いでキャラ設定しただけよ」

「あれか! 転校初日にキャラ出そうとして裏目った感じか?」

「微妙に違うわ…」


 。―――。

「おはようございます」

「おはようございます、綺璃子キリコさんと猫又さん」

「おはよーさん」

「すっかり定着しましたね…こっちに…」

「おかげさんで、改めて 猫又やってます。伊部いべ 四郎左衛門しろうざえもんです、綺璃子キリコに祟っております」

「はい、よろしく…伊部いべ 四郎左衛門しろうざえもんさん…言い難くて長いですね」

「ですよねー、名前変えたくないんだそうです」

「そうですか、呼びやすいほうがいいんですけどね」

「ポリシー持ってやらしてもろうてます」

「ポン太とかどうですか?」

「なんでやねん、ポリシー言うたやん、ポン太ってタヌキ系やん、猫ですけどね」

「今日は~何をすれば…」

「あ~店番お願いします、大丈夫ですよ、とくに難しいことはないので」


 一応、レンタルDVD屋さんなのだ…表向き。

 レンタル商品は…マニア向けな古い映画が中心で、月額3,000円で借り放題の会員制。

 1回のレンタルで3枚まで借りれるということで、一応リストには100名ほどの個人情報が登録されている。

 計算すれば、1日3名ほどは来店することになる。

 10:00~24:00までの営業時間で、予定が無ければフレックスで8時間勤務してくれればいいとのことだ。

「ヒマやの~、2日酔いやしの~綺璃子キリコ…昨日の薬ある?なんやっけ?パンツシロウみたいな名前の薬」

「ポンシロンよ、バックに入ってるわ」

「おおきに…」

伊部いべ 四郎しろうさん、体調不良ですか?」

「妖怪にもあるんですかね…」

「まぁ…生きてればあるでしょう」

 すでに左衛門が抜けた。

「なんやコレ、スッキリするね、コレ、ポンシロン…名前もええし、弾けた感じがするわ」

伊部いべ 四郎しろうさん…胸やけですか?」

レイさんね~昨日、呑み過ぎましたんや…コレが効きますんや、ポンシロン」

「ポンシロン…イベシロウ…イベシロン…イベ…ポン…ん~イポン…イパン…イぺ、イプ…イプ…シロウ…イプシロウ…イプシロ…イプシロン!!」

「はっ?アンタはん…何ブツブツ言うてはるの?…レイさん?」

「イプシロンでどうでしょうか?」

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