第3話 怪異

「お~、いい具合に浸食してる」

「なにが?」

「感じませんか?」

「まだ、なにもされてませんから…緊張はしてますよ…」

「そうですか…」


「さて…ベランダにコレ干しておいてください」

「はい…」

 渡されたのは、10枚ほどのパンティだった。

(どんなプレイが展開されるのだろう…イメージプレイなんだろうか…)

「そしたら…部屋で寝ておいてください」

「寝る?」

「はい…すぐに来るでしょうから」

「はい…」

「僕は、下の部屋で待機しますから」

(大体、解ってきた…)

 下着泥棒の夜這いプレイだ。


 ヤダ…下着替え忘れちゃった…どうしよう…でも、そのほうがリアルかな?

 勝負パンティで寝る女ってどうだろう…リアルさが損なわれるかも…リピ客付くかな?」


 ギシッ…ギシッ…。

(誰か…ベランダにいる…やだ…ドキドキする…いい意味で)


 カチャッ…カチャッ…。

(ヤダッ…パンティ盗んでる…アタシのじゃないけど…なんか興奮する…いい意味で)


 カララッ、引き戸が開けられる。

 ミシッ…ミシッ…。

(足音が近づいてくる…やだ~、見下ろされている…布団めくられている…なんか濡れてきた…あっ掌が汗でってこと…違うわよ…ソッチじゃないわよ…ソッチってドッチ?)


「いぎやぁぁぁぁぁぁー」

「えっ?」

 アタシの悲鳴じゃない…覚悟は出来てたんだから…いい意味で。

 ベッドで上体を起こすと、薄暗い部屋で腰を抜かしてる男。

「初めまして…あの~なんか不手際ありましたか?」

 男は黙って、アタシの後ろを指さした。

「ん?」

 振り返ると、目が合った…というか…アタシの顔よりでかい目玉が…。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁー」

 今度はアタシの悲鳴だ。

 ソッチの覚悟はできてなかった。


「目~め~…」

 慌ててベッドから転がりだした、素早く窓を開けて外に出ようとしたのだが、開いていた窓がピシャッと勝手に閉まる。

 そして開かない。

 椅子を持ち上げてガラスを割ろうと叩きつけても、弾き返される。

「なに?なに?」

 後ろを振り返ると、巨大なヘビ、そのヘビを纏うように背の高い男が立っている。

「我が名はアンドロマリウス…汝、盗みを働きし者、悪しき者よ、その手が盗んだ物を返すがよい…苦痛と引き換えに、その罪を許そう…裁きを受けよ」

 男が右手をかざすと、下着泥棒がもだえ苦しみ始めた。

綺璃子キリコさ~ん、部屋から出た方がいいですよ、こっち、こっち」

 部屋のドアから、オーナーが手招きしている。

 カサカサカサッとゴキブリのように素早く這いながら、部屋をでて、ドアの隙間から中を覗う。

「オウェェェー」

 下着泥棒の口から、色とりどりのパンティが吐き出される…。

「あらららっ…何枚盗んだんだか…まぁ盗んだ枚数だけ苦痛は続くんだから、自業自得ですけどね…」

「なんなんですか?アレ?」

「ん、盗まれた下着ですが」

「いや…そっちじゃなくて、あの蛇男」

「蛇男なんて失礼ですよ」

 蛇男は『アンドロマリウス』

 ソロモン72柱の魔神の1柱で、地獄の36の軍団を率いる序列72番の大いなる伯爵。

 巨大な蛇を手にした人間の姿で現れるとされる。盗人を捕らえ盗品を取り戻し、悪と不正を発見し、あらゆる盗人やその他の邪悪な人間を罰するという悪魔だそうだ。

「悪魔が罪人を罰する?」

「悪魔は人間に仇なすばかりではありません、むしろ天使の方が性質が悪い…あっ…吐き終えたようですね…」


「お疲れ様です。アンドロマリウス様」

「うむ…して…此度の生贄は」

「そうですね…なにか御所望のモノはありますか?」

「そうだな…あの盗賊が、これほど集めていたモノ…これを貰おうか」

「そうですか…気に入ったものがあれば、何枚でもどうぞ」

「ふむ…その女のモノを盗みに来たのだろう…では、その女のモノを貰おうか」

「かしこまりました…さぁ…脱いで」

 オーナーが、にっこりとほほ笑む。

「えっ?」

「脱いで…履いてるパンティをお渡しして」

「えぇー」

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