第38話 死体が歩くからゾンビ

「いやぁー、人が住んでるようには思えないですねー」

「墓石なんだか、朽ちた石なんだか…アタシ、ダメだな~こういうとこ」

「まぁ…気持ちのいい場所ではないわな…」

 いつになくイプシロン(仮)のテンションが低い。


「ゾンビはともかく、念は凄いな…長居はしたくないなー」

 不破ふわさんの表情も少し強張っている。


「あの~、なんか幽霊的なアレがいるうんでしょうか?」

「ん…ハハハッ幽霊なんていませんよ、魂は、すぐに在るべき場所へ還るだけなんですよ」

「せや、オマエかて、この間、あっと言う間に直行したやろが」

「じゃあなんなのよ、2人のその緊張感は?」

「古い石…とくに思いを吸った石は浄化しないと悪しきモノに変わります」

「ここの墓石からの~その悪い念が漏れてんねん…」

「そうなの?で?どうなるの?」

「さぁの~…良くない場所ってだけじゃなさそうやけどな~」

綺璃子キリコさん、一応、いつでもイプシロン(仮)に妖気を戻せるようにしておいてくださいね…念のため」

「…はい…」

 ようやく、お弁当を持ってくる場所ではないと理解した綺璃子キリコ

「とりあえず住職さんに挨拶しましょうか」


 。―――。

 荒れ寺の中に通されて、粗茶を出された。

「この度は…」

 と住職さんが話すには、

 もともと古い寺で、お墓をお参りする人もいないままに無縁仏の供養だけをしているのだという。

 ところが、夏になると、この雰囲気満点の寺は、肝試しで訪れて、夜中に騒ぐ連中が増える。

 墓石にスプレーでイタズラしたり、勝手に記念品のように寺のモノを持ち出す輩までいる。

 警察にお願いして、一時期よりは静かになったとはいえ、まだまだ夏に墓場で遊ぶ連中はいるのだそうだ。

 そんなある日、オカルト雑誌の取材が入り、話だけならと請けてしまった。

 写真を何枚かと夜になってカメラマンが墓場に入ると、ソレはいたのだと言う。

「ソレと言いますと…アレですか?」

 綺璃子キリコが喰い気味に住職へ聞き返す。

「まぁ…見間違いだと思ったんですが…地面から死体が出てきたと…」

「それだけなら、事件でしょう」

「いえ…自力で出てきたというのです」


 カメラマンが言うには、つまづいて、転びかけた足元にワキワキと動く手が出ていたのだそうだ。

 なんだろうなーと見ていると…ゴボッと腐った頭が出てきて、這いだしてきた。

 その這いだしてきた腐った人は、辺りを見回して、ズルズルと足を引きずりながら、池の方へ歩いて行ったと…。

「噛まれなかったんですね?」

 綺璃子キリコは感染が気になったらしい。

「えぇ…襲われたとかはなかったようです、強いて言えばギックリ腰になったようで」

「人は食べないと…」

「なんでオマエ、メモとってるん?」

「大事でしょ」

「腹話術…お上手ですね」

「アハハハハ…」


「で、コレがその時カメラマンが撮った写真なんですよ」

「写真あるんですか?」

「はい、正直、見るまでは私も、そんな話信じられませんでしたよ」

「そりゃそうでしょうね」

 と不破ふわさんが写真を受け取り、マジマジと見て、綺璃子キリコ、へ渡す。

「コレがゾンビですか?」

「そうらしいですね」

「どれどれ…なんやコレ…思ぅてたんより、フレッシュやね…」

「うん…腐りたてっていうか…怪我した直後みたいな感じよね」

「まぁ後姿だけじゃなんとも…一応腐ってたって言ってたみたいですし」

「いやいや…腐ってるにしては、なんか汚れてるけどジーンズ履いてますよコレ」

「なぁ…アロハ着てはるしな」

「酔っ払いが墓場で大怪我して倒れてたんじゃないですかー」

「可能性は否定しませんけどね」

「よし解決や!! 帰ろ!! なっ、レイはん帰ろ」

「いやぁー、そういうわけにもねぇ」

 やりとりを見ていた住職さんが不思議そうにイプシロン(仮)を見ている。

「あのー、腹話術なんですよね?」

「そうですよ、猫が話しているとでも?」

 綺璃子キリコがサラッと嘘を吐く。

「そうですよね、ハハハ」

「そうですよ、アハハハ」

「まったく、どないなってんねん、この坊主は、頭の中もツルツルちゃうか」

 バシン!!

 綺璃子キリコがイプシロン(仮)の頭を叩いた。


「では…よろしくお願いします」

「はいはい墓場の見回りはお任せください」

「住職さんは?」

「えっ、私は、こういうのダメな性質でして…今夜はビジネスホテルへ」

 荒れ寺に残された3人、はたしてゾンビは現れるのだろうか?

 そもそもゾンビなのだろうか?

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