第30話 飛んで平安

「目が覚めたら平安でした」

「で?」

「いやぁ~なんでこうなったやら?」

「ほう…」

「ワシ、このあたりで産まれたんや」

「だから…」

「もし…ワシのせいやとしたら…スマンかったと先に謝っておきたい気持ちでいっぱいです」


「まろまろまろまろ、うっさいのよー!!」

「ホンマなんで、こうなったやら…」

 綺璃子キリコとイプシロン(仮)の周りで幾人もの麿まろ達が蹴鞠けまりに興じている。

「夢よね…」

「そう信じたいの~、飲み過ぎやと思いたい」

「試してみましょう」

「あっ?…痛いがな!!」

「夢じゃないんだわ…困ったわ、初体験よ…何年ぶりかの初体験よ」

「オマエの膜、破れるより大事おおごとやボケ!! シャキッと自覚せい!!」

「元凶アンタでしょうが!! どうせ、こんな特異点発生させるのアンタでしょうが!!」

「誰がグラウンド0やねん!!」


「お~う…綺璃子キリコ見てみぃ、池のほとりでカエルとウサギが相撲とっとるわ」

「あ~鳥獣戯画ね、アレは知ってるー」

「そうか、そうか…笑てる場合ちゃうな、アカン、完全に現実ちゃう」

「そうね、コンビニありそうにないものね」

「コンビニどころか…蕎麦屋も無いわボケ」

「どうするのよ!! 化け猫、なんとかしなさいよ」

「化け猫ちゃう言うとろうが!! ワシが連れて来たんじゃないんやで、どうにもなるかボケ!! オマエもワシも立場は一緒じゃ、イーブンや」

「つまり…アンタは何の役にも立たないってことね」

「言ったはずや…立場は一緒やと…」

「帰り方が解らんと…閉じ込められるで…コレ」

「どういうことよ?」

「気付けや、アホ…こんなことできるの妖怪だけや…」

「やっぱり、アンタ絡みじゃないのよ」

「違うわ…ワシの妖気はオマエの蓋代わりしとんねやぞ、オマエの妖気が引き寄せてんのちゃうか?」

「妖気…妖しい魅力が?」

「脳みそ湧いとんのか?オマエ妖怪にモテて嬉しんか?食われるだけやぞ」

「えっ?」

「妖怪が人間に近づくのは大概、食うためや…もしくは利用するためや」

「そうなの?アンタも?」

「ワシは人は食わん」

「じゃあ、軽く何か食べましょうよ」

「何か?って何を?」

「屋台あるし」

 綺璃子キリコが指さした方向に、何件か屋台が立ち並んでいる。

「んな…アホな…なんで屋台があんねん」

「知らないわよ、たこ焼き食べよー」

「たこ焼き!! なんでたこ焼きが売ってるんや…」

「美味しいねー、なんかフワフワ気持ちいいよねココ、ずっと居てもいいんじゃないかなって思ってきちゃう」

「せやなー…って、アカンがな」

 イプシロン(仮)は考えていた、たこ焼きを食べながら…。

(この世界はおかしい、平安のはずがない、たこ焼き美味しい…いや売ってるはずがない、だいたい金はどうしたんや?)

「どうしたの?かき氷食べる?」

「オマエ…少しは疑えよ!! ワシ、イチゴがええ」

「アンタ知らないの? かき氷シロップって色が違うだけで、味は同じなんだって」

「ウソやん…イチゴ味しますやん、ほなオマエのレモン味、食わしてみぃや…ほら違うやん」

「それが気のせいらしいのよねー」

「騙されとるん?ワシ騙されてるんか?」

「そうなるわよねーアハハハハハ」

「アホ!! かき氷ちゃうわ…この世界に騙されとるっちゅうとんねや」

「はっ?」

「ワシには解ったでー、犯人は、この中におる!!」

 キラーンとキャッツアイが光る。

 パシンッ!!

「痛いがな…綺璃子キリコ

「どこに居るのよ?犯人とやらは」

綺璃子キリコ…妖気を返せ」

「えっ?アタシ、魂抜けちゃうんじゃ」

「大丈夫や、すでに抜けとんねん」

「えっ?大変、大変」

「うん…勝手に返してもらうわ…」

 イプシロン(仮)が綺璃子キリコの額に手(前足)をプニュッとあてる。

(肉球♪)

「あっ…なんかだるくなってきた…」

「おとなしゅう寝とけ…」

 イプシロン(仮)の声が低く威厳のある響きに変わり、身体は光る金色の神々しい姿に変わる。

 空間を切り裂く様に前足を上から下へ振り下ろす。

 ザシュッ!!という音が響いて、風景がもやに覆われていく。

「なに…なんか不安なんですけどーイプシロン(仮)…」

「ワシに捕まっとれ綺璃子キリコ…犯人が現れるで」


 切り裂いた空間の向こうからヒタヒタと歩いてくる小さな獣。

「あっ、タヌキだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る