第42話 眠眠蝉

「ミンミンミンミンよう鳴きよるのー」

「ねぇー、お盆も過ぎたら静かにしてほしいわねー安眠妨害よねー」

「不思議やのー、鈴虫が鳴くんわ心地ええのに、なんでセミは暑苦しいんかのー」

 休憩時間に、かき氷を食べながら恨めしそうに木に、しがみついたセミを眺めている綺璃子キリコ

「なんで、かき氷を食べると頭がキーンとするのかしら…これが無ければ、もっと好きになれるのに~」

 レンタルDVD店の休憩室で、おやつ休憩をとる綺璃子キリコとイプシロン(仮)、今日のおやつはかき氷だ。

 嫌いじゃ無い・・・けどキーンが苦手な綺璃子キリコ

「かき氷も変わったのー、レモン・イチゴ・メロン…ブルーハワイだけじゃないんよね、今は」

「そもそもブルーハワイって何味よ?」

「知らん…雰囲気や、なんやハワイの青い海を掛けて食べる爽快感やな」

「その理屈だと、海水味じゃない…」

「……ワシのマンゴーのほうが南国って感じがするのー、謎のブルーハワイより」

「派手よね、マンゴーそのものも乗ってるしね」

綺璃子キリコのは地味な色やけど何味なん?」

「コレ?焼き芋ミルク」

「はい?」

「だから、焼き芋にミルクよ」

「暑苦しそうな味やのー、夏に焼き芋って…」

「なによ!! マンゴーミルクだって、べったり甘そうじゃない!!」

「アホやの~、ちべたいフワフワ氷を、濃いマンゴーと甘~いミルクが優しく包み込んでんねん」

「アタシのだって、ねっとり焼き芋が包んでるわよ」

「ちゃう…包んでない…爬虫類のウ〇コみたいのが乗っとるだけや…なんや見た目が地味やねん」

「見た目は、まぁ、アレだけど…美味しいのよ、なんか、みたらし風で~」

「なんやマンゴーに変な香りが付いてるのわ、ソレか!!」

「いいじゃない、和風マンゴーじゃない、イチゴ大福みたいなもんじゃない」


 食べ終わって、スプーンを咥えながら、窓からセミを眺める。

「うすら10年も土の中でモゾモゾやってて、いきなり飛び立って…他にすることないのかしら」

「言うほど楽ちゃうんやないか?飛ぶって」

「疲れそうではあるわよね」

「鳥とちゃうからね、頑張って飛んでる感はあるわな、鳥は自然に飛んどるけど」

「いやぁ~鳥だって、ほら疲れるんじゃない?ダチョウとか飛ぶことを諦めちゃったわけだし」

「アホ、ダチョウなんて恐竜やぞ、ほとんど…」

「そうね…ニワトリだって間近で見ると怖いしね」

「せやな~、アイツラ気も強いからの~メッチャ突いてきよる」

「鳥類って喧嘩っ早いのかもしれないわ」

「せやね~思いやりに欠けるわな~鳥系は」

「そうなの?」

「せやで…鳥系の妖怪はヤバイのおるからの~」

「ヤバくない妖怪って…なんなのよ?」

「ワシみたいな人畜無害のも結構おるやん」

「焼肉屋さんもいるしね…」

「夜は焼肉行こか?綺璃子キリコ

「ダメー、節約するの、正社員じゃないの…ボーナスとか無いの…保険も無いの…アルバイトなのよ…会社員の保証がないのがフリーターってやつなのよ…不安だわ」

「せやの…そりゃ寝転がるほどうなされるわけやで…ココロの底の不安感が無意識化で悪夢となって浮かび上がるんやな…そうに違いない!! せやなかったら、あんなにパンツ1枚で暴れられるもんやない!!」

「寝相悪いんですか?綺璃子キリコさん?」

「そりゃもう、派手なパンツ1枚でよう転げまわるんやー不破ふわはん」

 バシン!!

「そんなことありません…昨夜はうなされただけです…覚えてないけど…下着も涼しいかな?って思って…布面積が少ないものを選んだだけです」

「はぁ…まぁ交代ですよ、店番お願いしますね」

「はぁい…」


「恥かいたじゃない!!」

「恥って…あの寝相のほうを恥と思えや」


 。―――。

「というわけで…今夜から1週間節約WEEKに突入します」

「なんでやねん!! ワシのホテイさんビールはどうなんねん」

「発泡酒です」

「嫌やん!! 麦とホップの風味が足りないやん」

「知りません…慣れてください」

「妥協したないんやー!!」

「バーベキューをBBQ味のスナックで我慢する感じよ」

「BBQ味って…何味やねん!!」


「で…今夜はコレかい」

 テーブルの上には、駄菓子のソースかつ数枚とタマゴ…。

「コレを…カツ丼に見立てて食べます」

「嫌や…小学生が悪ふざけで思いつくレベルのヤツやん」

「悪ふざけではありません」

 綺璃子キリコの顔は真剣だ…。

「そもそも哺乳類のお肉ちゃうもん…すり身やもん」

 無視してソースカツの袋を開ける綺璃子キリコ、フライパンに薄く油をひいて、ソースカツを並べてタマゴで閉じる…。

 シクシク泣きながら、丼にご飯を入れるイプシロン(仮)。

「はい、できた!!」

「うん…できたで…小学生の悪ふざけが今目の前に…具現化しよった」



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