第16話 座敷童

「さて…話を聞かせてもらいましょうか…」

 目が覚めた妹に不破ふわさんが話しかける。

「はい…」


 妹が、座敷童の存在を知ったのは偶然だった。

 出来心で、姉の後を、こっそりついてきたら、蔵があった。

 10歳年上の姉が蔵の奥に入って行った後で、蔵の中を見て回った。

 物置というには、物が無く、小ざっぱりとした広い部屋のようであった、窓は無いが。


 奥の扉から、足音が聞こえてきたので、慌てて小さな箱の裏に隠れた。

 姉は妹には気づかずに、蔵に鍵を掛けて出て行ってしまった。

 暗い蔵の中に閉じ込められた妹は、中からドアを叩くが、蔵の扉は開かない。

「開けてー、開けてー」

 泣きながら扉を叩いていると、奥の扉から女の子の声がする。

「誰かいるの?いるなら、こっちにこない?お話しましょうよ…お人形も沢山あるのよ」

 自分と同じくらいの女の子の声に、妹は、薄気味悪い通路を手さぐりで進む、声のする方へ…。

 通路は長く…細く…どこまでも続いているようだったが、突き当りには小さなドアがあった。

 少し開けるのをためらったが、ノブに手を掛け、ドアを押した。

 中は、ぼんやりと明るい20畳ほどの部屋。

 天上や壁に、御札がビッシリと張られている。

 中央に着物を着た、同じ歳くらいの女の子がチョコンと座っており、自分を見て嬉しそうに笑う。

「アナタが新しい守り人?」

「モリビト?」

「うん…ここから出て行かないから…だから…あんまりヒドイ事しないでね」

「えっ?アタシ、そんなことしないよ」

「そうなの…よかった…」

 そう言ってまた安心したように笑った。


 しばらく、女の子と遊んでいると、通路の向こうから足早な足音が聞こえてきた、バンッとドアが開くと、姉が立っていた。

「なんで…ここに…いらっしゃい」

 手を差し伸べるものの、姉は部屋に入ってこようとはしなかった。


「入れなかったんですね…お姉さんは…」

 不破ふわさんが、チラリと女将を見る。

「はい…私には、部屋に入る資格が無かったんです…」

「結界をすり抜けるだけの霊力がない…」

「はい」

「妹さんには、それがあった」

「代々、霊力が強いはずの家系なのに…私には…まるで、霊力がなかった…妹が憎かった…」

「お姉ちゃん…」


 女将として、家長になるには、座敷童を封じるだけの霊力が無くてはならない。

 鍵は、家長へ受け継がれるもの、妹さんが、それなりの年齢になれば、女将は妹さんに決まってしまう。

 それで…守り人として妹さんを閉じ込めてしまった。

 過去にも例はあったらしい、霊力が弱い女将が巫女を使い、守り人として封印の代わりを果たしたことが。


「私は、それで良かったの…でも…コトは…外に出たがっていたから…」

コトとは、座敷童ですね…」

「あっ、はい、それで私が、コトを外に連れ出したの…コトは戻るって言ったんだけど、私は、またずっと封じられたまま永遠に暮らすコトが可哀想で…」

「逃がしてしまった」

「はい…」

「アンタは…なんてことをしてくれたの!!」

 女将が妹に詰め寄る。

「お姉ちゃん…ごめんなさい…でも…間違ってるよ…こんなの…」

「この旅館は、座敷童がいなければ、どうなるか解っているでしょ」

「でも…」

「お願いよ!! コトを連れ戻して!! お金は払うわ、だから…早く」

「もう…やめようよ…お姉ちゃん…」


「なんや…えげつない話になってきたの~」

「めっちゃ、居づらいわね…」

「ホンマやの~」


「女将さん、座敷童はね、確かに住まわせてくれた家に幸福をもたらします、それが富であるとは限りません…俗に出ていくと没落すると言うのは間違いでね、結果、座敷童の力で富を築いて、努力を怠った人間が散財して没落していくだけです、彼らの力ではないのです」


「ウソよ…騙されないわよ…」

「お姉ちゃん…もうやめよ…2人で頑張ろうよ、この旅館を私たちの力で…ねっ」


 。―――。

「ええんかいの~レイはん」

「何がです?」

「あの旅館潰れるで~」

「大丈夫ですよ…ほらっ」

 不破ふわさんが指さした、蔵の上には、座敷童がチョコンと座っていた。

「アレ…座敷童」

「えぇ…妹さんが心配で戻ってきたんでしょ」

「封じられなくても…ちゃんと見守ってくれますよ」

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