第44話 なんの夢みたんだろ?

「はぁ…ばくですか…家にいるんですね…そうですか…まぁ、飽きたら勝手に出ていくんですけどね…大抵は…えぇ解りました…明日、連れて来てくださいよ…ねっ」


ふわ破はん、なんやて?」

「明日、連れて来いって」

「オマエ、この珍獣をどうやって連れて行くんや?」

「アンタ用のリードがあったと…」

 綺璃子キリコが前屈みで押し入れに顔を突っ込む。

綺璃子キリコ…悲しいくらいに谷間が無いんやのー」

「小学生の頃からね…身長は変わるんだけど、ブラのサイズは不思議なくらい変わらないのよ…フォーエバーAcupよ」

「家計に優しい胸やったんやなー」

「あった!! リードあったよ」

「うん…本気でコレ連れて歩くんかい?」

「他にどうやって連れて行くのよ」

「せやのー……なんか犬とかにならんもんかのー」

「犬は無理でしょ、鼻が象だもん」

「せやのー豚の身体に模様がパンダで鼻が象やもんな~」

「何者にもならない感じよね」

「ビジュアルモンスターやで…コレ」

「このまま歩いたら、店に行く前に保健所か謎の研究所に連れて行かれそうね」

「まぁな…模様は犬用の服着せて…顔は~……モザイク処理せなアカンレベルや」

「わいせつ物と同じ扱いよね」

「困ったの~」


 。―――。

 翌朝…まだ薄暗い早朝…カラスがゴミを漁る前にマンションを出た綺璃子キリコとイプシロン(仮)

 獏に大きめのコンビニの袋を着せた…穴を空けて足が出るようにして…背中に赤い『7』が背番号のようだ。

 顔にも逆さまの『7』…やはりコンビニのビニール袋を被せてある。

 前がよく見えないのか、フラフラと歩く獏。

「ええんか…ホンマにコレでええんか…」

「大丈夫よ~、犬だもん」

「うっすら透けとんねんけど…獏がうっすら見え隠れしとんねん」

「違うわ、これは獏なんかじゃないわ!!」

「ほななんやねん…なんかキショイねん!!」

「これは…犬よ…名前はターンセブン…」

「開いた口が塞がらんで…ホンマ…」

「さっ、怪しまれる前にサッサッと行くわよ、フラフラしないの!! ターンセブン」

「オマエ…自分で怪しまれるて言うてもうてるがな…」

「急ぐわよ、ブツブツ言ってないで、ダッシュよ」

「引きずってもうてますやん…」

 伝説の幻獣『獏』をコンビニの袋で包んで引きずる女、綺璃子キリコ


 。―――。

「おはようございま~す」

「おっ、早いですね」

「そりゃもう…朝っぱらから家でてやね、ダッシュで出勤やん…めっちゃ早や着いてもうたやん」

「それが例の…」

「はいターンセブンこと獏です」

「ターン…セブン…なんですか?」

「名前です」

「命名したんだったら、飼ったらどうです…しばらく」

「嫌です」

「食費は掛からないし…あっ寝れなくなるのか」

「睡眠障害っていうか、スリープハラスメントですよ」

「パンイチで爆睡してるオマエに蹴られるワシもスリープハラスメントやん」

「とにかく、早いとこなんとかして、アタシを眠らせてください、肌が油っぽくなってるんです」

「大問題や!! 三十路のメイクは魔術みたいなもんやで不破ふわはん、もはや妖狐を超える幻術や!! メイク落とした綺璃子キリコのサッパリ感は、汁無しのそうめんやで」

 BAN!! BAN!!

「二連射かい…知らん間に腕上げとるの~」


「まぁ…開店前にどうにかしましょう、朝ごはん、食べててください」

「わーい」

 イプシロン(仮)が休憩室に走って行く。

「コレどうするんですか?」

「そうですね…どうしましょうかね、放すのは簡単なんですけどね、放した後、同じようなことを、どっかで繰り返すだけですからね」

「無害なようで、厄介ですね」

「しばらく飼いましょう」

「はっ?」

 紙とマジックで不破ふわさんがキュッキュッとPOPを作って、店の窓に張りだした。

『悪夢を忘れたい方、相談応じます』

「相談料5,000円ですか…」

「妥当でしょ…大人しいし、放し飼いよりはマシでしょうし」


「なんや飼うんかい不破ふわはん、もの好きやの~」

「散歩係り、任せましたよイプシロン(仮)」

「なんでや!! 猫が?猫やでワシ」

「ここで飼うんですか?」

「いやいや…ココではちょっと、このコンビニの袋に…チョイチョイと…コレでよし、被せてください」

「はぁ…」

 綺璃子キリコがコンビニの袋を被せると、獏が小さくなって袋の中で眠った。

「白黒のテニスボールみたいやの~」

 そうめんをすすりながら、イプシロン(仮)が戻ってきた。

「持ち運びも楽になります、簡易的な封印です」

「あ~飼うんですね…アタシが…」

「命名したしの…えぇんちゃうか」


「しかし…ハムって…なんの夢みてたんやろな?オマエ」

「さぁ…」


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