えっ?忘れられたの?
第53話 行くしかないじゃない
「よう寝てた気がするで…」
「コールドスリープ張りの空白期間を過ごしたわ」
「なぁホンマやで…気づいたら木星とか飛ばされてたりしてな」
「アハハハ……ワロえない…」
朽ちた立札には『コキュートス』とカタカナで書いてある。
そう、ここは地獄の最下層コキュートス。
無数に転がる氷漬けの人間達。
「コールドスリープじゃないのよね~」
「氷漬けや…ただの…」
「寒そうね…」
「寒いやろね…歯がカチカチ言うてるもん」
首から下が氷漬けにされ、転がされ、極寒の川に流され、もはや言葉を発することもできない無限地獄、地獄で最も過酷な場所、それがこの第九階層コキュートス。
「カイロ持ってきてよかったわね~」
「なっ、せやろ、必要やったやろ」
「しかし…なにしたらこんな寒いトコに落とされるのよ」
「ん?知らんのかい?裏切りや」
「えっ?それだけ?」
「それだけってことあるかい…一応地獄やぞココ」
「いやぁ~もっとこう生々しい罪かと思ってたから…」
「どないな罪やと思うてたんや?」
「えっ?おニューの下着盗っていったヤツとか窃盗的なのとか」
「違う意味で生々しいの…パンツ盗んでコレはアンタやりすぎっちゅうやつやで」
「買ったばっかだったもん…一度も履いてないのに…洗濯しただけなのに…」
「それを知ってたら盗らんかったろうにな~」
「盗ったヤツも、ここらにいるのかしら?」
「死んどったらおるんちゃう…もっと上の方に」
2人が顔を上に向けると…バチッと目があった青白い顔。
思わずニヘラッと愛想笑いして無言で挨拶する2人。
「ココから…出してくれ…頼む…」
歯がカチカチ鳴って聞き取り難いけど、とんでもないことをサラッとお願いされた。
「すいません…お力になれずに…あっ…アイム・ソーリー?」
「謝るとこ、ソコちゃうやろ…
「弟に…謝りたいんだ…逃げたいわけじゃない…」
「そう言われても…お気持ちは解りますけど~」
「そうですねん、生憎、カイロしか持っとりませんねん」
「私の名はカイン…弟アベルに…どうしても…」
イプシロン(仮)が
「人の話を聞かんタイプやの」
「ねぇ…だから地獄に落ちるのよ、こういうタイプは」
「ワシがビシッと言うたるわ」
イプシロン(仮)が顔を上に向けて、カインと名乗る男に指を突きつける。
「あんさんねー、そんな自分勝手なことばっかり言うてるから、こんな目に負うてるんとちゃいます?なにしたかは知りませんけどな、あんたがそういう態度を改めんと誰も耳を貸してくれませんで」
「我を知らぬ…我の罪を知らぬというのか…罪は消えたのか、ならばなぜ、氷は溶けぬのだー!!」
叫ぶ声の大きさに驚いた
「イプシロン(仮)…イプシロン(仮)ちょっと、こっち、早く」
手招きしてイプシロン(仮)を呼び寄せる。
「アカン…まさかの逆ギレや…」
「逆ギレどころじゃないわよ、アタシがあの人のこと知らなかったから怒ったの?」
「せやろな…中途半端な有名人だったんちゃうか?」
「世代ってものもあるわよね~」
「三十路世代のストライクゾーンちゃうかってんな」
「そうね…三十路は言わないで」
「まぁええわ、ほおっておこう、それがええ、まだまだ罰が足らんちゅうことや」
「そこの娘ー!!」
「呼んでるで
「アタシ?」
「そこの娘って、この状況でオマエやろ」
「マジ?そんな指名嫌よ」
「NG客みたいに扱うなや、行けや、なんやおもろそうやから」
ブツブツと小声で文句を言いながら頬を膨らませて逆さ吊りの首の下へ歩いて行く。
「なにか?」
「わが妹よ…我の願いを…頼む」
「お兄ちゃんやったんかい!!」
岩の陰からイプシロン(仮)がツッコむ。
「どの首が
「えっ?カシムって誰やねん!!」
「アタシのお兄ちゃん…生きてるし!!」
「ほな、なんでオマエが、
小首を傾げて少し考えて…
「なんでアタシがアンタの妹?」
「すべてのヒトは我が兄弟…」
(あ~やっぱりヤバイ人なんだ~)
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