第34話 ヒマだからってわけじゃないけど

「へぇー、失踪ですか」

「そうなんですって、だから、あのナポリタンはもう食べれないんですよ~」

「それは残念でしたね、僕も食べてみたくなりますね、そんな話を聞くと」

「無くなって初めて知る、ありがたみっちゅうヤツですわ、レイはん」

「アンタ、そのセリフ気に入ったのね」

 真顔でコクリと頷く、イプシロン(仮)。

綺璃子キリコさん、そのアパート解ります?」

「えぇ、お弁当屋さんの近所なんですって」

「ふ~ん…ちょっと行ってみましょうか?」

「はっ?」

「いや…そのアパート」

「なんでです?」

「失踪ってのがね…いや、関係無ければソレ以上関わらなければいいわけですし」

「えっ?なんかあるんですか?ソッチ絡みで」

「神隠しってこともね…」

「えっ?でも引き払ったんですよ自分で…」

「じゃあ、憑りつかれたとか」

「え~?そんな簡単に憑りつかれますか~」

「オマエが言うんかい!!」

 綺璃子キリコのおしりをホウキで叩くイプシロン(仮)。

 そして無言の…BAN!!

「無言で飛び道具使ぉてくるからね…性質たち悪いっちゅうか…」

 狭い額を擦りながら窓拭きするイプシロン(仮)、綺璃子キリコのBAN!!が眉間にクリティカルヒットしたのである。

綺璃子キリコさん、今日は早めに店を閉めて、そのアパートに行きましょう」

「はい…けど、なんでそんなに興味持ったんです?」

「ちょっと気になる記事を読んだんですよ、ほらこれ」

 不破ふわさんは、綺璃子キリコに新聞を差し出す。

「……今月だけで3件の失踪事件ですか……この区内だけで」

「事件性が薄いということで、目立った捜査は行われていないんですけどね」

「退去手続きも行われていますしねー」

「だけど、そこから先の足取りが~…」

「…掴めない…そんな事例が3件も、この地区で起きてるんです今月だけで」

「妖怪絡みなんですか?」

「さぁー、ただの犯罪絡みかもしれませんけどね」

「ただのって…」

「そうであれば、警察に任せておけばいいんです、今夜はその確認だけしておきましょう」

「構いませんけど~、依頼されたわけではないんですよ」

「そうなんですけどね、人に危害を及ぼさなければ放っておきますけど…」

「そうですね」

性質たち悪いのはおるからのー」

「あら?アンタ居たの?」

「居りましたとも!! ず~っと待ってましたとも!! 会話に混ざるタイミングを、ずっと待ってましたとも」

「なんでアンタ、涙目なの?」

「悲しいやら…話に混ざれて嬉しいやら…なんか目から溢れるとです!!」


 。―――。

「ここがそのアパートですか…じゃあ早速」

 不破ふわさんはバックからカメラを取り出して何枚か写真を撮り始めた。

(ポラロイドなんだ…なんか懐かしい)

 何枚か撮った写真をパタパタ扇いで、マジマジと見ている不破ふわさん。

「やっぱり…というか、なるほどねー」

「えっ?まさか?」

「えぇ…当たりですね」

「ほら」

 不破ふわさんが綺璃子キリコに写真を渡す。

 そこには、痩せたおばさんと、その手を引いて歩く裸の小人の姿が写っていた。

「なんですかコレ?」

「パウチですね」

「はい?」

「いや、この小人の名前です」

「それもそうなんですけど、この写真」

「あぁ、このカメラ、『ホラロイド』っていうんです、妖気やら魔力に反応して写真に写すんです」

「えっ?ソコにいるんですか?今?」

「いえ、違いますよ、コレは残った妖気を辿って写したんです、だから、日付が9日前になっている」

「日付?あっホントだ」

「つまり9日前の写真ってことです、妖気が強く残っていれば、そこそこ写るんです」

「便利で…不気味な道具ですね」

「ハハハ、パウチかー…ちょっと面倒だなー」

「強いんですか?その小人」

「いやー強いというか、性質が悪いんですよ、無邪気と言うか行動に悪意が無いぶんね」

「どんな妖怪なんです?」

「基本は天国で裸で毎日踊り明かしてるような陽気な妖怪なんですけどね、人間をさらって天国へ連れて行くんですよ、で一緒に踊らされるんです…死ぬまで」

「無邪気じゃないじゃないですか!!」

「いや、ほら悪意は無いんですよ、自分たちが楽しいから、寂しそうな人を誘うんですよ、踊りが下手だと崖から突き落したりして、人数が減ると人をさらっていくという…」

「性質悪いんですけど…」


(ワシ…影が薄くないやろか…この回で活躍する場所あるんやろか…寂しいんですけど…)

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