第51話 高額当選おめでとうございます。

「アヤカシ銀行まで…急がなくていいわ…安全運転で確実にアタシを送り届けてください」

「はい…?」

「出してちょうだい、ヒーウィーゴー願います」

 スッと長い脚を組む綺璃子キリコ

「着きましたよ…970円」

「1000円で…おつりは結構です。ビックカツでも買ってください、アタシも天上人になっても、そういう駄菓子が存在するという現実を忘れませんから」

「……あぁ…毎度どうも…」

「そうね…毎度になるのかもしれないわ、今後ともよろしくしてあげたくてもよいわよ」


 長い脚を横にズラし、タクシーを降りる。

 目の前には銀行入口…そう滅多に来ることが無い建物。

(今までは、ご縁が無かったかもしれないけど…本日、今日から窓口スルーで奥に通される日々が始まるのよ)

 中には入らず、銀行の敷地内をグルグルと歩きまわる。

(なるほど…今度から、あの入口から出入りすればいいのね)

 今後、自分が来た際には裏口から入るものだと勝手に認識した綺璃子キリコ

 完全にセレブモードの妄想劇場が全速力で突っ走っている。

(行くわよアタシ…あのドアを潜れば今のアタシとはサヨナラね…バイバイ、アタシ…そしてハロー、新しい綺璃子キリコ)

「すいません…ちょっとご一緒していただけませんか」

 聞いてる割には、左右に並ばれグイッと腕を掴まれた。

「少々、強引じゃ無くて?」

「とりあえず…警備員室へ」

 多少、妄想劇場とは異なる展開だが…まぁ先ほどの出入り口から銀行へ入ることはできた。

「なぜ、敷地内をウロウロしていたんですか?」

「なぜ?フフフ…それは明日からの予行練習よ」

「予行練習?」

「そう…明日からセレブへジョブチェンジするためのね」

「はっ?」

「この銀行のお金はすべてアタシのものになるのよー」

「銀行強盗か?貴様!!」

「はっ?アタシが?」

「明日、襲うつもりだったんだな、仲間がいるだろ?…まずは警察だ」

「えっ?警察?なぜ?」

「なぜだと…しらじらしい、今、自分で言っただろ、この銀行の金を盗むと!!」

「えっ?言ってないわよー、盗まないわよー、でもアタシのものになりますけど?」


 。―――。

「で…」

「だから…銀行強盗じゃないんです~」

「無職で大変だったんじゃないか?」

「違うんです~今日からセレブなんです~」

「うん…強盗しても、セレブにはなれないぞ」

「誤解なんです~」

 場所を警察に移されて事情聴取の真っ最中。

「コレを…コレを見せれば解ります」

 ブラウスのボタンを外して、ブルーのブラジャーに挟み込んだアルミホイルをベリッ剥がす。

 胸に自己主張が足りないので、装飾には気を使っている綺璃子キリコ

「なにをしてるんだ!! やめなさい」

「コレを見てください…でも取らないでください」

「なんだねコレは?」

「夢を叶えるチケットなんです~」

「海外へ逃亡する気だったのか…呆れたものだ」

「違うー!! 海外は行きます、旅行でルーブルとか大英博物館とかインテリジェンスな教養溢れる場所へ行きたいのー」

「逃亡先はフランスとイギリスか…」


 。―――。

「それならそうと、なんで早く言わないんですか?」

「言ったもん。言ったつもりだもん…」

「はぁ~宝くじの換金ね…」

「誤認逮捕よー!! 訴えてやるー!!」

「お言葉ですが…任意の事情聴取です。逮捕してませんから」

「職権乱用よー!! 通報したのは銀行側です…その銀行側から迎えが来たようですよ」

「迎え?」

「えぇ…この度はご迷惑をとのことで銀行までお送りするということです」

「2度と、こんなところ来ないからねー!!」

「そりゃ…そのほうがいいでしょう。では」

 敬礼されて警察署を出ると、いかにもな銀行の方が車を回してきた。

「この度は…御迷惑をお掛けして申し訳ありません。お詫びといってはなんなのですが、当銀行でお茶など、ご用意させていただきましたので、よろしければご足労いただけないでしょうか」

「お茶…お茶だけ?」

「いいえ…甘いものもご用意しました…失礼でなければ」

「行く…失礼でないです…」


 今度は妄想通りに、奥のお部屋に通されて、紅茶とケーキをご堪能している綺璃子キリコ

(これよ!! こういうことなのよ!!)

「それで…当行にはサッカーくじの換金とお伺いしましたが」

「そうです」

「ご確認させていただきたいのですが…その後、お時間よろしければ、当銀行でのご融資や御預入れなどのお話を聞いていただきたいのですが…」

「いいですよ…持って帰れないし」

「左様でござますか…キミ、ケーキ箱で」

「アタシ…チョコのケーキ気に入りましたー」

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